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昨日あげれなくてすみません(;_;)
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「ここほんとになんなの……」
真鈴は行動範囲を広げていた。
展望台にたどり着いた真鈴が漏らした感想がこれである。
展望台から見下ろす世界は真鈴の想像を超えていた。
「下層のボス部屋ってみんなこんな街みたいな感じなの?」
白とカラフルな天井の商店街のような道、先に鐘のついた塔のある広場、青色の花の咲いた丘と風車、整備された石畳の道と街路樹、電飾でライトアップされた広い湖公園、小さな森の中にある宿泊施設――
展望台からは、ほぼ全てが見えるようになっており、ボス部屋である証の重厚なドアも、かなり遠くであるが確認できた。
しばらくぼーっと眺めていたが、真鈴の心中には言い表せない不安が忍び寄ってきていた。
立派な街ではあるのだが、誰もいない為動きがない。
人々の活気のない街は演劇のセットのようで無機質に感じられた。
モデルルームのような綺麗な部屋にいて麻痺していたが、ここはダンジョンの中なのだ。
(誰もいない。私一人……)
「フゥ……」
思い詰めているのは自覚している。
真鈴は展望台で大きく深呼吸をしてみた。
現実世界にあればきっと気持ちのいい風にあたれただろうが、実際は無風。
ここは偽物の世界なのだ。
真鈴が一歩踏み出したのには明確な目的がある。
それはタカハタの弱点を見つけること。
そして自身の戦力をアップさせること。
不意打ち作戦は決まったが、まずは敵を知らなければ何も出来ない。
心臓を刺したところで、人間の心臓の位置に心臓があるとは限らないし、「心臓はずらしてあるんだぜ!ヒャハハハかかったな!!」などという事態になってはたまらない。
魔物には明確な弱点がある場合が多い。
体内の核だったり、額の目だったり、首の後ろの鱗、背中の赤い鉱石、体の関節部分だったりと、他の部分と比べて攻撃が入りやすい部位があったりするのだ。
そこを見つけて、叩く。
部屋の中でも訪れたタカハタの弱点探しはできるが、正直成果は殆どない。
タカハタの口から探るのがそもそも無謀だったのだ。
弱点は覗き見るしかない。
そのためにコソコソと部屋を出たのだ。
真鈴は再び景色を見渡す。
まずは敵の居場所を突き止めなければならない。
動きのない世界の中で唯一の動くものを見つけた真鈴は、視線を止める。
タカハタは小さな民家の庭でごろりと寝っ転がっていた。
他に特に家らしきものは無いので、あそこがタカハタの住処で間違いないだろう。
タカハタが寝っ転がったまま動かなくなり、世界は再び沈黙した。
もしかして今がチャンスではないだろうか。
まだ弱点らしい弱点は手に入れていないが、眠っている今が弱点のようなものではないだろうか。
決行を決意した真鈴は商業街へ目を滑らせ、ただ一箇所、武器屋で止めた。
『展望台の先は商業街になってるから良かったらお土産に好きな物持ってってください』
真鈴の脳裏にタカハタの言葉が浮び上がる。
とにかく行動あるのみ。
何もしないと何も生まれない。
真鈴は展望台の階段を駆け下りた。
しっくりくる短刀を手にした彩元は、一歩また一歩とタカハタへにじり寄る。
手に持つのは黒いモヤのかかる短刀――存在感のないその短刀は暗殺にピッタリだった。
武器屋には、黄金の大剣や、おそらく氷魔術の付与された鋭いレイピアなど、明らかに業物というオーラの武器もあったが、スキルがないものを持っても大してふれないので諦めた。
そもそも真鈴の腕力では大剣は持ち運べない。
タカハタは意外にも危機察知能力が鈍いのか、まだスヤスヤと寝ていた。
タカハタを見下ろしながら真鈴は狙いを定める。
心臓よりも首がいい気がする。
弱点は分からないが、心臓よりも首が確実だ。
心臓はズラされていたり二個あったりする場合があるからだ。
とにかく一撃で最大のダメージを叩き込まなければならないのでノーダメージになるリスクは避けたい。
真鈴は自分の飲む唾がゴクリと音を立てて響き渡ってしまうのではないか、高鳴る鼓動が振動を与えているのではないかと、過剰に気になって手汗をかく。
呼吸音がしないように、ゆっくり深呼吸をする。
これが無理ならもう一生敵わない。
やってもやらなくてもいずれは食い殺される。
ならばもう、やるしかない――
正直、真鈴には一撃必殺のスキルもなければ、攻撃力も微々たるものなので、一撃入れられたとしてもすぐに反撃されるのが目に見えている。
しかし、初心者の真鈴には相手の力量を測る力もなく、もしかしたら暗殺者のようにやり遂げることが出来るかもしれないと、本気で思っていた。
宙に掲げた短刀の黒い刀身がモヤに包まれ消えてゆく。
狙いは首筋。
覚悟は決まった――
庭で寝ていた高畑はふと気配を感じて目を開ける。
視界いっぱいに広がったのは彩元さんの顔――
「ヒッ」っと変わった驚き方をして慌てて離れた彩元さんだが、正直驚いたのはこちらの方である。
目を開けたらものすごく至近距離に彩元さんが居て、こちらを覗き込んでいたのだから。
「え?」
「な、なんでもないんです!全然、なんでも!」
片手をパタパタと振り回し必死に否定する様子を見て、高畑の疑念は確信へ変わる。
(俺、彩元さんにキスされそうになった!?!?)
いやまさかそんな、と否定したかったが、実は思い当たることもある。
最近の彼女は身の上を語ってくれた上に、いつも高畑のことを褒めるのだ。
「素敵な髪ですね、何かこだわりが?」であるとか、「逞しくて頼りがいがありますよね、どんなトレーニングをしてるんですか?」だとか褒める必要のないところで脈絡もなく始まる褒め攻撃に、高畑は内心頭を捻っていた。
それに高畑のことを知りたがる。
「私、腰痛とかあるんですけど、高畑さんはどうですか?」であるとか、「あ、あの!こしょこしょされて弱い部分とかって!あったりしますか?」だとか。
一応自分は彩元さんにとっては命の恩人と言えるわけだし、惚れられる理由はある。
間違いない。
「す、すみません。申し訳ございません……もう二度と、二度としませんので、いの――」
「あ、いや、その……未遂でしたし別に特には」
あまりに悲痛な面持ちで謝り倒してくるものだから、言葉を遮って気にしてないことを伝える。
「あ、ありがとうございます!」
勝手にしようとしたことをそんなに気にしているのだろうか、彩元さんは目に涙を浮かべて拝んできた。
このままでは泣かしてしまうのではと思い、「あの、別に俺は……嫌という訳ではなかったですよ」とフォローを入れた。
「え!嫌じゃない!?」
「ただ、こういうのはちょっと順序とか、気持ちの問題があるじゃないですか。そういうのすっ飛ばしていきなりとなると……」
「ああ、そういう……はい……卑怯ですみません……」
彩元さんは光の無い目でアハハ……と呟いて心ここに在らず、どこか遠くへ行っているようだった。
これ以上高畑がフォローしても更に困らせそうだったのでもう何も言うまい。
こっちだって急展開でドキドキしているのだ。
誰か助けて欲しい。
「武士らしいですね……」と彩元さんが独り言のように呟やく。
武士らしいとは、今どき順序や気持ちなど、そんなことを気にするのは古風ということだろうか。
高畑の知らぬ間に、告白して想いが通じあって付き合って、暫くしてからキスをするというのが基本の時代は終わっていたのだろうか。
そんなことを考えていた高畑の目に、彩元の手に収まるナイフが目に留まる。
話を変えようと、「あ、それお土産に選んだんですか?」と問いかけた。
「ヒッ……い、いやその……」
「全然貰ってください!それ丁度よさそうですし」
彩元さんが持っているのは短刀だ。
黒い刀身の短刀ではあるのだが、モヤがかかっておりそれを包み隠している。
モヤ次第では、短刀が太刀にも見える代物で、使いこなせばちょっとした騙し討ちにも使える。
短刀そのものの存在も隠すことが出来て、太刀筋を見せずに戦うことも出来る。
身の上話を聞いた時に、短刀で戦うスタイルだとも語っていのできっと使いこなせるだろう。
「は、はい……いただきます」
話題を変えても彩元の挙動はおかしいままだ。
今は何言ってもきっとダメだろう。
乙女心など知りもしないが、そっとしておくのが正解なのかもしれない。
高畑は「じゃあまた夕飯時に」と声をかけて自宅へ入った。
勘違いラブコメ???ええなぁ〜




