第21話 疫病の収束
このコロナウイルスによる疫病はノード・カナク間の船の往来がなかったにも拘らず、数か月後カナクでも発生した。カナクの南の森地区から始まった感染は、またたく間にカナク全体に広がった。やはりコロナウイルスによる疫病ははげ猿により人に感染した事が疑われた。知らせを受けたノード政府は医療チームをカナクに派遣し、コロナウイルス治療薬の提供をはじめた。
ノードに到着していたビリーを主任とする電気技師達は、疫病に罹った者も完全に治癒していたが、コロナウイルスをカナクに持ち込む危険性を考慮して、帰還できない日々を送っていた。ビリーがノードから帰れない中、ビリーの妻のサラがこの疫病に罹り、高熱を出しうなされ始めた。普段は冷静で穏やかなサラが「ノードに帰りたい」「リッチはどこ?」とうわごとを言い出し、あっけなく亡くなってしまう。
リッチもコロナウイルスに感染し高熱を出したが、ノードから来た医療チームにより、ウイルス治療薬を投与され回復した。母親を亡くしたリッチを、伯母のアイダが引き取った。
リッチの友達のカーターもコロナウイルスに感染し真っ先に亡くなった人達の一人だった。いつもの農業ドームに3人で遊びに来たリッチとルーシーとアリスは、カーターの虫攻撃が見られなくなったのを寂しく思い始めた。
「カーターが死んじゃったね」
「カーターが元気でオケラやミミズを持ってくる方が良かった」
「一人減るとなんか嬉しくない」
「そうだね」
「リッチのお母さんも死んじゃったの?」
ビリーは返事が出来ずに下を向いてしまう。
「ごめんね!」
「もっと仲よくしよう!」
リッチはふたりの女の子に抱きしめられていた。
カナクではコロナウイルス感染が収束するまでの2年間に百人以上が亡くなった。カナクの人口は四百人を切り、ドームも約二百戸を残してすべて空き家と化した。ノードとカナクの疫病が収束してから半年後、ようやくビリーを主任とする電気技師達がノードから帰還した。
カナクの港に着き、船から降りてくるビリー達を、明らかに以前より少ない五十人ほどの人々が出迎えた。三人だけの評議会の議長となったアイダが、幼いリッチの手を引いている。6歳になったリッチは3年ぶりに会う父親の顔を覚えていない様子で、困惑した表情を浮かべている。
「ほら、パパが帰って来たよ!」とアイダがリッチの手を引いてビリーのところへ連れて行く。
「大きくなったなリッチ!」とビリーは笑顔で声をかけ、リッチを抱き上げようとしたが
持ち上がず、「パパはもうリッチを、持ち上げられないよ!」と笑った。
「サラが亡くなってから、リッチの面倒をみてくれたことを感謝する」とビリーはアイダに声をかけた。
「良いのよ、私にとっても可愛い甥だもの」
「リッチは寂しがっていただろうな」
「元気にしているが、内心はそうでしょうね。新しいお母さんを作ってあげたら?」
「いや、その気はない。リッチの母親はサラだけだ。なあリッチそうだろう?」
その時だけはリッチも話が分かったようでしっかり肯いた。
リッチを立派な人間に育てるのが私の役目だ。それに電気技師の仕事がある。まだまだ若い者に教える事がある。」
「クレイ達は元気にしてる?」
「ああ、クレイもターヤも3人の子供もみんな元気だ。クレイは警備隊の隊長になっている」
「カナクの人口は今何人なのか」
「今週の報告では、386人だそうよ」
「とにかく人を増やさなければ、カナクは成り立っていかない」
「漁業要員も、農業要員も、看護要員も、電気技師も足りない」
「未婚の者は成人学校に出席しないと食料を与えないという法律があるから、仕方なく成人学校に出席するが、それでも寄宿舎の自室に引きこもる者が多い。若い男女が交際する事も珍しい事になっている。当然、子供も生まれない。」
「このままでは、カナクには食料・電気・介護者が足りなくなり、生活が成り立たなくなる。ノードからの移住者を募集しているが、なかなかカナクのような過疎地に移住しようという人がいないようだ。」
「ノードは2年前にNASFから来たコンピューター専門家たちをはじめとして、多くの人達が訪れて交流が始まり賑わっている。人口も五千人を超えたそうだ。中央コンピュータシステムが復活し、サイバー都市時代の警備ロボットを復活させる計画を始めた。人間を追い払うためではない。例のサラルを追い払う対策らしい」
「サラル?旧大陸の?」
「いつの日かサラルと対決する日が来るという事だ」




