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「こんにちは」
「あ、どうしました?」
「これ、お肉です」
「ありがとうございます!すぐ作りますね。どうぞ」
「お邪魔します」
295層で出会った彩元さん。
出会った時は倒れていたので、心臓が飛び出てしまった。
急いでポーションをかけたが、全然意識を戻さなかったのでここまで連れて帰ったのだ。
初の来場者だが、自分で連れてきたので来場者にカウントして良いものか悩ましい。
とりあえず来場特典の宝箱はプレゼントしておいた。
彩元さんは意識を戻してもまだ具合が悪いのかしばらく滞在していた。
作っておいた宿泊施設を気に入ってくれているようで何よりだが、気に入りすぎているのかほとんどここから出てこないので、こちらから顔を見せに来ていた。
彩元さんが焼き上げた白丸のステーキを運んできて、
「どうぞ……いつもと同じですけど」とテーブルへ置く。
「あ、全然大丈夫です。俺毎日肉なんで」
「肉食……」
「ん?」
「あ、いえ!なんでも」
彩元さんはコミュ障なのか、大人しくて控えめな方だ。
自身と同じ種類の人間のようで安心感があり、高畑はいつもよりリラックスして話をすることが出来ていた。
「彩元さんはお体はもう何ともないんですか?」
「あ、はい。おかげさまで……ありがとうございます」
なら良かった、と返し肉を頬張る。
やはり焼き方が違うのかと、肉の中心に残る赤みを見ながら美味しさの秘訣を探る。
そもそも高畑の焼き方は加減知らずのファイヤーボールによる超スーパーウェルダンなので、どんな肉でも最悪の硬さになってしまっている。
料理人と言っていた為、何らかのスキルがあるのだろうが、一般の人が焼いても高畑よりはまともなステーキを作るだろう。
「じゃあそろそろ探索を再開されますか?」
「……え?」
「あ、いや、いつまでも300層に居れないでしょう?」
彩元さんがガタっと椅子の音を立てて後ろずさる。
大きくて可愛らしい目をさらに大きく見開いて驚いていた。
「さ、300層!?」
驚いている彩元さんに高畑も驚いたがそもそも意識がない時に連れてきたことを思い出す。
「あ、すみません。彩元さんは295層を探索してたのに勝手に300層まで連れてきちゃったんです」
「295層から再開しますか?」と話を振るが答えはかえってこなかった。
大怪我をしていたし295層の魔物とは相性が良くなかったのかもしれない。
高畑も初めの頃は魔術無効の魔物に苦労したものだ。
あの頃は武術よりも魔術が得意だったので、アイテムボックスから剣や槍を降らせる戦法でゴリ押したものだ。
「すみません。わざわざ戻らなくても下に進んじゃう方が早いですよね」
「い、いや、えっと」
「あ、もしかして――ボス討伐したいんですか?」
毎日先に倒してしまっているため、彩元さんの挑戦する機会を奪っていたことに今更ながら気づく。
ただ先に進みたいなら、下へ続く階段はほぼ常時解放されているし、地上に戻りたいなら帰還ワープだってある。
ボス部屋を占拠するのは戦いたい人にとっては迷惑だったのかと反省した。
滞在時間分のドロップ品を分けたら許してもらえるだろうか。
「め!」
「め?」
「滅相もございません!!いつも良くしてもらってるのにそんな、恩を仇で返すような真似……絶対にしません!」
いきなり大きな声を出すので驚いた。
(良くしてもらってるって……)
「魔物なのに?」
「っ……魔物でも、です」
何を言ってるんだと彩元さんを見やると、彩元さんは俯いたまま真剣な目をしていた。
視線の先にあるのはステーキ――
まさか、毎日美味しいお肉をくれる白丸に恩を感じているというのだろうか。
狩らなければ貰えない肉だというのに、肉をくれるから狩らないとはなんとも矛盾していておかしいが、彩元さんは真剣な様子だったので何も言わないでおいた。
おいしい牛肉に感謝して牛を可愛がるようなものだろうか。
「なるほど。確かに俺もそれなりに愛着は湧いてきました」
「ヒュ……ありがとうございます」
夕食を終え早々にお暇する。
毎日一人でスローライフをしていたが、やはり人と話したりご飯を食べたりすることも大切だなぁとしみじみと思った。
6年間一人でいた自分は多分少しおかしかった。
「じゃあまた」
ドアを閉めようとしたが、逆に大きく開かれる。
「あの!これからも何卒よろしくお願いいします……」
彩元さんが何故か必死に頭を下げるので、こちらも慌てて頭を下げる。
「あぁ全然!またお肉持ってきますので!」
後ろ向きに歩きながら大きく手を振る。
いつまでもドアでペコペコとしている彩元さんが可愛らしかった。
それにしても彩元さんは随分白丸の肉を気に入っているようだ。
よろしくということは、彩元さんは暫くは探査を中断してここに滞在し、白丸を可愛がるらしい。
こちらとしてもしばらく居てくれるなら嬉しいので白丸に感謝しなくてはならない。
そんなに白丸がすきなら、白樺の間じゃなくて白丸の間に移してあげても良いかもしれないなどと考えながら、高畑は自宅へと帰って行った。
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