1
なろう系久しぶりヽ(*'▽'*)ノ
正直配信者にわかです。なろうで何となく雰囲気を学ぶ笑
「はーいこんにちは。今日も元気にダンジョンすみっコぐらししていくよ〜」
俺、高畑優成はいつも通り配信をオンにして挨拶していく。
〈待ってた〉
〈最高〉
〈至福のひととき〉
〈こんにちは(深夜)〉
〈待って、深夜一時なのやめて、もう寝ないと明日起きれない〉
〈ニートの俺余裕〉
〈ゲリラならせめて昼にして欲しい〉
〈体内時計常に狂ってるから無理だよ〉
〈ゲリラは定期なんで〉
「今日は、水辺が美しい公園を作るよ〜まずは〜湖の位置を決めるか」
今日は自宅から少し離れた土地に来ていた。
街エリアのショップや道はあらかた作り終わったので、緑の多い公園が欲しくなったのだ。
とは言ってもここはダンジョンのまだ未開拓の地。
地面は岩のような色合いで細かいでこぼこアスファルトのような感じで緑のミの字もない。
もちろん湖もない。
一から作るのだ。
〈ダンジョンであつ森すな〉
〈いいですな〜〉
「この辺掘ってみるか」
俺は、アタリをつけた場所に杖をコンコンと細かく突き立てながら歩いていく。
一周囲ったところで、強くイメージして魔力を流す。
ゆっくりと固いダンジョンの床が変形して湖になる。
〈毎度の事ながら意味がわからん。意味がわからん〉
〈どんだけ〜(混乱中)〉
〈これなんの魔法?〉
〈地形操作とか?〉
〈なんで水が湧くのwwwww〉
「綺麗な円形だとダサいかな……ちょい歪ませとくか」
俺はところどころ杖で叩きながらまた一周する。
「真ん中は陸地にしてガゼボとか置きたいな〜もう遠いけどここからいけるかな」
既に湖にしてしまったため近くに行くことが出来ない俺は、仕方なくその場で杖を掲げ目を閉じる。
水を押し出す音が聞こえたので再び目を開けて確認する。
湖の真ん中にしっかり陸地が出来ていた。
「お〜いいじゃん。橋を一直線に掛けて〜ヤバッめっちゃいい感じじゃないっすか〜!どうです〜?」
テンションが上がって声が大きくなる。
「って誰も聞いてないか〜。いかんな、一人暮らしだと独り言が多くなる」
〈結構見てるけどな〉
〈ツッコミどころが多い〉
〈一人暮らしの意味合いが広大なんだが〉
〈家だけではなく街全体で一人暮らしだもんな〉
〈何でこの人オシャレな街で一人なん?どこここ?〉
〈しらん〉
〈スミさん七不思議の一つ〉
〈てかこれダンジョンなん?〉
〈ダンジョンであることは確定。中央の鐘が24時間おきに鳴るようになってて、ボスモンスターがリポップする〉
〈は?ボスモンスター?〉
〈マ?〉
〈じゃあここボス部屋?ひっろ〉
〈俺達もボスモンスターは見たことないからあくまでスミさんが言うには、だ。一応唸り声までは聞いた〉
〈なんのボスか分からんわけか〉
〈ボスモンスターの種類分かればある程度どこか分かりそうだな〉
〈あつ森する前にボスモンスター討伐配信しろよ〉
〈スミさんの配信は『ダンジョンすみっコぐらし』なんで戦闘はなしだよ〉
〈戦闘職じゃなさそう〉
〈大工さん戦えるんか?〉
〈それスミさん七不思議二つ目。職業不明だよ。多分生産職でしょ〉
〈生産職がボス討伐……?(宇宙猫)〉
深夜にも関わらずかなりの人が見ているし、コメントも盛り上がっている。
ただ、本人にはその自覚がない。
ダンジョン覚醒創成期にダンジョン探索者資格をとって潜ったっきり、地上に戻ってないのだ。
一度も。
ダンジョンは一日で探索するにはかなり広く、
中には一ヶ月ほど掛けて探索する探索者もいるが、
ダンジョン覚醒創成期から一度もダンジョンから出ていないのはこの、高畑優成のみだ。
もう既に六年間、高畑はダンジョンのすみっコで暮らしているのだ。
これはダンジョン協会側も大誤算だった様だ。
ダンジョンに住み着く人がいるなんて予想もしていなかった。
高畑は六年間、探索者としてダンジョン資源を持ち帰ったこともなければ、税金も一切払っていない。
後から色々法整備され、探索者ランクというものができ、F~Sまであるのだが、高畑はシステムすら知らない。
ダンジョンや魔術、スキルについての講習も義務化されたのだが――高畑は受けていない。
一応、探索者の義務として配信はしているが、コメントの見方はおろか、チャンネル登録者数の見方も分からない。
もちろん収益化も出来ていない。
SNSも見なければ、ダンジョンについての情報が手に入る掲示板も見ていない。
この男、かなりの情弱――
無知で常識外れの化石のようなダンジョン配信者なのである。
協会側も連れ戻そうと、高畑を見つけたら連れ帰って欲しいと探索者に依頼を出しているのだが一向に見つからない。
ダンジョン協会の掲示板に貼られた、配信の切り抜きの高畑と、『探しています』の文字。
懸賞金もかけられており、その額は百万円。
さながら指名手配のような貼り紙だ。
見つからない内も配信で高畑の様子は見れるわけで、配信内で行う訳の分からない魔術や映り込むアイテム、未知の魔獣――
明らかに高レベルの探索者であり、日本の発展のため、ダンジョン攻略や各地の魔物災害対応のために早く戻ってきて貰いたいが、ダンジョンにいることは分かっているのに見つからない。
ほぼ行方不明者だ。
さて、この切り抜きの高畑、手には先程の配信にも映っていたデカイ杖を持っている。
木製のデカイ杖の先にはこれまたデカイ宝玉が付いている。
漆黒の宝玉はギラギラとしたラメが散っているように見えるが、配信を見るとこのラメが動いているのが分かる。
恐ろしいほどの魔力圧を感じる一目見てわかるヤバい代物である。
服装はごく普通。
ダンジョン協会で創成期に支給していた初心者用のダンジョン服である。
しかし髪型は特殊――男性だと言うのに髪は背中まで伸びた黒髪ロングストレート。
六年間も外に出ていなければ美容院に行くこともないので伸びっぱなしなのだろう。
そして何より目を引くのは、顔にかかった狐の面。
高畑、無知でアホのくせに無駄に顔出しを嫌がり、狐面で配信しているのだ。
確かにあの頃は同じ考えで面をつけて潜る探索者もまぁまぁ居たのだが、面をつけていれば当然視界も狭まる。
危険なダンジョンでこんなものをつけていれば、顔面よりも臓物を晒すことになりかねない為、仮面文化はすぐに廃れた。
代わりにモザイク出来るようになったので、顔出ししたくなければモザイクモードをオンにしたら良いだけである。
ダンジョン協会側は高畑の顔を知っているのかといえば、答えはノー。
今でこそ免許証のように写真付きの探索者カードとなったが、あの当時は顔写真なんて撮ってないし、提出義務もなかった。
名前は把握しているが、本人がチャンネル内で本名を出していないため勝手に載せるわけにもいかない。
よって出来上がった貼り紙には、
狐面黒髪ロングの男の姿とともに、視聴者の間ですっかり通称となっている『スミさん』と書かれているのだった。
ダンジョン協会会議室の一室。
ホワイトボードの前でダンジョン協会所属の椎名鏡花は淡々と話す。
「おそらく高畑さんは、ランキングの100位以内にいます」
『ランキング』
これもダンジョンや魔法と共に突如もたらされた摩訶不思議な現象の一つ。
ステータスが付与されると同時に謎の順位も現れたのだ。
恐らくこれは強さのランキング――
現在ランキング一位はLv563でノーネイム。
ノーネイムというのは名無し。
つまり一位の人が名前を登録していないのだ。
アメリカが隠し持っているとか、ロシアの最強兵器とか言われているがどれも根も葉もない噂程度で確信的なものは無い。
ランキング一位の存在は謎に包まれていた。
二位はLv250でジャスティン・アンダーソン。
職業は勇者。
アメリカ人の屈強な男性で、人格者。
世界各地のダンジョンを攻略している実力者でもある。
三位はLv222で江明明。職業はネクロマンサー。
中国人の黒髪ショートの女性であまりメディアには出ていないが、最低限情報は公開しているし、多くの功績を残している。
四位はLv211でノーネイム。
五位もLv211で同じくノーネイム。
六位はLv102でレイチェル・チェルシー。
職業は戦乙姫。
イギリス名家のお嬢様でまだ学生だが、1番多くメディアに出て活動している。ダンジョン配信者で一番有名なのは彼女だろう。
七位はLv190でディオ・ダ・シルヴァ。
職業は将軍。
ブラジル人男性で世界最大ギルド、Knightsのギルドマスター。
八位はLv178でノーネイム。
九位はLv170でアレクセイ・チェーホフ。
職業は精霊術師。ロシア人男性で美しい顔と見栄えのする職業でファンが多い。
十位はLv237でヘレン・ガルシア。
職業は聖女。
スペイン人女性で、多くの人の命を救い、奇跡の天使と呼ばれている。
このように十位まで日本人は皆無。
日本一位は、ランキング26位の矢野進次郎である。
なんとしてでも戦力アップがしたい日本ダンジョン協会は躍起になって育成しているのだが如何せん上手くいっていない。
そもそもランキング上位になるにはLvをあげるだけではダメなのだ。
Lvが高くなくても六位になっているレイチェルがいるように、職業によって強さが全然違う。
ランカーは全員特殊職業。
そして摩訶不思議な現象ばかり引き起こしている高畑もおそらく特殊職業と見て間違いないだろう。
「ん〜本当かね?彼は戦闘職では無いのだろう。職業がレアだとしても、強くなければランキング上位は難しいだろう」
「こちらをご覧ください」
椎名はとある配信の切り抜きを見せる。
「これはフェンリルの毛皮です」
ガタッ
椎名の上司が身を乗り出して動画を見る。
「フェンリルの毛皮!?」
「――がカーペットになった……」
一瞬でレア素材を無駄なものへと消費した様を見て放心状態になっている上司を置き去りにして、椎名は説明を続ける。
「ダンジョンから六年戻らず生活ができる実力があるという事。
フェンリル等のレア素材がドロップする程の幸運か何らかのスキル……もしくは直接戦闘をしているという事。
捜索依頼を出しているのに誰にも見つからない場所、未発見ダンジョンの上層である可能性ももちろんありますが、先程のフェンリルを踏まえるとそれは無いでしょう。
つまり深層の可能性がある場所で暮らしているという事」
「以上を踏まえるとこの人材を野放しにしているのは国の損失になりうるかと」
「うむむ……」
復活した上司は腕を組んで黙り込む。
「早急にランキング登録していただき、ダンジョンの貴重な資源の納品、情報の共有をしていただかないといけません」
「今は数名のコアなファンと他数名にしか見られていないチャンネルですが、それでも平均50名は見てます。登録者数は1.5万人です。
正直もっと有名になってもおかしくない人材で、このまま訳の分からない脱税生活を広められると困ります」
椎名は上司が眉を寄せたのを見て、ここだとばかりに畳み掛ける。
「彼が潜った当時はなかった制度、ランク制も取り入れられ彼はFランク探索者となっているのですが、現在彼はFランク探索者の義務である、『最低月一の納品』ができていない状態になります」
探索者が探索者であるためには、様々な義務がある。
講習を受ける義務。
情報を持ち帰る義務。
納品の義務。
何も知らない高畑は当然その全てを果たしていないのだ。
上司は明らかに、椎名が日本の発展のためという側面よりも、探索者規定違反の取り締まりのためという側面を推して話した時の方が反応がいい。
日本よりも、ダンジョン協会の体裁のほうが大事なのだろう。
椎名は、上司の目を見てしっかりと言葉を放つ。
「正直今……不法探索者です」
「良し、懸賞金を引き上げる」
高畑、懸賞金1000万――
「ふぅ〜ガゼボってこんな感じか〜?」
出来上がったガゼボを見上げて一息つく。
色は橋の色と合わせて黒、材料は余っていたミスリルにした。
四つの柱には滑らかな波線を彫り込み、天井は円形で屋根には薔薇のような装飾を施している。
「錆びなさそうで頑丈だし、とりあえずミスリルで作っておけば大丈夫だろ」
〈いや、とりあえずとは?〉
〈は?ちょっとガゼボから採掘してよろしいか?〉
〈ミスリル氏……立派になって……〉
〈かなり時間かけて作ってたから壊したら泣くぞ〉
〈てか、ミスリルの剣でもかなり高いのに、ガゼボサイズってヤバすぎ〉
〈おいくら万円?〉
〈多分素材自体はいいんだが、ガゼボになんの攻撃力もないから性能的にはなぁ〜〉
〈ガゼボ欲しいやついんの?〉
〈腐ってもメイドインスミだからワンチャンいる〉
「あとは、ガーデンテラスみたいなオシャンな机と椅子……椅子はひとつでいいか。一人暮らしだし」
〈一人暮らし(街全体)〉
〈自虐?持ちネタなの?〉
〈二個あった方が形になるで……〉
〈この人何が面白いん?ずっと金属ねりねりしてるだけやん〉
〈ハマるよ〉
〈すみっコぐらしでしか得られない栄養がある〉
〈たまに訳分からんレアアイテムを訳分からんクソみたいなことに消費するから激オモロ〉
〈分かる。あの激やばそうな杖、よく物干し竿になってるよ〉
〈開始した広場の看板、エンシェントトレントを削ってデキテルヨ〉
〈は?!?!!〉
〈それ、討伐した…ってコト?!〉
〈生産職だぞ〉
〈スミさんの七不思議三つ目〉
〈何故か貴重極まりないレア素材を持っている〉
〈ミスリル、オリハルコン、謎の巨大な魔石、金鉱石、ダイヤモンド、エンシェントトレントetc…〉
〈フェンリルの毛皮……〉
〈あったな〉
〈スミさんのカーペットフェンリルの毛皮……〉
〈なんでカーペットなんだよォォォ!!もっとこう、防御力を活かしたヤツゥゥ!!〉
〈ヤバ〉
「あとは湖の周りに柵がいるよな〜同じ素材で統一感だしつつ〜」
〈あわわわミスリルの柵が量産されていく〉
〈何が「統一感」じゃ〉
〈そんな統一いらないんだよ〉
〈なんかクセになってきた〉
「あとは緑がいるな!木を等間隔に生やして〜」
湖の周りを一周しながら木を生やす。
結構いい感じだ。我ながら感動する出来栄えだ。
〈あっ、あれは(絶句)〉
〈エンシェントトレントの素材が街にありそうなオシャンな針葉樹になっていく……〉
〈囲いまで暖かな色合いのレンガになっててこだわりを感じる〉
〈緑なら我々が生やしとくんで〉
〈草草草〉
〈wwww〉
〈もう既に大草原なんだよなぁ〉
「ライト欲しいな。橋に絡めたライト線……ありだな」
俺は光り輝く小粒のような石ころを取り出して手のひらに握り込む。
手を開けばお目当てのライトが完成だ。
〈明光石?〉
〈まぁ明光石くらいなら〉
〈麻痺してない?明光石100g1万円やぞ〉
〈オシャレな女子の部屋にありそうな光る線ならホムセンで買ってこい〉
「橋の入口はアーチみたいなやつ欲しいな。黒の柱二本をランプで繋いで〜」
〈あ〜あっあ〜お客様〜!困りますぅ〜〉
〈ミスリルと明光石が〜〉
〈オシャレだな(諦め)〉
〈なるほど激オモロだな〉
〈てか素材どこから出してるん?〉
〈おそらくアイテムボックススキル。生産職だしあっても不思議じゃない〉
〈七不思議やないんかい〉
「あと何がいる?公園を見たのが昔過ぎて思い出せん」
黒と緑を基調として整えてきたが、なにか物足りない。
公園――遊具?
俺は遊ばないためどうもしっくり来ない。
もっと大人がゆっくりデート中に休憩するようなオシャンな空間の公園がいい。
〈噴水!〉
〈水飲み場!〉
〈トイレ!〉
〈花壇!〉
〈お前らここでいっても見てないからな〉
「あっ!芝生だ!広い芝生ゾーン作ろう。寝っ転がったら気持ちいいぞ。ティックトック?インスタ映え?もするかな?」
〈……〉
〈採用者おらず〉
〈おまん、SNS音痴じゃろ……〉
〈インスタ映えとか若者ぶるなってww〉
〈スミさん若いと思うけどな〉
〈スミさんのTikTokダンスみたい〉
〈まって!!!〉
〈何あれ〉
〈めっちゃ光ってる〉
俺は緑色の結晶をアイテムボックスから取り出す。
これは綺麗でお気に入りだったがまぁいい。
200層のボス、ドライアドを倒した時に手に入れた『ドライアドの涙結晶』
ちょっと遠いから面倒なだけでまた取りに行けないことも無いのでどんどん使っていく。
地面に放り投げた涙結晶を自前の杖の先で砕きながら強く念じてイメージする。
杖の先から緑色の光が円状に広がっていき、風で長い髪が舞い上がる。
光が収まり地面を見るとしっかり芝生が生えていた。
〈神秘的〜〉
〈おそらく未発見の石だね〉
〈宝石?〉
〈この範囲の芝生になる石、なるほどわからん〉
「お〜!結構いい〜」
今日はかなり作っていったので疲れも感じていた。
思わず出来たてホヤホヤの芝生に腕を組んで寝っ転がる。
めちゃくちゃ気持ちいい。
眠れそうだ。
〈ダンジョン配信に有るまじき平和さ〉
〈ダンジョンなめすぎ〉
〈探索者なんやから探索しろや〉
〈スミさんは探索してないよ。暮らしてる〉
〈暮らしてるはパワーワード〉
〈……アレ?動かん〉
〈ワンチャン寝た〉
〈俺らも寝よーぜ。今深夜三時やぞ〉
〈何が楽しくて成人男性の寝てるところ見なきゃならんのだ〉
〈黒髪ロングだし女性と思えばいける〉
〈体格良すぎるだろ〉