14.帰り道
「あった」
あっさり見つかった。尾根の木の根元、採ってくれと言わんばかり。手ごろな位置に青黒くヌメッとしたキノコが雪に埋もれていた。周囲の雪が高いのは、キノコからずり落ちたせいだろう。
落とさないよう、雪を掻き分け素手で取り出す。
「え、何? キモ! 手品? なんも無いとこからキノコ出てきたし!」
『我々には何もないところからキノコが出現したように見えましたよ』
「へー、そう見えるんだ」
冷たい、あとで霜焼けになりそうだ。温めようと吐いた白い息は山頂の風に流されていった。アルプスを見ると白い息を出していなかった、冷気免疫のせいだろうか。
「お、太陽、眩しー! あははー」アルプスが指さした方向を見ると、雲が切れて太陽が昇っているのが見えた。眩しい。どうやらギリギリだったらしい。
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斜面に沿って回り込む道で帰る。岩場はシャーベット状で滑りやすく不安があったからだ。転倒すれば大怪我もあり得る。
道はシャーベットの水浸しだった。滑る場所は枝につかまり何とかやり過ごした。
バシャ――バシャ――ガポ――ガポ――
靴の中の水が不快だった。
――やがて峠まで帰ってきた。峠は水浸しだった。ここで焚火をするより他を探したほうが良いだろう。雨足は強くなっていた。トレント達は再び眠りに着いたようだ。
挿し木をどうすべきか迷った。「コレ、返したほうが良いのかな」それに対し桑田さんが答えた。
『持って帰って良いと思う場所に植えるといい』
「樹人は森を広げたいの? 少し欲を感じちゃうけど」
『パキパキ――たしかに欲かもしれない。生命の本質だね、嫌かな?』
「こっちも薪にしたり、道具を作ったりするし。お互い様かな」
『パキパキ――我々は望むものを拒まない、そういう在り様だからね』
「――ねー、イゼルダ」アルプスが大腿骨をぶらぶらさせて、怠そうに間延びした口調で話しかけてくる。
「退屈だから、あーしもう行くから。寂しくなるかもだけど、イゼルダには森のオトモダチがいるからダイジョブだよね。じゃ、またね」
勝手についてきて最後に皮肉ですか。それだけ言うと返事も聞かずに跳んでいってしまった。反動で飛び散った泥が服にかかる。
「なんなの、あの子はぁぁぁぁ!」久しぶりの地団駄を踏んだ。
すると突然、木が勢いよく立ち上がった。地団駄の振動でも伝わったのか、枝に積もっていた雪が落ちて反動で起き上がったのだ。森は光を放ち、雪に押さえつけられていた木々が連鎖的に立ち上がっていった。
その様子にしばらく見入っていると、自分は何をしていたんだろうと正気づいた。地団駄踏んだところでどうにもならない。
ともあれ用も済んだので、さっさと帰ってお風呂に入ろうと思うのだった。
帰りの道は様変わりしていた。道の雪はすっかり溶けて水浸しとなっていた。北側の斜面でも同じらしい。岩が露出している場所は少なく、跳ねるように降りてゆく。しなる枝を手放すと、反動で雪崩が落ちてくる。
やがて樹人の広場まで戻ってきた。雪の塊だった樹人達が露わになっている。まだ寝ているようだ。
『――やぁ、お疲れさまでした。イゼルダ』ウーズが労いの言葉をかけてくる。
「あなたも、といっても肩に乗ってただけだけど」
『あはは、その通りです』
「桑田さんもお疲れさまでした」それに対して桑田さんは目線を合わせるように腰を折った。
『パキパキ――私も面白い体験をさせてもらって満足だよ。今日はありがとうイゼルダ』
「こちらこそ、案内ありがとう。桑田さん」
隠していた荷物を背負うと、彼らに別れを告げ帰途についた――