白瀬レイン、高校1年生、春。2
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実のところ、不二ヒリューは白瀬レインに片想いしている。
産まれた日も産科も同じ。家族間は自然と仲良くなり、憶えてはいないが、乳児のころから、レインと顔合わせしている。そのまま、保育園、小学校、中学校と同じで、クラスも同じ。今年の春からはめでたく同じ高校に進学して、また同じクラスだった。小学生、中学生と合わせると、12年間を一緒にすごしている。
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レインに告白していないから自分の気持ちが通じないことは重々に分かるが、あまりにレインが俺を意識しないものかと毎日、軽いショックを受ける。顔が好みでは無いなら、兄であるソーヤに片想いするはすないだろうし、兄貴がいるからって俺が嫌われているということもないみたいだし、レインが俺をどう思っているか、よく考える。
その昔、「ほぼ毎日、ライン通話している?男と女で同い年?そんなん相手にお前に気が無い方が変」だと、中学の同級生は言った。このとき、付き合っていない異性とは、毎日、ライン通話をあまりしない事実を知った。その同級生にはレインの名は避けて、恋路の相談をしたのだが、『友達以上恋人同士未満』があてはまるとズバズバと指摘され、挙げ句には、
「ヒリューが告白しないなら、ずっとそのままの関係じゃねぇの?」と、あまりに的を得た言葉をもらった。
告白。
いつかは告白をするが、いつが最適解なのだろう。今、告白すべきタイミングじゃない。今は告白しない。と言い訳を重ねた12年間である。兄貴が都内に行くと、家を出た今が俺がレインに告白するタイミングではなかろうか!
レインが兄貴に片想いしているのは誰が見てもバレバレだった。
ほぼ毎日のライン通話中も今日の兄貴はどうしているか?が話題のメインだったこともある。はっきりと俺のことは恋愛対象として眼中に無いと思い知らされた6年間だ。スマートフォンを持ったのは俺が小学6年、レインは中学2年だから、ライン通話も2年そこいらしていない。他の人間から見たら、仲良い男女で付き合ってもおかしくないが、俺には、この2年間しかレインと親密になれる時間はなかった。告白なんかしてみろ、兄貴が好きだからと俺はフラレて、レインとの親密な時間が無くなることの方が俺は怖かった。そのまま、高校に進学して、またもレインと同じクラスだったときは、自分の運命を呪った。
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兄貴が街から離れることを嘆いたレインに麻雀を薦めたのは、俺だ。兄貴は麻雀が好きだった。悲しむレインを見たくないからと、兄貴が好きな麻雀を始めたら、離れる兄貴との会話のキッカケにもなるし、レインの気も紛れるだろうと思ったが、それは想像以上の反応があった。
「でさ、立直って、なんて読むの?たてなお?」
「リーチ、だよ」
レインが麻雀アプリをインストールしてからというもの、レインは麻雀に夢中になったようだ。
通話だけでなく、メッセージでも麻雀の質問が来る。さすがにクラスメイトの前では避けているのか麻雀の話はしない。うちのクラスで麻雀をしている人間って、何の位だろう。アプリで東風戦をしても早くて15分、遅くて40分はかかる。休み時間にスマートフォンでゲームをしたくとも、腰を落ち着かせては出来ないのが学生だ。三麻なら、四麻より早く終るが、レインは四麻メインでルールを覚えている。放課後ならゲームをしているヤツもいるだろうけど、なにせ高校1年生、1学期の4月だ。互いに人間性を探り探りして仲良しグループが毎日、変わっていたり、変わらなかったりしている。中間テストが終れば、体育祭が始まる。そうなれば、レインも麻雀に飽きるだろうと考えていたが、そんなことは無かった。
4
「レインさ。4月から麻雀にハマりすぎじゃねぇか?」
「そっかな?このゲームって、面白いね!ソーヤ君がプロになりたい気持ちがわかる!」
「今日、授業中に麻雀しようとしていただろう?」
「バレてた?」
「俺の席はレインの席の後ろだぞ。バレバレだ。いつ先生にバレるかヒヤヒヤした。絶対に授業中に麻雀するな。そんな半端な打ち方しても強くなれない」
「そっかなぁ」
「そうだよ」
「ねぇねぇ。ここはチー?をした方がいいかな?」
「やたら無闇に鳴く癖を付けるなって」
「でも、師匠は、好きなときに鳴いていいって言っていたし」
「師匠って、誰だ。男か?」
「ん?波溜師匠だよ?」
漫画で安心した。もし、麻雀が好きな変な人間がレインに近付いたらたまったものじゃない。
「レインはクラスのヤツに麻雀していることは言ってんの?」
「言ってるよ〜。みんな、部活とか、別のことに夢中みたいで、私が薦めても麻雀してくれないんだよね。インストールとユーザー登録まではするけど、打ち込む人はいないかな」
「レインは、部活、しないの?」
「高校に入ったら、本格的にウチの本屋を手伝いたいって思っていたんだよね。ウチの学校は条件付きでバイトがオッケーじゃん?いまは来週のある音楽コンサートの準備している。そういう、ヒリューは、なんか部活しないの?」
「いまは帰宅部。新しくスポーツをはじめるって、正直、ダルい」
ヒリューは小中学生のときはサッカーに明け暮れていたが、運悪く脚を故障してしまった。体育や軽くサッカーをするなら問題はないが、大会レベルの技術を求められる運動は難しい。
「楽しくサッカーできるならそれでいいと思っていた。だけど、仲間とサッカーするとさ、勝ちたくなるからな。大会に出たくなるから、避けている」
「そっか」
脚を故障して自棄になったときに助かったのが、レインとの通話だった。レインは治療を頑張れともサッカーを辞めなくていいよとも言わなかった。思ってはいることはバレていたが、あえて口にしないところが嬉しかったし、オレは、ますますレインを好きになった。
「ぎゃー!ロンされた!1位だったのが4位になっちゃった!悔しい!もう、1回!」
「もう、12時、過ぎてんじゃん。寝ろ」
「でも、次なら勝てる気かする」
「明日、休みでも体育祭の打ち合わせとかあるだろ。俺は、寝る。じゃあな、また」
「またね」
通話終了ボタンを押した。
兄貴の次は麻雀の話になった。
「告白。いつしようかな。麻雀に夢中な今は、無理だな」
こうして、ヒリューはレインに告白する何度目かのタイミングを自分で無くしていた。