第5章 断罪の光
> 朝霧が森を包んでいた。
リナはひとり、湖のほとりに座っていた。
右腕の紋様は夜の名残のように淡く光り、胸の因果の実が静かに脈を打つ。
そのとき――悲鳴が聞こえた。
村の方角だ。
リナは迷わず駆け出した。
足元の草を踏みしめ、風を切り裂くように。
かつて自分を追放した村へ、もう一度。
村では、一人の男が倒れていた。
顔に血を流し、狂ったように空を見上げて叫んでいる。
「あいつが……俺の頭の中に! 声が聞こえるんだ!」
村人たちは恐れ、誰も近づけなかった。
その男は、リナが知っている人だった。
かつて彼女が救おうとした木こり、タロだった。
リナは歩み寄る。
男が怯えたように後ずさる。
「来るな! お前のせいだ! 森が俺を見てるんだ!」
その瞬間、リナの右目が赤く輝いた。
彼女の視界に、タロの身体を包む黒い靄が見える。
靄の中に、無数の“映像”が浮かんでいた。
盗み、裏切り、そして――妬み。
リナは理解した。
これが、人の因果。
「タロ……あなたの中の闇が、あなたを壊そうとしている……」
「黙れ! 俺は悪くねぇ! 俺はただ……!」
リナは右腕を掲げた。
紋様が燃えるように光り、空気が震える。
因果の森の声が、彼女の中で囁いた。
『見る者は裁く者。
救いもまた、断罪のひとつなり。』
「……なら、せめて安らかに」
光が走った。
闇が裂け、タロの黒い靄が弾け飛ぶ。
男は静かに倒れ、穏やかな寝顔を浮かべた。
村人たちは沈黙した。
誰もが恐れ、そして理解できなかった。
リナはただ、祈るように呟いた。
「因果を断つ力……それが、救いであるなら。
私は、この罪を背負う。」
胸の実が脈打ち、微かな声が聞こえた。
『これが、おまえの正義か――リナ。』
風が吹き抜ける。
彼女の黒髪が夜空のように揺れ、目の奥で紅い光が煌めいた。
それは、最初の断罪の夜だった。




