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第25話 ノードへの移住

 その頃カナクでは、リッチの子供たちがそれぞれ大人へと成長し、二十歳前後の年齢となっていた。アリスの子のエヴァは数十年前にエミーが勤めていたラジオ放送局のアナウンサーとして、コナーは介護技術者として、ルーシーの子のジャネット、ローラ、マリー、リンダは農業技術者として働いていたが、みんな結婚もせず成人学校に通っていた。その中でルーシーの子のジャネット、ローラ、マリー、リンダとアリスの子のエヴァの5人は、成人学校の年上の男性達を結婚相手と認めておらず、不満を募らせていた。


「ねえ結婚相手見つかった?」

「いない、いない、ムリな奴ばっかり!」

「私、一度もデートした事がない!」

「私はデート申し込んで断られた!本当は好きでもなかったんだけど、誰もいないから、デートぐらいしてあげようと誘ってあげたのよ!」

「そしたら?」

「そしたらゲームで忙しいからムリと言われた!何がムリよ!」

「それはひどいね!」

「こっちはボランティアで、可哀そうだと思ってデートに誘ってあげたのに!」

「みんなそんなもんよ!たまにデートを申し込んでくるのは年寄りばっかり、どうしようもないわ!」

「ねえ、いっそのことみんなでノードに行かない?ノードだと結婚相手選び放題、しかもひとり4人づつ子供を持てるらしいよ!」

 ノードに移住すれば結婚してもしなくても人工出産・人工保育で、ノード政府が子供を育ててくれるらしいという噂を聞いていた5人は、ノードに行きたいという気持ちを互いに相談する様になった。

5人の父親母親のリッチ、ルーシー、アリスにもその相談は持ち掛けられた。5人の「ノードに行って子供を4人づつ作ってカナクに帰って来る」という言葉を聞き、リッチ、ルーシー、アリスも賛成するしかなかった。


 ある日5人は「ノードに移住したい」という意思を、成人学校の校長になっていたビリーに申し出た。

ビリーは自分の孫にあたる5人を前に、渋い顔をして尋ねた。

「どうしてもノードに行きたいのかね?」

「私達、結婚して子供を持ちたいんです!」

「でも成人学校には結婚したいと思う男性がいません!」

「それは君たちの考えとして尊重する。しかし、君達がいなくなるとカナクは寂しくなるな。君たちのグランパとしても寂しい。」

「グランパ、愛してる!でもノードに行きたい気持ちは変わりません!」

それを聞いて深いため息をついたビリーは、ため息の後に咳きこみ始めた。

「ゴホッ、ゴホッ」

「グランパ、大丈夫?」5人の孫たちが心配そうに、ビリーに近づいて体を支える。

「ゴホッ、ゴホッ、大丈夫だ!お前たちの気持ちは、ゴホッ、ゴホッ、わかった。評議会のアイダに伝えておこう」

「私達がノードで子供をたくさん作って、カナクに帰って来るからね!」

「5人が一人当たり4人の子供を作れば20人!20人のひ孫だよ!」

「その20人のひ孫を連れて帰って来るからね!」

「それまで長生きしてね!」

「ゴホッ、ゴホッ、ありがとう、ゴホッ、ゴホッ」


 ノード政府は以前からカナクからの移住を歓迎しており、カナクの若者達のノードへの移住希望者が増えていた。成人学校での調査の結果、ビリーの5人の孫たちを含め、26人の女性と数名の男性がノードに移住する事を希望している事が判明した。カナク評議会としては、ノードへの移住を許可する他はなかった。


 カナクからの連絡で、ノード政府は即座に2艘のピカピカの新型船をカナクに派遣してきた。冬の晴れた日、カナクの若者達約30人を乗せた2艘の船が、家族友人たちが見送る中、東のノードの地に向けて出航した。リッチもルーシーもアリスも娘たちの旅立ちを笑顔で見送った。年老いた成人学校長のビリーは目に涙を浮かべて、2隻の船が海の向こうに消えていくのを見送った。5人の孫たちを見送ったビリーはしばらく港に立っていたが、評議会議長アイダに促され、諦めたように首を振りながら、高齢の生徒たちの待つ成人学校へ帰って行った。アイダはその後姿を見て「ビリーが生きている間にあの若者達がカナクに帰って来る日が来るだろうか」とあきらめに近いものを感じていた。


 カナクの若者たちを乗せた2艘の船は、コバルトブルーに輝く北極海を走り続け、2日後ノードの港に到着した。港には大きな「Well come to Nord」の横断幕が張られ、大勢の出迎えの人々が、カナクの若者たちを拍手で迎えた。ビリーの弟のクレイと妻のターヤも、ビリーの5人の孫たちを笑顔で迎えた。

「ノードへようこそ!私が君たちのグランパの弟のクレイだよ、これが妻のターヤだ」

「待ってたのよ!これから何でも相談してね!まずはうちに来てゆっくりしてね!私達の子供や孫たちもあなた達が来るのを待ってたのよ!」


歓迎式典が開かれ、ノード政府の歓迎のあいさつの後、ノードのテレビ放送局が中継に入り、新しく移住して来た若者たちにインタビューを始めた。その中でビリーの5人の孫娘達が、あの伝説の歌姫エミーの縁者だと紹介され注目の的となった。その昔、ビリーの妹のエミーはノードで愛くるしい笑顔の歌姫として大人気となり、その急逝が惜しまれていた。そして、数十年を経てそのビリーの孫となる5人の娘達が再びノードにやって来たのだ。ノードの放送局が興味を持つのは当然だった。歓迎式とテレビ放送局の中継が終わり、若者たちは港の施設で、顔認証登録などの移住に必要な手続きを受けた後、モービルに乗り込み、立ち並ぶ巨大ドームに圧倒されながらそれぞれの宿泊先に移動していった。

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