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日間・週間ローファン2位ありがとうございます!
「いきます!『挑発』『金剛』」
「ハァアアアアアアア!『紫電一閃』」
渡辺が盾でミノタウロスの大斧を抑えていると、紫色に輝く稲妻のような光が駆け抜けるのが見える。
村嶋の電気を帯びた魔剣による剣撃は、一太刀一太刀が素早くミノタウロスの斧撃とまともにやり合っていた。
復帰してきた村嶋は、雷の魔剣の使い手のようで、雷のように素早い剣撃と、様々な雷魔術の合わせ技で確実にダメージを与えていた。
根岸のデリカシーのなさもたまには役に立つものだと、渡辺は密かに根岸を讃えた。
村嶋が『雷鳴驟雨』と叫び剣を頭上に掲げ振り下ろすと、ミノタウロスの頭上へ落雷の雨が降り注ぐ。
軽い痺れデバフがかかるようで、ミノタウロスの動きが鈍り、渡辺と根岸はここぞとばかりに集中砲火を浴びせた。
「ハァ!」
「ウォラァ!!」
確実な手応えがあった。
ミノタウロスの体がゆっくりと後ろに倒れ、ドロップ品を残して消失する。
「やった……」
「嘘!!俺たち勝ったんですね!」
渡辺も信じられず目を見開く。
Cランク探索者の渡辺は赤布のミノタウロスと対峙できるほどの実力は無いはずだった。
Aランク探索者の村嶋が居たからと納得することは出来るが、そもそも復帰するまでの30分間を4人で耐えていたことが、渡辺にとって不思議だった。
「死ぬ気でやれば、実力以上の相手とやり合えるもんだな」
「火事場の馬鹿力ってやつ?」と笑いながら勝利の一服をキメる根岸。
「うめぇぇぇー傷んだ体に染み渡るぅ〜」
馬鹿みたいなことを言ってはいるが、頭から血を流していて一向に荒い息が収まらない様子を見て、渡辺は勝利の高揚感から一気に冷めた。
「ちょ!?怪我!その前にポーション飲みなよ!」とあわてて腰のポーチから取りだしたポーションを根岸へ押し付ける。
「大袈裟だな。人間これくらいじゃ死にゃーせん」
息絶え絶えなくせにポーションを飲もうとしない根岸を見て、渡辺は怒りながらポーションを無理やり飲ませた。
「煙草よりポーション!!」
「俺には煙草の方が効くんだなぁこれが。パーティーメンバーなら覚えてろ」
根岸は痩せ我慢なのかなんなのか知らないが、ポーションを3分の1残して、村嶋にも手渡した。
根岸の方が明らかに重症だが、村嶋も軽い傷を作っており、前衛で無傷なのは自分だけだった。
「いや〜!やったな!」
多々良と真野も駆け寄ってくる。
「渡辺さん!赤布のミノタウロスを一人で押さえ込めるなんて!Cランクって嘘だろ、おい!」
多々良の賞賛の言葉に、渡辺はハッと息を飲む。
(そうだ、いつもボロボロになってたのはあたしだった……)
だからポーションを携帯していたのだ。
根岸がボロボロで自分が無事な状況に違和感があって不思議な感じがしていたのだ。
渡辺が抑えて根岸がアタックする、いつもの攻撃パターンが格上相手にハマったこと自体がおかしいのだ。
『金剛』で防御力を上げてたとはいえ、赤布のミノタウロス相手に怪我ひとつせず抑え込めていたという事実に困惑する。
こちらを見つめる根岸の視線にも疑惑の色が浮かんでいたのが分かった。
「優秀なタンクが1人いるだけで全然違うなー」
「あ、ありがとうございます」
いつもと違うところといえば、生死をさ迷っているというところだ。
根岸が言った通り火事場の馬鹿力なのだろうか――
今の戦闘は、いつもより敵の攻撃を軽く感じたし、敵の攻撃を受けるために盾を動かしたというより、敵の攻撃がちょうど盾の真ん中にきたという感覚がした。
そして、実はもう一ついつもと違うところがある。
渡辺は、片手に持っていた盾を両手で顔の正面に持ち上げる。
盾だ。
盾がいつもと違うのだ。
盾を覗き込むと、ブロンドの髪につり上がった眉のまつ毛の長い女と目が合う。
盾は鏡面仕上げになっているようで、様々な模様はあるが、鏡として利用できるほどクリアに自身が映っていた。
武器である盾にここまで装飾を入れるのが珍しいというほど、色んな彫りが入れてある。
縁には波線と点を交互に彫られてあり、その次は曲線。
多角形の囲いの角には謎の渦巻き模様。
真ん中にはドラゴンが咆哮をあげる瞬間のようなリアルな彫りがあり、ドラゴンの周囲には黄金に煌めく流星のようなものが散っている。
流星の部分は彫りではなく、細かな石が嵌め込まれているようだった。
盾なんて一番傷だらけになるというのに、表面に凝ったデザインを入れるなんて馬鹿げている。
そのまましげしげと眺めていると、あれだけ使った後でも自身の顔が見えるほどの曇りなき盾のままである事に気づき、映る女の顔が驚きに染る。
(傷ひとつない……?)
渡辺は渡してきた青年を思い出したが、多々良の大声に思考をかき消された。
「総員準備!!花屋の方!数は6体!」
全員が身構える間もなく、5体の黒い獣が突っ込んできた。
渡辺は咄嗟に盾で2体弾き飛ばす。
村嶋が2体、根岸が1体を止めたようだ。
5体の黒い獣は、ブラッディウルフだった。
これなら渡辺達が普段から探索している層にも出てくる魔物なので、やり合えると安堵する。
前衛の数よりも多いのはしんどいが、Aランクの村嶋と、Bランクの多々良がいれば問題なく処理できるはずだ。
5体のブラッディウルフは一度引いた後、ジリジリと距離を詰めてくる。
闇雲に個人技で突っ込むことはせず連携している様子だった。
「そっちに気を取られるな!! 奥!!」
多々良の緊迫した声に従い渡辺は奥へ注意を向ける。
多々良が、先に気配察知をしたのは6体。
まだ1体足りていない。
渡辺は急に空気が変わるのを感じた。
徐々に現れる巨大な体躯にじっとりした汗をかく。
重苦しい威圧感を放つそれは、マッドブラッディウルフというブラッディウルフよりも上位の魔物だった。
黒い毛並みに、鋭い牙、前足には鋭い爪。
目の際には赤い隈取りがあり、額や胸元にも赤い文様がある。
両前足と頭には黒い甲冑を着ており、首には髑髏の頭蓋骨のネックレスを、まるで戦果を自慢するかのように着けていた。
マッドブラッディウルフの厄介なところは、マッドブラッディウルフ自体の強さも然る事乍ら、複数のブラッディウルフを使役し、強さを引き上げ、軍団を作るところだ。
幸い5体しか使役していないようだが、まだ増える可能性も充分ある。
(ブラッディウルフの相手だけでギリギリなのに、マッドも!?)
渡辺は顔を強ばらせ後込む。
統率されたブラッディウルフは、通常のブラッディウルフの倍強いと聞いたことがある。
ここは本当に何層なのか。
渡辺の適正階層を大きく越えているのは間違いない。
強者の余裕感を漂わせゆっくり近づいていたマッドブラッディウルフが、その歩みをピタリと止める。
空気が揺れた――
マッドブラッディウルフが、いつの間にか眼前に迫る。
「クッ!」
「愛梨!!!」
渡辺は何とか盾は構えたが、ズリズリと滑り込み30mほど移動させられる。
それでも相変わらず無傷な自分に驚いた。
「グルルルルグゥワオ!!!」
マッドブラッディウルフがブラッディウルフへ指示を出すように唸ると、5体が一斉に襲いかかる。
渡辺はマッドを相手している為、今は前衛が2人。
とても押えきることは出来ず、一体が抜けていく。
「真野!!!」
「うわぁぁあ!!!」
向かってくるブラッディウルフに怯えた真野が、あわてて風の弾丸のような魔術を打っていたが当たりもせず、どんどん距離は縮まっていく。
「危ない!!!!」
多々良が真野に飛び込んで突き飛ばす。
多々良の右肩に鋭い爪痕が刻まれ、血飛沫が舞う。
「多々良さん!!」
「クッソ!!『爆炎弓』」
多々良は苦肉の策で至近距離だというのに、ミノタウロスに開幕に浴びせたのと同じ、爆散する矢を放つ。
多々良と真野が爆風によって渡辺の近くまで転がってきた。
渡辺は、マッドの爪を弾くと、多々良達の元へ駆ける。
まだ持っていたポーションを渡すと、二人を庇うように盾を掲げた。
マッドブラッディウルフの両脇にブラッディウルフも並ぶ。
敵に戦力を分散されたままでは勝てない――
連携してギリギリで格上を倒せたのだ。
多々良の指示もなく、村嶋の強力な攻撃もなく、真野の細かい妨害もなく、根岸の連撃もなく、勝てるわけがない。
そう思ったのは皆同じだったのか、村嶋と根岸も敵を撒くと駆け寄ってくる。
6対5の構図に再び戻すことができた。
「ハァハァ……」
「さっきよりかは格上じゃねぇーつーのに、一人で抑えんのはキチィな」
「数が厄介ですね」
「ツッ!?!? 大技くるぞ!」
渡辺達が1箇所に集まることはマッドブラッディウルフにとっては好都合だったようだ。
マッドブラッディウルフの頭上に黒紫の球体が現れ、ギュルギュルと音を立て魔力を吸い巨大化していく。
(何あの魔力……あれをあたしが受け止めんの……?)
無理だと思った――
中二ぶりに、技名とか魔物の名前とか考えてヘトヘトですよ笑
盾の女の人と煙草男性が再登場って気づいた方いました?
次回こそスミさん出します!!!!
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