10.VS フラウ
手袋と荷物を放り出した。崖の下に落とすよりはマシだし、何より身軽になれる。
挿し木を得たフラウから圧迫感が増した。突風が吹き降りてくる。立っていられないほどだ。だが、引くわけにはいかない。
パァン――
光弾は凄まじい光を放ち、命中した岩は弾けた。亀裂に入り込んだ水が一瞬で凍り、膨張した反動と光弾のエネルギーで破片が吹き飛んだのだ。直撃すれば死は免れない。周囲に岩の砕けた匂いが漂い、フラウの支配力が増したように感じられた。
フラウは外れた光弾を見て、悔しそうに錐揉みした。明らかに私たちを狙ったものだった。
凍れる手で木々を次々破砕していく。風に木片が混じる。「次はお前たちだ」とばかりに光弾でゆっくりと狙いを定める。
フラウから邪悪な思惑を感じ取った。破滅を与える事に喜びを感じている。邪精になりかけているのかもしれない。それは自然ではない。見過ごせない。
フォン――
光弾が迫る。枝を掴み、崖に張り出した木の幹に飛び乗り躱した。
『チ――』舌打ちのような表情を浮かべるフラウ。
『パキパキ――掴まって』桑田さんが手を伸ばし引き上げてくれた。フラウは手を出してこない。
チャージ時間が必要なのかもしれない。
キュ――キュ――
発射前の鳴き声。狙いは桑田さんだった。
とっさにコートを射線上にひるがえす。
フ――パァン――
コートは砕け散ったが、桑田さんは無事だった。フラウは再びチャージを開始した。苛立たし気に空中を漂っている。近づいて氷の手で凍傷を与えればいいものを、反撃を警戒しているのか。距離を取って一方的に攻撃する臆病で卑劣な性質が透けて見えた。
『パキパキ――助かったよ』「どうも」チャージ間隔は長いようで短い。呑気におしゃべりしていられる状況ではないので簡素に返答する。
こちらからも攻撃するため、革ひもを素早く杖に括り付け、数個の石まとめて通し投石器に作り変えた。
「当たれ!」
広がった数個の石がフラウに命中するも動じない。
「やっぱりだめか――」
物理攻撃は通用しない。精霊は霊体だからダメ元だったが。
何度か投げたが、避けるようになった。牽制にはなるようだ。
だが、霊体なら――
荷物の元へ駆け寄り、あるものを取り出した。それを投石器に装填。だが、素直には当たってくれないだろう。
フラウは安全な上空から一方的に攻撃してくる。しかし、攻撃方法を変え、斜面の上すれすれからの攻撃に切り替えた。
真上からの攻撃を平面と見立てるなら、真横からは線上となる。単純に面積の比が平方根となり狙いが絞りやすくなり命中率が上がる。学習したのだ。しかし、それは逆にフラウの軌道が読みやすくなるということでもあった。
「こっちよ!」
山頂の平坦な地形に伏せ、遮蔽物から顔を覗かせるフラウを待ち伏る。相手の戦略を逆手に取ったわけだ。タイミングを合わせ例のブツを投擲した。
ギャァァァァァァァ
あるものとは塩のことだ。神聖なお清めやお祓いにも使われ、霊には効果覿面なのだ。
フラウからしたら、いきなり目の前に塩の膜が出現したように見えたことだろう。山頂に伏せて見失い、高度を上げたら突然の災難。
狙いが正確であれば、ブレーキが利かない空中では避けようも無い。