聖女の力が偽物だとバレたので、私を追放したこの国への聖石供給を停止します。〜備蓄はあと3日分。今さら土下座されても、もう遅い〜
数ある作品の中から本作を見つけてくださり、誠にありがとうございます。
じれったい展開は一切なし。
婚約破棄から、国家が詰むまでを『最速』でお届けします。
一瞬で終わる、爽快なざまぁ劇をどうぞお楽しみください。
「偽りの聖女、セレスティーナ・フォン・リーゼンベルク! 貴様のその力が、ただのまやかしであったと、今ここで断罪する!」
荘厳であるはずの玉座の間に、私の婚約者、アシュトン王太子の甲高い声が響き渡った。
彼の隣では、新たに神託を受けたという“本物の聖女”、平民上がりのリナが、庇護欲をそそるようにか弱く震えている。
勝ち誇ったような彼女の瞳が一瞬、私を射抜いたのを、見逃しはしなかった。
「近頃、王都の聖石の輝きが弱まっているのは、貴様の聖力が枯渇した証拠! リナが祈れば聖樹は輝きを取り戻すが、貴様が祈っても何の変化もない! これ以上の証拠が必要か!」
王太子の言葉に、取り巻きの貴族たちが「そうだ、そうだ」と騒ぎ立てる。リナが事前に小細工をしていたことなど、彼らの目には映らないらしい。
私の父であるリーゼンベルク公爵ですら、王家からの叱責を恐れ、家の面汚しとばかりに苦々しく顔を歪めている。
誰一人、私の功績を口にする者はいない。
だが、それでいい。全て、想定通り。
私はゆっくりと顔を上げ、唇の端を三日月のように吊り上げた。
「アシュトン殿下。それは、このエインズガルド王国の総意として、最終決定と捉えてよろしいですわね?」
余裕すら感じさせる私の態度に、王太子は一瞬たじろぐ。しかし、すぐに顔を憤怒に歪ませた。
「当然だ! 問答無用! 本日をもって貴様との婚約を破棄し、国外追放処分とする! さっさとこの国から出ていけ!」
「承知いたしました」
私はスカートの裾を優雅につまみ、完璧な一礼をしてみせた。
そして、聖女の証として身につけていた『星詠みのティアラ』を外し、静かに床に置く。
「結構ですわ。心置きなく、この国を捨てられますので」
◇
その言葉が、引き金だった。
私が言い終わるか終わらないかのうちに、玉座の間の壁にはめ込まれた巨大な『守護の聖石』が、ピシリ、とガラスが砕けるような音を立て、その神々しい光を完全に失った。
どよめきが波のように広がり、貴族たちが身につけていた聖石の宝飾品も、騎士たちの剣に埋め込まれた聖石も、次々とただの石ころに変わっていく。
「な、なんだ……?」
「守護石の輝きが……消えたぞ!」
「私のブローチも! ただのガラス玉に!」
玉座の間がパニックに陥る中、扉が乱暴に開け放たれ、近衛騎士が血相を変えて駆け込んできた。
「申し上げます! 王都を覆う魔力結界が完全に消滅! 市街の『照明石』も一斉に機能を停止し、都が闇に包まれております! 各所で暴動と略奪が起きている模様!」
「何だと!?」
息つく間もなく、空間が歪み、魔術師団長が転移魔法で現れる。普段の冷静さは見る影もなく、その顔は絶望に染まっていた。
「殿下! 一大事です! 王城地下の『聖樹』への魔力供給が完全に停止し、猛烈な勢いで枯れ始めております! このままでは、我が国の土地そのものが死んでしまいますぞ!」
◇
「馬鹿な! 聖石の備蓄は十分にあるはずだ! すぐに交換させろ!」
王太子の怒声に、魔術師団長は力なく首を振った。
「ダメなのです! 城内の、いえ、この国に存在する全ての聖石から、聖力が失われております! まるで、初めからただの石ころだったかのように……!」
そこへ、治癒院の院長までが転がり込んできた。
「も、申し上げます! 全ての『治癒石』が力を失い、回復魔法が一切使えません! 負傷者や病人が……!」
結界の消滅、インフラの停止、そして国土の死。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した玉座の間で、私はただ一人、静かにその光景を眺めていた。
この国の全ては『聖石』によって成り立っている。そして、その聖石を精製できるのは、代々リーゼンベルク公爵家にのみ極秘に伝わる、聖女の力だけ。そう、この私だけだ。
愚かな王家は、リーゼンベルク家から聖女の力を王家の直轄にしようと画策していた。いつかこうなることを見越して、私は自分が精製した全ての聖石に、私の意思一つで機能を停止させる術式を組み込んでおいたのだ。
「セレスティーナ……貴様、まさか……!」
ようやく事態の真相に思い至った王太子が、鬼の形相で私を睨む。私は扇を優雅に広げて口元を隠し、くすりと笑って見せた。
「ええ、その“まさか”ですわ。この国は、私が作った石ころの上で踊っていたに過ぎませんのよ」
私は踵を返し、ゆっくりと玉座の間を後にする。
恐怖に駆られた貴族たちは、まるで恐ろしい何かから逃げるように、私への道を開けた。誰も、私を止めることはできなかった。
◇
城門の前で、アシュトン殿下がみっともなく追いすがってきた。彼は私の足元に崩れ落ち、土下座までして懇願する。
「待ってくれ、セレスティーナ! 私が、私が全て間違っていた! リナの魅了魔法にかけられていただけなんだ! どうか国を……私を助けてくれ! 愛しているんだ!」
「……見苦しいですわね」
その姿を、まるで道端の汚物でも見るかのような、冷え切った瞳で見下ろした。
視界の端では、魅了が解け全てを失ったリナが兵士に捕らえられている。
「お言葉ですが、殿下。魅了ごときで国を傾ける愚か者に、王の資格などありませんわ。それに、この国の聖女は、そちらのリナさんではございませんでしたか? 彼女の清らかな力で、国をお救いになればよろしいでしょう」
「そ、それは……!」
言葉に詰まる愚かな男に、私は最後の宣告を告げる。
「備蓄してある食料と水で、せいぜい3日。それが、この国に残された時間ですわ。その3日間で、ご自身の愚かさを心ゆくまで噛み締めてくださいまし。それが、私からこの国への、最後の施しですわ」
最後にそう言い放ち、私は待たせていた隣国、ヴァルハイト帝国の特使の馬車に乗り込んだ。彼らはとうの昔に私の真価を見抜き、国賓として私を招き入れてくれたのだ。
特使が丁重に頭を下げる。
「ようこそ、セレスティーナ聖女殿。我が帝国は、貴女のその偉大な力を心から歓迎いたします」
背後で聞こえる元婚約者の絶叫をBGMに、馬車はゆっくりと進み始める。
ああ、せいせいした。最高の婚約破棄記念日だ。
私の新しい人生が、今、ここから始まるのだ。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
今回は「絶対に泣き寝入りしない、したたかで最強のヒロイン」をテーマに、一気に書き上げました。
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