表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第29話 哀惜

 カナクではノードからの救援でサラルを撃退した後、戦いで亡くなった警備隊員達57人の合同葬儀が執り行われた。コナーとアリスもその中に含まれていた。57人の墓はカナクを見下ろす高台に造られた。カナク中の人々がその死を自分の家族の死の様に悼み、ありったけの花を捧げた。とくに家族や友人を失った人々の悲しみは大きかった。

 コナーの妻クリスティーンは夫の死以来、食べ物も水も口に入らずやせ細り、クリスティーンの年老いた両親がそばで見守り慰めたが、まもなく亡くなってしまった。家族友人は、コナーの墓のすぐ近くにクリスティーンの墓を造り、埋葬した。リッチはルーシーと並んで、コナー、クリスティーン、アリスの墓の前に立ち続けていた。二人は昔アリスと一緒に、6人の子供たちを連れて賑やかに出かけていた頃を思い出していた。

「昔は、子供たちを連れてみんなしてパレードの様に歩いたよね」

「ああ、子供たちが元気すぎて目が回るほどだった」

「そんな昔が懐かしい」

「あなたが好きだったのはアリスだけだった」

「いや、君も好きだ、アリスと同じくらい」

「よく言うわよ、でもアリスには感謝している。一緒にリッチと結婚しようって誘ってくれた」

「そうなのか」

「私が寂しそうにしていたから、アリスが二人でリッチの家に行こうと言ってくれた」

「そうだったのか」

「コナーとクリスティーンはあの世で幸せに暮らしているでしょうね。私達も死んだらまたアリスと一緒に三人で暮らしましょう」

「・・・そうだね」


 静まり返ったカナクで、賑やかな声を上げていたのはショッピングドームの南に置かれた檻に囮として収監されていた二匹のサラルだけだった。警備ロボット3台がその周囲を囲んでおり、仲間のサラルが現れたら撃ち落とそうと待ち構えていたが、サラルが現れる事はなかった。「ギャーギャー」と騒ぐ鳴き声はカナクの人々を不快にさせていた。


 ノードでは、カナクからの「サラル発見」という報告を受けて以来、言いようのない不穏な雰囲気に包まれていた。ノスロ族が旧大陸で遭遇し北欧の地を追われる事になった「サラル」の恐ろしさを、ノードの人々は伝え聞いていた。歌番組の司会を続けていたビリーの5人の孫娘達はたくさんの子供に恵まれ幸せな生活を送っていたが「20人の孫を連れて帰る」と約束していた祖父ビリーは既に亡くなっていた。その上母アリスと弟のコナーが亡くなったという知らせを受けエヴァは心痛のあまり倒れてしまった。その間、異母姉妹の4人の娘ジャネット、ローラ、マリー、リンダがエヴァを支え、出演しているテレビ番組を続けた。エヴァを心配するファンが多く、応援のメッセージで電話受付が追い付かないほどだった。


 その後ノード政府に、カナクのラルフ隊長から警備ロボットの活躍でサラルの撃退に成功したという連絡がもたらされると、ノード政府はこの吉報を喜び早速、放送局からこのニュースを配信した。そのニュースを見たノード市民は、やっと不安と緊張感から解放され落ち着きを取り戻した。


 一週間後、カナク評議会を代表して、リッチとルーシーがノードのテレビ番組にリモート出演する事になり、ノードの政府と市民にカナクへの支援に対する感謝のメッセージを伝えた。この番組でエヴァが復帰し、久しぶりに5人娘として「明日に架ける橋」を心を込めて熱唱した。


  Bridge over Troubled Water (Simon & Garfunkel)

  When you're weary, feeling small

  When tears are in your eyes, I'll dry them all

  I'm on your side, oh, when times get rough

  And friends just can't be found

  Like a bridge over troubled water I will lay me down

  Like a bridge over troubled water I will lay me down

  ・・・


 ノード政府とカナク評議会はラルフ隊長を交えて、今後のサラルへの対応を協議する事になった。

「サラルは、アジア大陸からベーリング海峡を何らかの方法で渡り、アラスカから北極海の島を経由してこの島に渡って来たと考えられる」

「今回二十数匹のサラルを退治したが、カナクの南の地区、そしてそこから西の海岸に続く山地には、さらに多くのサラルが群れている可能性がある」

「そうであれば、島に侵入したサラルを一網打尽にしなければ、この島の人々の安全な生活はない」

「徒歩の警備隊員や警備ロボットでは、険しい山間地に潜むサラルを攻撃する事は難しい」

「サラルが再びカナクに襲来するのを防ぐ態勢を優先するのか、それともカナクの南や西に乗り込んでサラルの群れをこの島から追い出す作戦を実施するのか」



 協議の結果、ノード政府とカナク評議会は次のような決定をした。

ノードから派遣したラルフ隊長以下の警備隊と3台の警備ロボットは、引き続きカナク周辺の防衛にあたる。ノード政府は島に侵入したサラルの状況を把握した後、山間部に潜むサラルに対し適切な対応策を検討し、準備が整い次第、サラルをこの島の全域から追い出す作戦を実行する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ