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白瀬レイン、高校1年生、春。3

1

春原(はるはら) 恵理衣(えりい)は、この街で一番大きな地主の一人娘である。父親の春原(はるはら) 恭也(きょうや)は、たいへん気前が良く、誰にでも優しく、『困ったことがあれば、春原の旦那に相談しろ』という言葉が流れる程に、街の皆から信頼される男であった。そんな男にも一つ困った事がある。それは、大の麻雀好きであったことだ。祝い事があると、それに乗っかり、数日にかけて盛大な麻雀大会をする。街で麻雀が打てる大人は数日かかる麻雀大会に参加する暗黙の了解がある。しかし、1位になったときの景品がこれまた豪華で大人達は麻雀大会に熱中する。それは、白瀬レインの父親も例外ではなかった。

誰が最初に言ったのか定かではないが、この春原恭也が開催する麻雀大会のことを『ヴァルハラ麻雀』と呼ばれている。

『ヴァルハラ』とは北欧神話における建物の名前であり、その建物内では戦と宴がおこなわれている。

この『ヴァルハラ麻雀』という呼び名を春原恭也は気に入っていたが、春原エリーは大嫌いであった。

幼い頃から意地悪で「ヴァルハラ エリー」と呼ばれ、エリーが産まれたときに行なわれた『ヴァルハラ麻雀大会』は、街の歴史になりそうなほどの逸話であった。産まれたときから麻雀がつきまとい、エリーは麻雀を文字どおり憎んでいる。

エリーは麻雀に熱中する街の大人も、自分を『ヴァルハラ』と呼んでバカにする人間も、そして、なにより元凶である父親が大嫌いであった。

そんな、エリーが大好きな人がいる。

それは、白瀬レインである。

エリーとレインは中学生からの仲で、エリーはレインの特別になりたかった。

同じ高校に進学し、レインとの高校生活に胸をときめかせていた、まっただ中で、レインはエリーに告げる。

「エリー!私、麻雀をはじめたんだ!」

一番の友人である白瀬レインから発せられた言葉に身体が受け付けず、エリーは、その場に倒れた。


2

放課後、帰宅の最中に私はレインに麻雀を始めた理由を尋ねる。

「なるほど。ソーヤさんが麻雀が好きだから、麻雀を始めた。そうね。極めてロジカルね」

「でしょ!」

「レインは、麻雀を知ってしまったのね」

「そうだよ!麻雀って、楽しいね!」

「がァァァ!!!!!」

エリーは頭を抱え、唸った。

「………………。ソーヤさんとの話題が増えたじゃない。素敵なことね」

「エリー。すごく顔が引きつっているけど、体調が悪いの?」

ソーヤさんのことが好きな以上、レインが麻雀に出会うのは必須だったけど、いざ現実になると受入れ難い。でも、趣味が増えたレインを否定しない。ソーヤさんが街から離れてから、レインはずっとスマートフォンの麻雀ゲームにハマっているようだ。

「1日中、麻雀しているよね?あ。この前の中間テストの成績が悪かったのって、麻雀のせい?!」

「かも、しれない」

「目を、こっちに向けなさい!ギリギリの点数だったじゃん!なんとか追試は免れたけど。レイン。麻雀はほどほどにしなさい。テスト前は止めなさい」

「正論でございます」

レインはションボリとした。

今までのレインの成績は悪くないのに。おのれ麻雀。ここまで、レインを堕落させるのか。やはり、憎い!レインには申し訳ないが、麻雀が憎い!ここまでして、私の人生に関わらないでほしかった!でも、麻雀に打ち込むレインの姿が好き!

色々な感情が頭を巡り、私は深いため息をついた。

「いま、ゲームのクラスはどんな感じなの?」

「テスト後に、やっと雀士になれたよ」

「おめでと」

「頑張ったんだよ!徹夜もしちゃった」

「何してんのよ。全く」

「エリーって、麻雀がわかる?」

「そこそこ、ね」

「鳴き?が分かんないだよね。エリー、教えてよ」

「私は、そんなに麻雀は上手くないよ。レインに麻雀を教える力はないかな。ごめん」

「残念」

「ソーヤさんの弟君は何してんの?チャンスでしょ」

「何がチャンスなの?」

「気にしないで。ヒリュー君から教えてもらいなよ。あのソーヤさんの弟なら多少は麻雀はわかると思うけど」

「ヒリューの説明が難しくて、何回も聞き返しちゃって悪い気がするんだよ」

ヒリュー君、せっかくのチャンスを無駄にしてんじゃん。愚かな。

私は、ヒリュー君がレインのことを好きなのを知っているし、ヒリュー君も私がレインのことを好きであることを知っている。だからと言って、ヒリュー君とのトラブルはなく。嫉妬の対象には互いになっていない。レイン大好き同盟みたいな関係にいる。

ヒリュー君は早くレインに告白すればいいのに、端から見ているこっちが無駄にイライラするだけで不毛すぎる。

私はレインに告白するつもりは全くない。

恋愛感情というより、私はレインの特別になりたい。できるなら、レインの最期を看取りたい。

それが許されるくらいの関係でいたい。



3

レインはおもむろに麻雀アプリを立ち上げ、東風戦をはじめる。

「これ!こういう同じ牌が沢山あるときって、鳴くべき?」

「!それ、鳴かないで」

「もっと同じ牌が来た!鳴くべき?」

「鳴かない」


この流れ。

この配牌なら、いける。


「あ!立直できる!」

「うん。立直して」

他の3人が牌を捨てた。レインの番になる。

レインに来た牌は上がり牌だった。

「やった!ツモ!」

「よっしゃ!ツモ!四暗刻!」


四暗刻をツモしたら、スマートフォンの画面はきらびやかな光に包まれる。


「あれ?何かアニメが始まった!」

「役満演出ね」

「これが、あの役満!?役満って出来るの?!!」

「出来るときは出来るよ」

「やった!クラスが雀士2になった!」

「そのゲームなら、4位にさえならなければ昇段は楽よ」

「詳しいね」

「たまたま!たまたま同じ麻雀ゲームをしているだけ!」

「じゃあフレンドコードを交換しよ!」

「いいけど、私はあんまりログインすらしないよ。麻雀、嫌いだから」

「え。さっき、すごい楽しそうだったのに?」

「ぅ」

レインに痛いところを突かれた。役満だからか、テンション上がってしまった。麻雀をすると感情が表に出てしまうから嫌いだ。

「私、エリー、ヒリュー、ソーヤ君と4人集まったから、友人戦ができるね!いまからソーヤ君を誘ってみる!」

レインはピコピコとスマートフォンの画面を押す

「え」

「友人戦って、憧れていたんだ。ヒリューしか麻雀する人が近くにいなかったからさ。あと、ソーヤ君に連絡する内容が無くて困っていたんだ。エリーのおかげで連絡できた!あ、既読付いた!返信まだかなー」


『エリーのおかげ』


そう言われると、たかが麻雀アプリゲームのフレンドになっただけなのに、浮かれてしまう。レインが喜んでくれた。それだけで、私は充分、幸せだ。


「ソーヤ君。今から予定を空けるって。日にちが決まったら教えるね」

「オッケー」


4

街は、夕暮れから夜になる手前にさしかかっていた。役満を出せた喜びと想い人に連絡できた喜びやらで頬を染めるレインをエリーは眺めながら、幸せに浸った。

二人は別れを告げ、それぞれの帰路についた。

1人になったエリーは呟く。


「ホントに、どこまでも麻雀に呪われている人生だ」


やりきれない思いを発散するために、エリーは自宅まで走って帰った。

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