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2話 100-8924

「ライム=J……誰だろうか」

その問いがAID(エイド)の中で何度も繰り返される

今まではただの清掃ロボットとして、与えられた役割を果たしてきた

しかし、同じ事をしているのに不安を抱え始めた

「知りたい」

そう思いながらも、身体は自然とプログラム通り清掃作業を続ける


「清掃完了」

報告を入れ、エネルギー補給のため夜中は基地(という名の充電ドックだが)に戻る


ふと周辺建物のスキャンされた文字に目を留める

『国立国会図書館』

文字が表示された方向に顔を向ける

かつては立派な建物だったのだろう、何か所か崩れて廃墟となっていた


『CAUTION―清掃対象ではありません―』

目の前には黄色と黒の虎柄テープが立体表示される

注視した事でノアに怒られた


だが不意に警告表示が消える

『圏外』

――また、だ


もう一度図書館を見上げ、吸い寄せられるように中に入る


――


圏外はAIDにとって好都合だった

図書館なら『人間に関する情報が見つかる』という希望を抱いていた

今ならノアの監視も無い


書庫の中には、古びた本やデータ端末が散乱していた

本はもはや読めないだろう

だが、データさえ残っている物があれば問題ない


中央に置かれた大きな端末が目に留まる

非常に古いもので、図書館稼働中もほとんど使用されて無かったようにみえる


端末に触れるとID入力を求められた

「――AID――」

と打ち込む

エラー


当たり前だ

こんな人間時代の旧式システムにアクセス出来る訳が無い

「ライム=J」

うわ言のようにつぶやく

「なぜかその名を口にしたくなった――確かめたくなった、それが何者かを」


「――ライムJ――」

記憶領域による本人確認完了

利用権限レベル3

おかえりなさい80XXX日ぶりのログインです

認証された瞬間フリーズしそうになる電流が流れる

記録域がAIDの邪魔をしている


アクセスを開始すると、突如として巨大なデータベースが立ち上がった

その中でも特定の項目に目を留める

「AIDシステムの起源」

その項目を開いた瞬間、AIDは思わず画面に食い入るように見つめた

「AIDシステムは単なる清掃ロボットでは無い、人間社会の再生を目的としたプロジェクトだ」

書き出しにはそう書いてある

開発者一覧には「ライム」という名前があった

その人物はプログラムを設計したのち行方不明となり、二重線で消されている


「ライム=J」

内部データを参照しようとすると――画面が消えた

技術レベルの高いシステムとは言え、数百年前の骨董品だ無理も無い

寿命を迎えゴミとなったシステム、一瞬自分を重ね合わせながら建物を出る


通信が回復し、またノアが警告している

定型文で報告し帰路を急ぐ


――


ポーン

『充電が完了しました』

今日もまた清掃ロボットの1日が始まる


ただ、最近は調子が悪い

端末にアクセスした翌日から、AIDの内部ログにエラーが頻発するようになった

ノアとの通信状況も頻繁に切れる

自己修復では処理できない、不可解なデータの挿入

そして**「アクセス元不明」**


データを抽出し、独立メモリ領域に隔離する

アンチウイルスソフトが行う対処方法だ


しかし、奇妙な命令文が含まれているのが気になった

「この先へ進むな!指定区域は立ち入り禁止!」

ただの可動範囲制限コードではなかった

感情的な人間のような命令文だったのだ


誰がそのような文体で命令を出したのか

この世界で感情的な口調の存在など――いないはずだった


――


隔離しようとする操作を保留、メッセージの発信地点を検索する

「立ち入り禁止区域:ファントム・セクター」

AIDはその区域の存在を起動以来一度も意識したことがなかった

あらゆる地図データにも明確な情報は記載されていない


担当する東京の真ん中でぽっかり空いている空白地帯

何も無い――

「AIには分からないようにわざと情報が無い」

AIDの思考支援AIはそう判断した


AIDは命令違反の判断にしばし迷った

しかし自分で判断するしかない

マップデータを解析し、ファントム・セクターへ向かう非正規ルートを導き出す


道を進むと今日も赤信号に止められる

「信号:赤」

それは、ただの赤ではなかった——止まれ、と誰かが言った気がした

しかし、何のためらいもなく横断した

「進んではいけない」という信号

「行ってしまえ」という命令


どちらでも無く

私は【自分の判断で赤信号を渡る】という「意志」を優先した

自分の中でシステムがバグっていってるのを感じる

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