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聖女の力が偽物だとバレたので、私を追放したこの国への聖石供給を停止します。〜備蓄はあと3日分。今さら土下座されても、もう遅い〜

作者: ロジカ

数ある作品の中から本作を見つけてくださり、誠にありがとうございます。


じれったい展開は一切なし。

婚約破棄から、国家が詰むまでを『最速』でお届けします。


一瞬で終わる、爽快なざまぁ劇をどうぞお楽しみください。


「偽りの聖女、セレスティーナ・フォン・リーゼンベルク! 貴様きさまのその力が、ただのまやかしであったと、今ここで断罪する!」


 荘厳であるはずの玉座の間に、私の婚約者、アシュトン王太子の甲高い声が響き渡った。


 彼の隣では、新たに神託を受けたという“本物の聖女”、平民上がりのリナが、庇護欲をそそるようにか弱く震えている。

 勝ち誇ったような彼女の瞳が一瞬、私を射抜いたのを、見逃しはしなかった。


「近頃、王都の聖石の輝きが弱まっているのは、貴様きさまの聖力が枯渇した証拠! リナが祈れば聖樹は輝きを取り戻すが、貴様が祈っても何の変化もない! これ以上の証拠が必要か!」


 王太子の言葉に、取り巻きの貴族たちが「そうだ、そうだ」と騒ぎ立てる。リナが事前に小細工をしていたことなど、彼らの目には映らないらしい。

 私の父であるリーゼンベルク公爵ですら、王家からの叱責を恐れ、家の面汚つらよごしとばかりに苦々しく顔を歪めている。

 誰一人、私の功績を口にする者はいない。


 だが、それでいい。全て、想定通り。


 私はゆっくりと顔を上げ、唇の端を三日月のように吊り上げた。


「アシュトン殿下。それは、このエインズガルド王国の総意として、最終決定と捉えてよろしいですわね?」


 余裕すら感じさせる私の態度に、王太子は一瞬たじろぐ。しかし、すぐに顔を憤怒ふんぬに歪ませた。


「当然だ! 問答無用! 本日をもって貴様との婚約を破棄し、国外追放処分とする! さっさとこの国から出ていけ!」


「承知いたしました」


 私はスカートの裾を優雅につまみ、完璧な一礼をしてみせた。

 そして、聖女の証として身につけていた『星詠ほしよみのティアラ』を外し、静かに床に置く。


「結構ですわ。心置きなく、この国を捨てられますので」



 その言葉が、引き金だった。


 私が言い終わるか終わらないかのうちに、玉座の間の壁にはめ込まれた巨大な『守護しゅごの聖石』が、ピシリ、とガラスが砕けるような音を立て、その神々しい光を完全に失った。

 どよめきが波のように広がり、貴族たちが身につけていた聖石の宝飾品も、騎士たちの剣に埋め込まれた聖石も、次々とただの石ころに変わっていく。


「な、なんだ……?」


「守護石の輝きが……消えたぞ!」


「私のブローチも! ただのガラス玉に!」


 玉座の間がパニックに陥る中、扉が乱暴に開け放たれ、近衛騎士が血相を変えて駆け込んできた。


「申し上げます! 王都を覆う魔力結界が完全に消滅! 市街の『照明石』も一斉に機能を停止し、都が闇に包まれております! 各所で暴動と略奪が起きている模様!」


「何だと!?」


 息つく間もなく、空間が歪み、魔術師団長が転移魔法で現れる。普段の冷静さは見る影もなく、その顔は絶望に染まっていた。


「殿下! 一大事です! 王城地下の『聖樹せいじゅ』への魔力供給が完全に停止し、猛烈な勢いで枯れ始めております! このままでは、我が国の土地そのものが死んでしまいますぞ!」



「馬鹿な! 聖石の備蓄は十分にあるはずだ! すぐに交換させろ!」


 王太子の怒声に、魔術師団長は力なく首を振った。


「ダメなのです! 城内の、いえ、この国に存在する全ての聖石から、聖力が失われております! まるで、初めからただの石ころだったかのように……!」


 そこへ、治癒院の院長までが転がり込んできた。


「も、申し上げます! 全ての『治癒石』が力を失い、回復魔法が一切使えません! 負傷者や病人が……!」


 結界の消滅、インフラの停止、そして国土の死。

 阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図と化した玉座の間で、私はただ一人、静かにその光景を眺めていた。


 この国の全ては『聖石』によって成り立っている。そして、その聖石を精製できるのは、代々リーゼンベルク公爵家にのみ極秘に伝わる、聖女の力だけ。そう、この私だけだ。


 愚かな王家は、リーゼンベルク家から聖女の力を王家の直轄にしようと画策していた。いつかこうなることを見越して、私は自分が精製した全ての聖石に、私の意思一つで機能を停止させる術式を組み込んでおいたのだ。


「セレスティーナ……貴様、まさか……!」


 ようやく事態の真相に思い至った王太子が、鬼の形相ぎょうそうで私を睨む。私は扇を優雅に広げて口元を隠し、くすりと笑って見せた。


「ええ、その“まさか”ですわ。この国は、私が作った石ころの上で踊っていたに過ぎませんのよ」


 私はきびすを返し、ゆっくりと玉座の間を後にする。

 恐怖に駆られた貴族たちは、まるで恐ろしい何かから逃げるように、私への道を開けた。誰も、私を止めることはできなかった。



 城門の前で、アシュトン殿下がみっともなく追いすがってきた。彼は私の足元に崩れ落ち、土下座までして懇願する。


「待ってくれ、セレスティーナ! 私が、私が全て間違っていた! リナの魅了魔法にかけられていただけなんだ! どうか国を……私を助けてくれ! 愛しているんだ!」


「……見苦しいですわね」


 その姿を、まるで道端の汚物でも見るかのような、冷え切った瞳で見下ろした。

 視界の端では、魅了が解け全てを失ったリナが兵士に捕らえられている。


「お言葉ですが、殿下。魅了ごときで国を傾ける愚か者に、王の資格などありませんわ。それに、この国の聖女は、そちらのリナさんではございませんでしたか? 彼女の清らかな力で、国をお救いになればよろしいでしょう」


「そ、それは……!」


 言葉に詰まる愚かな男に、私は最後の宣告を告げる。


「備蓄してある食料と水で、せいぜい3日。それが、この国に残された時間ですわ。その3日間で、ご自身の愚かさを心ゆくまで噛み締めてくださいまし。それが、私からこの国への、最後の施しですわ」


 最後にそう言い放ち、私は待たせていた隣国、ヴァルハイト帝国の特使の馬車に乗り込んだ。彼らはとうの昔に私の真価を見抜き、国賓として私を招き入れてくれたのだ。


 特使が丁重に頭を下げる。


「ようこそ、セレスティーナ聖女殿。我が帝国は、貴女のその偉大な力を心から歓迎いたします」


 背後で聞こえる元婚約者の絶叫をBGMに、馬車はゆっくりと進み始める。

 ああ、せいせいした。最高の婚約破棄記念日だ。

 私の新しい人生が、今、ここから始まるのだ。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!


今回は「絶対に泣き寝入りしない、したたかで最強のヒロイン」をテーマに、一気に書き上げました。

皆様に少しでもスカッとしていただけたら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。


もし、少しでも「面白かった!」「スカッとした!」と思っていただけましたら、ページ下にある【★★★★★】での評価や、ブックマーク登録をしていただけますと、本当に、本当に執筆の励みになります!


実はこの作品、とある小説対決のために書き下ろした、私の雪辱戦の一作です。

皆様の応援(評価やブックマーク)が、勝敗を決める一票となります!


挑戦者である私「ロジカ」を、どうか勝たせてください!

応援、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
何というか。 起承転結の起で即終了って感じだった。 しかし、兵士とかに命令して即捕まりそうなもんなのに逃げれるところが。
見所をギュッと絞って一番魅せたい部分を見せて下さったのですね。 ツヨツヨヒロイン最高ですわあ。
真実を知った後のリナの描写があればもっと良かったです。 原因はリナだったようですし、踊らされた(魅了された)王太子だけでは少し物足りない。 これで、リナの目的がこの国の衰退や滅亡とかだったら話が変わっ…
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