第8話:因果の終焉 ― 正義の果てに ―
光と闇が、森の中央でぶつかり合った。
凄まじい閃光が走り、空が裂ける。
因果の森の樹々が軋み、枝葉が泣き叫ぶように震えた。
リナは剣を構え、ナリアは左手を掲げる。
ふたりの身体を包む紋様が、互いに呼応し合い、燃えるように輝いていた。
> 「リナ。あなたの“正義”は綺麗すぎるの。」
「ナリア……それでも、誰かを救いたい気持ちは偽りじゃない!」
リナの叫びと同時に、剣が閃光を放った。
ナリアの影がその光を受け止め、森の奥まで吹き飛ばされる。
地を這う黒い靄が、リナの足元を絡め取る。
森が泣いている――。
誰のために? 何のために?
その問いが、森の声としてリナの心に響く。
> ――正義とは、誰のためのものか。
――守る心と、壊す力。その境界はどこにある?
ナリアが立ち上がる。
髪は乱れ、紅い瞳が鋭く光る。
だがその瞳の奥には、涙のようなものが揺れていた。
「……私も、昔は信じてたのよ。正義なんてものを。」
ナリアの声が震える。
「でもね、誰も救えなかった。
守ると誓った人を、この“力”で壊してしまったの……!」
その言葉に、リナの胸が締め付けられた。
彼女もまた、因果の力で傷つけた人の顔を思い出す。
森が再び光を放つ――二人の記憶が、空へと映し出される。
過去の罪。失った笑顔。約束。後悔。
それらが光の粒となって、森を満たしていく。
> ――選べ、リナ。
――力に呑まれるか、それとも“因果を超える”か。
リナは剣を胸に構えた。
胸の中央で、因果の実が脈打つ。
痛みが走る――だが、その奥に確かな鼓動があった。
「……私は、過去を裁かない。
でも、未来を変えるためにこの力を使う!」
その瞬間、剣が純白の光を放ち、因果の模様が砕け散る。
右半身を覆っていた黒の刻印が剥がれ、光の花弁となって舞った。
ナリアが目を見開く。
「それは……“因果を断つ光”……?」
リナが静かに微笑む。
「ありがとう、ナリア。あなたがいたから、私は“選べた”。」
森の奥から、一筋の風が吹き抜けた。
その風は優しく、どこか懐かしい香りを運ぶ。
光が森全体を包み、因果の声が静かに響いた。
> ――人は因果を背負い、歩む者。
――ならば、歩む限り、終わりはない。
光が収まり、リナは一人、静かな森に立っていた。
胸の中で微かに光る“欠けた因果の実”。
それはもはや呪いではなく、選択の証となっていた。
そして、リナは歩き出す。
滅びかけた森に、芽吹きの気配が戻り始める。
その背に、風が囁いた。
> ――正義の名のもとに、彼女は再び因果を紡ぐ。




