表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

背が高い男

ナンセンスに挑戦してみます。

ある所に、その身が三メートルはあろうかという男が居た。男は割合美男で黒髪も美しいが、三メートルは高過ぎる。


子供の頃から異様に 背が高かったので周りから見上げられて、却って本人は心の中でちっちゃくなっていた。

成長してからは、あまりに背が高いからとテレビにも出た。

スポーツで活躍するかと思いきや、内気に育ってしまった男には、そんな真似が出来なかった。

今や男は、地元でちょっと人気がある程度。中には男を気味悪がる者も居る。

取り分け女から人気がない。〝背が高過ぎて怖い〟と逃げられるのだ。


そんな彼も、母の世話で相手が見つかった。愛想の良い、小柄な娘であった。男は喜んだが、その三倍、四倍は不安であった。式の前の晩、男は背を縮める呪いみたく頭をぐりぐり抱え込んでいた。

しかし、結婚生活が始まってしまう。やはりそれは想像し得ない大変さであった。


男の家は特注の二階建てに造られた。一階も二階も特に高く造られている。うちに入った日に嫁さんは、「あれまあ、これならあなたも助かるわねえ」と口を開けて天井を見ていた。


朝、新婚ならばと嫁さんはウフウフ笑いながら、男の口へ向かって背を伸ばし、「あなた、あーん」なんて言ってみせるが、それが誠大変そうである。ビクビクしながら男は、二口目を貰う前に「いいって」と断った。


嫁さんから何かを受け取るのも、渡すのも、双方が苦労をしなければならず、その内嫁さんの方も鼻がとんがらかって、愚痴をこぼすようになった。


しかしある嵐の夜、雨戸が外れる風が迫った。


二階の雨戸をびしゃびしゃになって男が押さえていた。特別高い梯子もあったからだ。


二時間程そうしていると、どうやら暴風雨は治まった。そうすると男は〝なんだ、こんなもんか〟という心地になったのだ。

それから嫁さんに風呂を沸かしてもらい、男はぐっすり眠った。


その後男は、何かと高い所へ登りたがった。家の中の高所作業ならなんでもやった。高所作業専門の会社なら、生きた人間でやる訳にいかないからだ。

高枝鋏なんか使わなかったし、脚立に登れば雨樋の掃除も出来た。それはは嫁さんが心配もした。

「あなた!突っ掛けて瓦を落っことしちゃ嫌よ!あなたも足に食らうかもしれないし!」

家の庭で見守っていた嫁さんは男へ声を投げる。

「大丈夫だよ、丁寧にやるさ」

言葉の通りに、すりり、すりりと男は雨樋を撫でる。

「まあいいけどねえ、気をつけてね!あたしはお昼を作っていいかい?ほんとに、気をつけてね!」

「あいよ」

嫁さんはどこかへ行ってしまい、脇へ滑り込む秋風の中で、雨樋を拭った。


そして男は今でも、〝まあこんなもんか〟と思いながら、毎日暮らしているそうだ。




お読み下さり有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ