第7話:森の審判 ― 呼び醒まされた記憶 ―
風が止まった。
まるで森が呼吸を忘れたかのように、すべての音が消えた。
木々の葉が空中で静止し、光の粒が降り注ぐ――
その一粒一粒が、記憶の断片のように輝いていた。
リナとナリア。
二人の少女の間に漂う空気は、まるで鏡のようだった。
似ている。
だが違う。
同じ因果の力を持ちながら、根底にある想いが真逆だった。
「……あなたは、誰を救いたいの?」
リナが問う。
ナリアは微笑む。だが、その笑みはどこか哀しい影を帯びていた。
「私はね、誰も救わない。だって“救い”なんて、誰かの犠牲で成り立つものだから。」
その瞬間――森の奥で“何か”が目を開いた。
地の底から、低い鼓動のような音が響く。
それは森そのものの心臓の音。
“因果の森”が、二人の存在を審判するために動き出したのだ。
> ――汝ら、因果に触れし者。
――正義を名乗るならば、罪をも知れ。
地面が裂け、根が生き物のように蠢く。
幹のひとつひとつに、かつてこの森に迷い込んだ“人々の記憶”が刻まれていた。
苦しみ、妬み、悲しみ、そして後悔。
その全てが声を持ち、二人に向かって囁きはじめる。
「あなたも私も同じ……」
「守るために、壊したのでしょう?」
「正義の名の下に、どれだけの涙が流れたか……」
リナは耳を塞いだ。だが、心までは塞げない。
胸の中の因果の実が熱く脈打つ。
ナリアの左手もまた、赤黒い光を放っていた。
「……森が、私たちを試してるのね。」
「いいえ」ナリアが静かに答える。
「森はただ、“真実”を映す鏡よ。私たちが、どんな顔をしているかを。」
その言葉に、リナは剣を握り直した。
彼女の瞳の奥に、決意が宿る。
「なら――私は私の正義で、この因果を断ち切る!」
森が轟音とともに光を放つ。
無数の枝が二人を包み、過去と未来、因と果の境界が溶け合っていく。
その中で、リナは見た。
自分が“因果に選ばれた”あの日――
“正義”という言葉の重さに震えながらも、涙を拭って立ち上がった、幼い自分の姿を。
> ――因果は裁かぬ。ただ映すのみ。
――選ぶのは、いつも“人”だ。
森の声が消えると同時に、光の奔流が弾けた。
そして――二人の少女の運命が、再び交差する。




