13.二度あることは三度ある
ここは他より雪が深い。平坦な尾根を新雪を踏みしめ進む。上りでは雪が解け水たまりができていた。浸水を遅らせるため、落ち葉のある場所を選んで歩く。底は下り坂だった。霙は水分を増し、雪は溶けていった。樹冠が抜け山頂が近づいてきた。もうすぐだ。
黙々と歩いているとアルプスが話しかけてきた。
「お仲間とテレパシってる?」桑の木の樹人の桑田さんやウーズとやり取りして黙り込んでいると邪推してきた。
黙って歩いてるだけなのだが「ちが――」
「ごぼべ!」
バシャ
後ろのアルプスへ答えようとして気を緩め、むき出しの岩の上で尻もちをついてしまった。
「うう……最悪」
慎重に立ち上がる。
「ふぅ……やれやれ」
服を整え、再び歩き出す。
「なにょべ!」また転んだ。
「ダッサ!」自称ネクロマンサーのアルプスがむかつく表情で見ている。
「く、もぅ……なんなのっ、オモバビ!」
三度目の転倒。ブーツに浸水した。シャーベット状の雪は凍っているより滑りやすい。
「ぐ、おのれー……」枝にぶら下がるようにして、何とか耐えた。
「そんなんでよく登る気になったよね」アルプスは呆れ気味にそう言った。
『まるでタップダンサーのようですね』苔玉のウーズまで茶化してくる。
「うるさいし」無視して木につかまり靴の水を出す。
靴の水を出し、再び履いた。
「冷たっ!」靴下は冷え切っていた。外気の気化熱で冷えたのだ。
「やばい……」下山まで替えはない。焚火は山頂か峠の平らな場所か。雪を掻き分け、雨を避けて火を起こすしかないが、できるだろうか。
「君らは寒くないの?」
『寒いというより、動きづらいといった感じでしょうか』「だから冷気免疫があるっていったじゃん」
【ら】って言ったんだから、アルプスには感づいてほしかった。
『代謝が落ちて、貯め込んだエネルギーだけで動いている状態ですな』
「ふーん、え。付いてきて大丈夫なの」
『まぁ、最悪。エネルギーが切れたら、春までそこでじっとしていれば済む話ですから』
「おお、すごいね、ワイルドだね」
『植物ですから』
「ああ、精霊と話してんのね……」アルプスはあきれたように大腿骨のバットで傍の枝を払った。ドルイドではないアルプスには認識出来ない。でも、いるんだから仕方がない。
そんなやり取りを交わして、顔を上げるとキノコはあっさりと見つかった。