記憶に刻まれた、最初の君 -3
腹ごしらえを終え、別れ際、彤生は梨語で相手と軽く会話をした。聞き取れなかったものの、その声の調子から予期せぬ出来事が間もなく起こるであろうことが予見され、今の私の心境は徴兵のくじ引きを引く時のように落ち着かない。
[どうだ？彼女は何て言っている？]
私は緊張を抑えようと努めたが、その効果は自分自身さえ納得させられないだろう。
彤生はそのまま黙ってある路地に入っていき、私は訳も分からず付いていくしかなかった。 複数の携帯電話、自分から話しかけてくる態度、そしてまるで違法薬物を過剰摂取したかのような性格、今になって私を一人で路地に連れ込むなんて、もしかして、彼女は実は…。
[フフフ、人ってのはな、たまには、信じ難いものを疑わない方がいいぞ。]
彤生が突然口にしたこの一言が、元々陰鬱な空気に満ちていた路地に立体感を与えた。
順雨は一抹の違和感を覚え、本能的に足を止めようとしたが、狭くて人通りのない路地の後方にはいつからか三人の人物が尾行しており、彼には立ち止まっている余裕がなかった。
[人身売買って聞いたことある？ここは逆紅だぞ。]
[まさか！そんな、本当に思いもしなかった…君がまさか！]
彤生は突然順雨の手を掴み、路地外の強い光の方へ引っ張り出し、彼に反応する時間さえ残さなかった。
[ジャジャン～～ほら見て！駅が目の前にあるだろ！]
順雨は一瞬、我に返らなかった。これは彼が頭の中で描いていた筋書きとは少し違う。それにしても駅が近すぎるだろう。
[ここは逆紅だぞ、人身売買なんてあるわけないだろう、そんなにびくびく歩いていると、誰かに私が君を売り飛ばそうとしていると誤解されるぞ、ここの良好な治安を信じなよ！]
[君…じゃあ後ろの？]
言い終わると、後ろにいた三人の成人男性も路地からぶらぶらと出てきて、口の中で何かを文句言っている。沈鬱な雰囲気のまま、彼らはすれ違っていった。
[何を見ているんだ？]
[ああ、いや、何でもない、ただ少し誤解しただけだ。]
[そうか？] 彤生は体を傾け、三人を見送った後、再び訝しげに路地を見回し、どういうことか解明しようとしているようだった。 [君…路地を歩くのが怖いのか？]
[いやいや、そんなことはない、さっきのは私が勝手に自意識過剰になっただけだ、君は心配しなくていい、今思い返すと自分でも気まずいよ。]
順雨は苦笑いしながら頬を掻いた。この経験が、かゆみに直面した時のように、掻けばすぐに終わってくれることを切に願った。
[あ、そうだ、その時、君はラーメン屋のカウンターの女性に何を話していたんだ？]
[おお～あれか！私は中央駅を尋ねたんだ、彼女は私に、ここは北西西路三段で、路地を抜ければ二段になり、中央駅も見えますよ、と言ったんだ。]
[おお！だから君が彼女と話す時の声の調子がそんなに高かったのか。]
[ん？君が言っているあれか、それは「魅惑のうさちゃん」の携帯ストラッププレゼントキャンペーンが昨日で締め切られたのに、集めたポイントで交換し忘れたことに対する驚きの声だ。]
[そ、そうか？そういうことだったのか…。]どの面も実に微妙だ。
この辺りなら、私はとても詳しい。中央駅が見えるということは、私が宿泊しているホテルも見えるということだ。次に私が先導役を引き継ぎ、この短期の旅を、最後のマイルへと導く番だ。
ホテルの入り口からそう遠くないところに、いくつかの見慣れた人影が見えた。私が戻ってきたことに気づき、身体言語で安堵した心理状態を表している。
ついにこの、予期せぬ出来事、戸惑いと驚きに満ちた旅に、終止符を打つ時が来た。
[ここだ、送ってくれてありがとう。]私は彼女に丁重に一礼し、心から感謝の意を表した。
[どういたしまして。]
[お土産を渡すよ。]
[ああ、いいよ、遠慮しておくよ。]
彤生は辞退の言葉を口にしたが、私はあくまでカウンターの金庫から取り出し、包装の美しい土産を二箱、無理やり彼女に渡した。それは今年の夏季にユニバーサル・テーマパークが開園する前に、特別に委託された遊園地体験員だけが購入できる限定の黄金琥珀パイのギフトボックスだった。私の知る限り、内容物を抜きにしても、パッケージだけでかなりの価値で売れる土産である。何しろ、上に載っているのは本物の素材なのだから。
[じゃあ…遠慮なくいただくね。]
彼女の表情から察するに、その価値をあまり理解していないようだが、気持ちが大事だ。少なくともこれを贈り物として差し出すのは、恥ずかしいことではない。
[他に何か手伝えることは？車を呼んで送らせようか？]
[いいよ、本当に手伝ってくれるならだけど。]
彤生は、ずっと持っていた紙袋の中から最後の二つの肉まんを取り出した。
[ほら！一つずつ食べよう、私もうお腹いっぱいだから、肉まんを完食するのを手伝ってよ。]
[え…それだけ？] 私は少し戸惑いながら肉まんを受け取った。それにしても、今朝からずっと食べているが、彤生はこの道中も軽く十四個以上は食べているだろう。 [肉まんが好きなのか？]
[ハアア…特にそうでもないよ。]
彤生は珍しく困ったような笑みを浮かべた。
[ただ肉製品は税関を通過できないから、その場で処分するしかないんだ、だから今朝、買った肉まんを一度に全部調理して、ひたすら食べ続けているんだ。]
なぜ…あの良くない、愚かな予感が、再び私の心を襲ってくるのだろう。 今朝の肉まん、税関通過前、そして彼女の手の中にあるスーツケース。
[あ、これは…何と言いますか？親愛なる彤生さん、飛行機の搭乗時間をお伺いしてもよろしいでしょうか？]
[九月二十八日！]
[おお～夜か、今から行けば間に合う…][朝だ！]
[…..のか？今から人を派遣しても…もう間に合わないようだ…。]
私はただ、やや驚愕した眼差しで、彼女の純真な笑顔を見つめるしかなかった。
どれほどの時間が経過したのか、もう忘れてしまったが、ただかすかに覚えているのは、彼女の悲鳴が、たまたま通りかかった救急車よりも響いていたことだけだ。
少なくとも、今回は本当に彤生さんの手助けができた。
私は無料で彼女に部屋を一つ提供し、明日の航空券を予約した。彼女は携帯電話の充電を忘れたせいで、アラームで飛行機の時間を確認できなかったと喚いていた。彼女が気にしていたのは、無駄になった航空券の代金ではなく、明日予定されていた仕事が確実にキャンセルになってしまうことのようだった。どうやら約束を守るという点では、このうっかり者でも筋を通すようだ。
[わあ…たくさんの不在着信だ、明日、相手も仕事を忘れてくれるといいのに。]彤生は携帯電話を操作しながら、何気なく呟いた。
私が何も言わなかったことにしよう…。
[もしもし～明日、私は多分帰れなくなりそうです、まだ逆紅にいます、大変申し訳ありませんが、連絡をお願いできませんでしょうか？うんうん、もしもし？聞こえていますか…？]
よく聞き取れなかったが、電話の向こうのデシベルが突然数段階上がったかと思うと、彤生は急いで目を閉じ、音波による継続的な攻撃を避けるために携帯電話から少し離れた。数分後、ようやく静まった。
[ごめんなさい…違約金はもちろん払います、なぜなら私はどうやっても今日の深夜には間に合わないからです。フライトを調べたのですが、早くても明日の正午十二時以降の時間になります。]
旅の途中で冗談好きだった性格を一変させ、会話の端々から、彤生が電話の向こうの相手に対して誠実かつ真剣な態度をとっていることが聞き取れた。
[あの…交換、人員の配置換えですか？あなたのお手元に時間のある方はいますか？誰と替えるんですか？わかりました…では、人を探して配置換えをしていただけるようお願いします、人を見つけたらまたご連絡ください、その場ですぐにその人にお礼を言いたいです、うんうん、はい、今回は本当にお手数をおかけします、ごめんなさい、バイバイ。]
電話を切った後の深いため息は、まるで息をひそめていた時間が過ぎ去ったことを物語っているようだった。その声線だけで空間全体の注意を引きつけることができた時代が。
[おお…君、大丈夫か？]
[会社のマネージャーが怒っちゃって…ごめんなさい…たくさん助けてもらって…。]激しい葛藤を経験したばかりの彤生の性格は、やや弱気になっていたが、つまるところ、私を助けようとしたせいで遅延したのだ。
[君は私を助けるために遅延したんだ。]彤生の目がぱっと明るくなるのを見て、順雨は急いで付け加えた。[まあ、君自身も注意する必要はあるが。]
[はい…。]彼女はすぐにまた肩を落とした。
[だが君の助けがなければ、私は今日、もっと面倒なことになっていたかも…しれない？]あれ、よく考えてみれば、真夜中になって帰ってくることより面倒なことがあっただろうか？あまりないかもしれないが、この短期の旅はとても楽しかったのは事実だ。
[本当にごめんなさい…。]順雨の声の調子と語彙の変化を聞き取り、彤生は顔面蒼白になった。
[はは、私も冗談だよ、とにかく必要な時に助けの手を差し伸べる君は…。]
順雨は彤生の肩を二度軽く叩いて慰めた。
[本当に格好良い、信頼ゲームを遊んでいるみたいで、茫々たる人混みの中で、君に受け止めてもらったね。]
[ふふは。]彤生は軽く笑い、張り詰めていた神経も徐々に和らいだ。[慰めてくれてありがとう。]
[君みたいに優しい性格なら、きっとたくさんの友達ができるだろうし、多くの友達が君を助けてくれるだろう、だから君の人手不足の件だって、きっと誰かが助けてくれるさ、安心して。]
そう言いながら、順雨は彤生が友人に言及した時の表情に一抹の陰りがあることに気づいたが、この話題を深掘りするのも良くないと思い、自分が気にしすぎたのだろうと考えた。
彤生のその後の状況を確認し、また空港へ向かう際の交通時間と状況も確保した。私が彼女に説得した結果、彼女もようやく專車で空港へ送るという選択肢に同意した。
国境の門での別れ際、彼女は私に手を振って別れを告げ、深々とお辞儀をした。それは昨日のホテル前で私が彼女にした感謝の意を思い出した。
その後、彼女は人混みの中に消えていった。
[順雨さん、朝おっしゃっていた送っていく人というのは彼女のことでしょうか、将来的な識別のために彼女の身元を伺ってもよろしいでしょうか。]
発話したのは順雨の専属執事、周敏鋭だった。昨日、順雨が行方不明になった後、すぐに警察に通報し、あちこち探しまわり、ビラまで配った。しかし、海外にいるため人力が限られており、短時間で多くの人員を配置することはできず、また失踪事件には時間的制限があるため、数人の人員が時間と共に捜索範囲を広げ、外県市に近い場所まで探し回っていた。
[昨日、君にまで外県市まで探させてしまって、本当にご苦労様、彼女が私を送ってくれた恩人だよ。]
[はい、やはりお送りくださった恩人というのは彼女だったのですね。]
順雨は少し躊躇した後、何か面白いことを思い出したかのように、心から笑い、口を閉じ少し考えた後、言い直した。
[ユーモアがあって面白い友達、と言うべきかな]
話は変わるが、私と彼女、どうやら、まだ何も連絡先を交換していないようだ…。
