15.家に帰るまでが素材採集です
帰り道では印象が様変わりしていた。行きでは、道はもちろん石の上や落ち葉、倒木に枝に積もった雪が別世界に変えていた。しかし、雪があったことが嘘のように消え失せ木立の隙間に僅かに残るのみとなっていた。
そばを流れる川には抉れた谷が出来ており、急に現れた沢を幾つも超え、緩い坂を雨の川とともに下っていく。
フクロウの声がする。普段なら姿を見えない事が多いが――そこにいた。まるで自身の姿を見せつけるかのように、雪をかぶった枝の上に漆黒を押し固めたような小さな闇がわだかまっていた。
――ワイルドハント――
そんな単語が頭をよぎった。黒いフクロウなどまず目にしない。ただのフクロウではないことは確かだった。ソレは動かず、ただじっと私を見下ろしていた。まるで警告するかのように。
立ち止まると、ぬるく湿った吐息が白く渦巻く。影が揺らめいた気がした。
「な――」
気が付くと黒いフクロウは消えていた――。
私は嫌な汗で冷え始めた体に鞭打ち再び歩き始めた。
――ミスリル街道に合流すればもうすぐだ。小雨となり雲間からは青い空が覗いている。
家の前では桜の蕾が春の寒風に震えていた。
カエルのコートを着たアンナマリーが、見事なフォームで傘を振り回しているのが見える。こちらに気が付いたようだ。
「おかえりですわ! イゼルダ!」
「ただいま、アンナマリー」
――おわり――