3.旅立ち
家を背に、一対の桜の木を潜ると気が引き締まる。キノコが生えて老木となった桜は、今年も花を咲かせてくれるだろう。
私は向き直ると、白いキャンバスのような新雪へ踏み出した。
桜に見送られながら雪の丘を下りていく。近所の畑には、遺跡の石材が所々顔を覗かせている。
やがて旧ミスリル街道と呼ばれる白い道が見えてきた。道沿いに進む。
「あちゃー……」
橋が崩落していた。かかっていた橋は、見事に川に向かって折れている。
コートの雪を払い、渡れる場所を探し始める。
「あった」
幸い、遺跡が崩れて階段状になっている場所がある。河原の大きな岩を飛び石にした。
「はぁ、はぁ、はぁ……これも、キノコで大儲けするため」60(30kg)ポンドの荷物に圧し掛かられながら、自分に言い聞かせる。落ちないように何とか渡り切った。
「ふぅ……」見上げると一対の巨木が張り出している。冬眠中のトレントだ。冬でなければ声をかけるが、起こす必要はないだろう。
私が求めるキノコは特殊なものだ。ドルイド以外の者には見つけることすらできないため、嘘つき呼ばわりされたり、嫉妬の対象となったこともあるそうだ。
ドルイドは人と自然とを霊的に橋渡しする役割を持っている。まだ駆け出しドルイドである私が、森と意思を通わせ経験を積む為でもある。
そんなキノコは通常市場に出回ることはない。森を管理するトレントらの許可が必要なのだ。
私は息を整えると再び歩き出した。