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1日の家事を一通り済ませた俺は、干し終わった洗濯物を見ながら庭に寝っ転がっている。



俺の部屋にはなんちゃって洗濯機、なんちゃってトイレ、なんちゃって風呂が備わっていて、勿論全て自作だ。


洗濯機といっても細かい仕組みが分からないため、ただ水が出て回るようになっているだけである。


トイレも同様、ただ水が流れる椅子。

小さなブラックホールを付けているので衛生面はバッチリだ。


風呂はもっと簡単。

ただの大きな桶に毎日自分でお湯を入れているのだ。

面倒くさくて最近はシャワーだけになっている。


乾燥機も欲しいのだが、以前力加減を間違えて服が燃えて大変な目にあったので自然乾燥になった。

時間がある時にもう一度チャレンジしていてもいいかもしれない。



そんなことを考えながら目を閉じる。

今日はゆっくりするつもりで、街開発もお休みだが、配信は毎日しているので何となく適当につけていた。

誰も見ていないから大丈夫だろう。



「そういえば視聴者数とかどうやって見るんだろう」


〈!?!?〉

〈やっと気になった??〉

〈ダンジョン配信アプリ開いてご覧?〉

〈100万人の登録者数と、今の同接数6万を見て驚く姿まだ?〉

〈マジで大人気配信者になったよな〉

〈俺たちのスミさん……感慨深いぜ〉

〈拙者も古参ぶってよき?〉

〈戦闘しなくても同接安定して5万は越えるもんな〉

〈新ジャンルでおもろいからな〉

〈もはや常識ないところがみたいという中毒症状に侵されてる〉

〈優しいファンで良かったなスミさん〉



配信は配信ドローンのスイッチを入れるだけで自動で行う設定になっているが、コメントやチャンネルを見るには専用アプリがあったはずだ。

最初の設定は局員さんがしてくれたっけ、そんなことを思い出しながら、俺は伸びをして立ち上がり、家へ戻る。


帰ってすぐ、棚の引き出しを開けた。


〈す、スマホー!そこにおったんかいワレ!〉

〈ホコリ被ってら~マジでスマホ要らんのやな〉

〈スミさんはスマホ要らずの丁寧な暮らしをしてるんで〉

〈さぁ、ダンジョン配信アプリ開いてマイページから配信画面開くんや〉

〈コメント見てないから〉

〈現代人ならアプリ開けば何となくどこにあるか分かるやろ〉

〈現代人なら……〉



スマホを手に取って電源ボタンを押すがうんともすんともいわず、真っ暗な画面のままだ。


「充電切れだ」


〈ガクッーー!!〉

〈そんなことだろうと思った〉

〈期待を裏切らん〉


「そういやそもそも料金払ってないな。口座すっからかんだろうし」


〈六年放置したらそりゃそうなる〉

〈ダンジョン配信アプリ開いた途端帰還命令DM見ることになるから焦った〉

〈あっ〉

〈あっ、すみっコぐらし終了の危機だったのかww〉

〈そりゃいかん〉



「まぁ誰も見てないか」

そう言って俺はスイッチを切るため、宙に浮かぶドローンに手を伸ばした。



〈……あれ?〉

〈終わらないね〉

〈切り忘れ!?〉

〈何気に初〉

〈え!?今切る動作確実にしたよね?〉

〈したから切り忘れだろ〉

〈スミさんピンチだよー!!〉

〈コメント見てない人って切り忘れに気づく手段なくね?〉

〈友人から電話が来るとか……〉

〈無い〉

〈友達いないだろ〉

〈そこは、優しい心で「充電切れのスマホじゃ無理だよ」って言うところだぞ〉

〈友達ってか、家族もいないだろ〉

〈じゃあ明日まで永遠に気づかない?〉

〈いつも配信前に済ませちゃう白丸くんとの戯れが見れる…ってコト?!〉

〈それどころか、他の階層も見れちゃったりする!?〉

〈俺らオール?〉







高畑は大きなため息をついて、ベッドへ沈み込む。

そしておもむろに顔へ手を伸ばし、窮屈な仮面を外した。


黒い長いまつ毛、二重の切れ長の目、スっと通った鼻筋。

整った顔立ちの若い男が現れる。


〈ご尊顔!?!?〉

〈うわああああー!!!〉

〈祭りじゃあああー!!〉

〈美!美!〉

〈ネットニュースになるぞコレ〉

〈イケメンかよ〉

〈え?若くない?〉

〈えぐ〉

〈イケメンパラダイス出てた?〉

〈これを隠す意味ある?〉

〈拙者裏切られた気持ちでござる……〉

〈スミさん正味顔だけで人気配信者になれるぞ〉

〈もう人気配信者なんだなぁ~これが〉

〈俺と一緒にアイドル目指そう〉

〈プロデューサーニキがいるw〉

〈和風イケメンじゃん。男って感じ〉



「流石にそろそろ誰かに成果を褒めて欲しいな」


高畑は今まで作ってきた街並みを思い浮かべる。

自宅、庭、中央広場、商業街、湖公園、お城風の高台、花畑、宿泊施設――


何も無い広大なボス部屋に、これまで黙々と街を作ってきたのは、いつかここを通る探索者に街を楽しんでもらったり、泊まってもらったり、色々活用してもらうつもりだったからだ。

――正直誰も来ないと思っていなかった。


高畑、普通に寂しいのである。



「誰かそろそろ来ても良くない?ここ過疎ダンジョンなんかな~」


〈スミさんやっぱり配信切っても独り言うるさいんだね〉

〈顔がいいからなんでもあり〉

〈寂しんぼか?〉

〈6年もボッチだと気が狂うよ〉

〈わいニート10年できてるで〉

〈そんなことで張り合うなww〉

〈過疎ダンジョンっていうかもう少し上層にしろ〉

〈上層ってどれくらい?〉

〈正直ボス部屋陣取ってずっと討伐挑戦させて貰えないの邪魔だよ〉

〈需要のある人気ボスだと迷惑〉

〈誰も来ないからこそ文句も出ない。怪我の功名〉

〈この人300層くらい誰でも来れて当たり前と思ってる?〉



「誰か来てくれて、誰かが白丸のお世話代わってくれたら、しばらく地上に出れるのに」


〈wwwww〉

〈聖白龍のことペットと思ってる?w〉

〈ドラゴンのお世話なぞできるか!!〉

〈そもそもボス部屋内に人が来ないと動かないんだからお世話いらないでしょ。300層(推定)に誰も来んわ!〉

〈白丸お留守番できるタイプのお利口ドラゴンだからな〉

〈スミさん、自分が留守の間に他の探索者が来ること懸念してんの?無駄すぎるww〉




高畑がただベッドでゴロゴロして独り言を言うだけの謎配信が続く。

同接は減るかと思われたが、配信切り忘れ事故がSNSで拡散され、初顔出しの噂を聞き付けては見に来る人で賑わっていた。


〈誰この人かっこいい!〉

〈もう顔ファンできた?〉

〈エグww〉

〈顔ファンについて来れるかな。このキテレツな男に……〉

〈今自宅配信ですか?白丸?の世話あたし変わりますよ!一緒に住みたい!〉

〈あああww〉

〈ブフォwww〉

自宅(ダンジョン)

〈顔ファンネキww〉

〈口は災いの元ってはっきりわかんだね〉

〈この人猫かなんかと思ってるな〉

〈スパチャ送りたい!〉

〈カメラ目線ください〉

〈この顔ファン達を引連れて聖白龍なんか倒したら、モッテモテのモッテモテになるぞ〉

〈許せん〉

〈戦闘は見たいのにそれは嫌だ〉

〈長い髪もなんかエロくて似合うもんな〉

〈登録者数110万行ったでござる……〉

〈一瞬で10万人増えた?顔出ししたら売れるよスミさん!〉

〈もう既に……あれこれさっきも言ったな〉



「まぁ、いつか出れるでしょ!風呂入って寝るか」


腹筋を使って体を起こす。

衣類に手をかけ上半身のみ脱ぎ捨てると、ペタペタと歩いて風呂場へ向かう。

高畑はドローンが動いていることに気づかない。



〈えっえっ!神展開!〉

〈腹筋!腹筋!〉

〈やばーい笑〉

〈スミさんエッグ!〉

〈きゃー!!♡〉

〈ドローン追ってんな……〉

〈この流れまずい〉

〈下も脱ぐよな……〉

〈アッアッ……〉

〈あっ待っ〉

〈うわああああ〉




『この配信は規約違反のため終了いたしました』




ドラゴンとの再戦を期待していた視聴者は落胆で肩を落とす。

こうして、配信の切り忘れに気づくすべがなかった高畑を助けたのは、運営となったのであった。






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― 新着の感想 ―
ローファンタジー作品では「ドローンを使った配信者」が主流ですが、また新たなジャンル「生活だけでなく街造りをする」を発明した作者様はスゴイと思います。 所で、スマホは充電切れ・・と書いていますが配信用ド…
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