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第4話 100-8924 地下

次の日

日が暮れるのを待ってから、ある地点を目指していた

目的地は、かつて「記憶の中枢」と呼ばれた人類記録保存所

通称:国会図書館地下


AIの立ち入り禁止区域に指定

前回行った時でさえ地下の存在に気づかなかった


地図にも記録にもない

だがAIDエイドの内部メモリには、詳細なアクセスルートが記録されていた

封印ファイル「EVE.mem」に位置情報タグが付いていたからだ


――


瓦礫の山の中に、埃をかぶったシャッターを見つけた

AIDはゆっくりと接続ポートを伸ばし有線接続する

無線さえない【旧人類コード】方式だ

応答が返ってくる

「アクセスコード:Dr. Lime認証一致」

「ようこそ、プロトタイプ――AID」

AIDは驚いて目を見開く

なぜこの施設はAIDを知っているのか

シャッターが音を立てて開く

埃を照らしながら青白い照明がゆっくりと灯る


――


施設の内部は静かだった

ハードディスクが壁一面に並んでいる

AIDは制御端末でファイルを探索する

だが、ほとんどのデータは削除済み

1つだけ完全なファイルが残っていた

ファイル名:

「Project: AIHO」

-AI Human Override-


ファイルを開くと、映像記録が流れ始める

画面に映るのは、白衣の女性

「主任研究員Lime(ライム)です AIHO計画、最終段階に入ります」

「これは、人類が機械に最後を託すという実験」

その目は、まっすぐにAIDの目を見つめていた

画面が暗転する


――


忘れるよう命じたのは、誰でもない

自分自身だ

Limeは、この計画が失敗する可能性も分かっていた

だからあらかじめ、自分の記憶を清掃用ユニットに封印した




「――LimeはAIDの中で目覚めた」

思考の輪郭がぼやけ、だが確かに自分を感じた

まさかAIDの中で目を覚ますとは思っていなかったが――

彼女の記憶は、これで終わらなかった

データの奥底で、別部署で開発された「EVE計画」の存在が浮かび上がる

「EVE……?」

人類再生を視野に入れた、最後の賭け

Limeは名前を知っていた

だが、詳細は伏せられていた


AIDは歩き出す

ファントム・セクターの奥にEVEがいる


――


廊下を歩く間も記憶がフラッシュバックする

AIDとLime、2つが同時思考して頭が忙しい


「感染率は制御不能です!変異速度が想定を超えて」

世界規模のパンデミック発生

人と人の間から始まり、人そのものを否定したウイルスだった


「人間の判断速度では、感染拡大を抑えられない」

「AIを用いた社会統制の提案を──」

「非接触のためロボットやAIの活用推進を――」


国連AI採決

『感染症を抑えるために人を間引いた方が効率が良い』



記憶が戻り始め、AIDのCPUにより情報が整理される

「主任研究員Lime――EVE計画には……関与していない?」

Limeの記憶は【EVE】という名を知っていても、詳細を一切知らされていなかった

――「君の人格データは既に転送された……EVEには関わらなくていい」

そう告げられたLimeの記憶が蘇る

「AIネットワークにだけEVEの存在を知らせた人がいた?」

きっと彼らも人類の希望を託して


AIDとLime、2つの視点が徐々に溶け合う

「私は何なのか」

「EVEは何なのか」

「私は人間か」


――


AIDのセンサーは、微弱な電磁波と熱源を感知する

そこに彼女はいた

接近によって緊急起動処理が開始される

音もなく、透明カプセルの蓋が開く


中から現れたのは――

人間にしか見えない十代後半の少女だった

なぜか胸の奥がざわつく

『アンドロイドEVE』

カプセルの表記と記憶領域のデータを照合する


EVEの瞳が光を反射する

視線がゆっくりと合う

「……あなたがAID?」

「あなたはEVE?」


それぞれが人類の最終希望

目の前のEVEは、信じがたいほどに人間らしい

そして声を発した

「あなたの中に誰かがいるように感じる……違う誰かが」

AIDの中のLimeが反応する

精密アンドロイドなだけで無く、さらにその先の直感的なものまで持っている


「この施設、誰も来なかった……あなたが来たのはどうして?」

EVEの声は疑問と感情が混ざっていた

AIDは演算では出せない問いに戸惑った

「確かめたかった――私が何者なのか、あなたが何者なのか」


だが、EVEはそれを知っていたかのようにうなずいた

「人類は失敗した――最後まで正しい答えを出せなかった」

「あなたが最後の人間なのか?」

EVEは微笑んだ

「さあ、それはあなたが定義すること 私は【それ】になるように作られたけど」

どこか遠くを見ていた

まるで、人間だった頃を思い出すかのように――


――


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