第3章 祈りの果て
> 村に戻ったリナを、誰も迎えなかった。
祠から帰ったその夜――
彼女の右腕に刻まれた紋様は、布の上からでも透けるほど赤く輝いていた。
肌は月のように白く、髪は闇のように艶めく黒へと変わっている。
その姿を見た者たちは、一瞬で“それ”がリナであることを忘れた。
「……あれは誰だ?」
「祠の呪いを受けた女だ……!」
「近づくな、目を合わせるな!」
恐怖が、言葉よりも早く広がった。
リナは声をかけようとするが、誰も耳を貸さない。
いつも笑いかけてくれた子どもたちさえ、母親の腕にしがみついて怯えていた。
「待って……! 私は、リナよ! 祈りの丘で、いつも――」
叫んでも、誰も答えない。
ただ、視線だけが彼女を突き刺す。
まるで、罪人を見るように。
夜になり、リナは村を離れた。
山道の上で立ち止まり、遠くの灯りを見下ろす。
それは、彼女が守りたかった場所の光。
胸の因果の実が微かに光る。
まるで嘲笑うように、あるいは慰めるように。
『正義を語る者ほど、他者の恐れを知らぬ。
だがそれこそが、真なる因果。』
森の声が再び、リナの中で響いた。
「……それでも、私は信じる。
この姿でも、誰かを救えるなら――それが、私の正義だから。」
風が、彼女の髪を撫でていく。
月明かりに照らされたリナの右半身の紋が淡く脈打ち、光がひと筋、夜空へと昇った。
それは、祈りのようで、涙のようで。
村人たちはその光を見て、「災いの兆し」と囁いた。
だが、リナだけが知っていた。
――それは、彼女の“正義”がまだ消えていない証だった。




