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日間ローファン2位!
週間ローファン5位!
ありがてぇ……(泣)
誤字が多いみたいで沢山の報告助かります。
ありがとうございました!
中村との会話で取り戻したコミュニケーション感覚は直ぐに消え去ることとなる。
「ハァ!?ちょっとお兄さん何してくれてんの!!」
「あ〜あ〜こいつ骨折れちゃったよ」
「これは医療費高くつくよ〜?」
ダンジョンを後にした高畑は、交差点の人混みに酔い、人気を避けて裏通りへと出た。
いつもの調子で“ほんの少しだけ”早歩きをしていたところ、人にぶつかってしまい、この通りだ。
高畑は3人のチンピラに囲まれた。
ぶつかったのは難癖をつけてくるタイプの古き良きチンピラ、粕谷、葛本、五味の3人。
「す、すみません……急いでて」
「ごめんじゃ済まないでしょう。小学生じゃないんだからさぁ」
葛本と五味はギャハハと歯を見せて騒ぎ立てる。
「これ、粕谷骨いってるでしょ、痛そうにもがいて動かないよ〜良心は無いわけ?」
粕谷は未だに地面へ倒れている。
必死に右腕を抑えて苦悶の表情を浮かべるその姿は、いつもより演技に熱が入っているようだった。
葛本は粕谷の迫真の演技に若干引きながらもいつもの調子で脅しをかける。
続けて五味も下衆顔で畳み掛けた。
「君、探索者?あ〜ダメなんだよな〜探索者が一般人を怪我させるなんて。探索証剥奪ものだよ〜これ。訴えちゃおうかな〜」
ぶつかられたのは粕谷。
金が欲しいと3人で話していた時に、ちょうどタイミングよくぶつかられ、粕谷が即地面に転がったため、残りの二人、葛本と五味も加勢した。
鴨が葱を背負って来たと、葛本はほくそ笑む。
3人はこの手口でよく金をむしり取っていたが、今回は正真正銘向こうからぶつかっていたのだ。
「そっちがぶつかってきたんだろ」などと、無駄なやり取りをするのが省けてラッキーだ。
五味も同じように思っているのか、いつもより調子よく責め立てていた。
ぶつかってきた青年は顔を真っ青にさせて、縮こまっている。
白い肌でフードを被った初心者探索者装備の青年は、震えながらも必死に葛本と五味と言葉を交わしていた。
「お金ないんです……結構本気で本当にお金ないんです……」
お金がないから探索者になったのだと勝手に身の上話をはじめる青年に多少苛立った葛本は、話を遮って脅す。
「あのなぁ!?金があるとかないとかどうでもいいんだよ!無いなら借りてこい!!それともなんだ?お前の骨も折っていいんか?アァ!?」
「ヒッ……借りるって……無理です」
親父が借金残して死んで、借金はもうコリゴリだといってまたもや身の上話を再開する青年。
同情を引こうとしても無駄だ。
こっちには既に良心などないのだから。
「あ〜あ〜粕谷くん可哀想だわ。ピアニスト目指してたのにこれはもう夢途絶えちゃったよね。誰かさんのせいで」
演技に熱の入った粕谷に影響されて、五味もありもしない設定をでっち上げノリノリで語り出す。
粕谷はチンピラ。
とても優雅にピアノを弾くようには見えないのだが、目の前の青年は粕谷の容態が気になって、五味の作り話を疑う余裕はないようだ。
「……お金は無いんですけど、骨を治します!それでどうかご勘弁を……」
「治す?」
「ポーション持ってます」
おっイイじゃんそれ!と五味ははしゃぐ。
ポーション――一番下級のやつでも、擦り傷切り傷を治すだけだというのに、一本一万円はする。
深い刺傷や骨折を治すのなら中級ポーション。これは10万円する。
下級、中級と一括りにしても、実際には出来が違うのでこれはあくまでだいたいの相場である。
粕谷は今、骨折設定なのでもしかしたら中級ポーションレベルの良品を奪い取ることが出来るかもしれない。
探索者なら最低でも中級ポーションを携帯していると聞いたことがある。
後で換金したら10万円ゲットである。
「じゃあ金じゃなくてポーションで勘弁してやるからさっさと出しな!」
青年は空中へ腕を突っ込んで漁り出す。
葛本は見慣れないその様子に少しギョッとしたが、これが噂のアイテムボックススキルか、と納得する。
有用なスキルで、長期探索をする時はパーティーに一人は居ないと詰むという。
アイテムボックススキルを持っているならそこそこ稼げるだろうし、もしかしたら青年の出すポーションはそこそこ良いやつなのではないかと、期待が高まる。
「ん?あっあった」
期待を込めて見ていたが、少し嬉しそうに青年が出したのは探索証。
葛本が以前見た事があった探索証とは違い、写真もランクも載っていないものだったが、そんな事はどうでもいい。
「早くポーション出さんかい!!」
「あっ、は、はい!」
再び探しだす。
額に汗を浮かべて宙を掻き混ぜる姿は珍妙だったが、本人は必死のようなのでチンピラ達は黙って見守った。
「あ、これ、どうぞ。多分一番良いやつです……」
青年が取りだしたポーションを葛本がひったくる。
「じゃあの……すみませんでした。多分これあれば治るんで……失礼いたします」
青年は逃げるように去って行ったが、もう用はないのでどうでもいい。
そんな事より、葛本と五味は目の前のポーションに目が釘付けになっていた。
「五味……お前これ、何だと思う?」
「はぁ?中級ポーション……いや!もしかしたら上級かもしれないな!光ってるのは初めて見たぜ」
葛本にはそうは思えなかった。
葛本とて、ポーションなんて見たこともなかったが、本能で悟る。
なんだかこれには凄い力が――生命力のような命の源のような、そんな不思議な力を感じる。
「これ、上級ポーション……っていうか、もっとヤバいもんなんじゃないか?」
「んなわけねぇーべ。初心者野郎が持ってたんだぜ?」
素人が協議しても埒が明かない。
換金に持っていけば何かわかるだろうと、未だに寝っ転がっている粕谷に声かける。
「おい、粕谷いつまで寝てんだよ。さっさと起きろ」
「かすやん今日なんか迫力満点だったな〜。脂汗まで出て――」
「かすやん?」
粕谷は目を固くつぶって眉を寄せている。
額には脂汗、右腕をにぎりしめる左手は力を入れすぎて血管が浮いている。
呼吸は荒く、時折吸いすぎた息でヒュッと音を立てている。
「粕谷?演技……だよな?」
とてもそうは思えなかったが、目の前の事実に理解が及ばず、願うように問いかける。
余りに長い演技に不安になり、葛本は膝を折って粕谷へ近づく。
まさか本当に、いやそんな訳が、などとそんなことばかりが頭の中を巡る。
「ハァハァ……クッ……」
呻き声をあげた粕谷は、カッと目を見開く。
「はよ寄越さんかい!!!!!!」
葛本から火事場の馬鹿力のような力で、強引に奪い取った粕谷は勢いよくポーション(仮)を飲み干す。
「「あ!!!!!」」
粕谷は体の内側から光り輝き出す。
葛本も五味もあまりに眩しくて見ていられない。
裏通り全体を包み込むほど大きく放たれた光は、徐々に収束していき、粕谷の内側へ戻って行ったように見えた。
「し、死ぬかと思った……葛本、五味、俺のためにポーションもらってくれてありがとな」
「なんで飲むんだよ!?もったいねぇー!」
五味は、「お前のためにポーション貰うわけねぇだろ!金だよ金!」と粕谷の体を揺さぶってポーションを吐かせようとする。
「吐いて元通りになるわけねぇだろ!!
クッソひでぇわ。俺、マジで骨折れてたのに」
「「は?」」
そう、骨は本当に折れていた。
薄々そうではないかと思っていた葛本だが、本当に折れていたと知って驚愕する。
粕谷は昔プロボクサーを目指していて、喧嘩も超強かった。
高校時代は3人で喧嘩に明け暮れ、粕谷は高校の頭になった男だ。
決してぶつかられただけで骨を折るような軟弱なやつでは無い。
あの青年は一体何者だったのだろうかと、今更ながら恐ろしくなる。
「それにしても飲んだだけで治るポーションってヤベェな。なんか体の調子が良い」
粕谷は手のひらを開いては握るを繰り返す。
立ち上がった粕谷はボクシングポーズをとると、力を込めて拳を突き出した。
「おい、どうしたんだよ粕谷」
「治ってる」
「え?」
粕谷は何も言わず呆然と手を見つめて立ち尽くす。
高三の夏、ちょうど今の時期。
敵対するヤンキー高校に狙われて粕谷はリンチにあった。
粕谷がいくら強いといっても多勢に無勢では太刀打ち出来なかった。
粕谷がボクシングをしていると知っている奴らは粕谷の腕を徹底的にバットで殴り潰した。
後遺症が残り、結果として粕谷は二度とボクシングが出来なくなってしまった。
それが治っているというのか。
今できた骨折だけでなく、過去の古傷でさえも治したということか――
「かすやん……歯も生えてるぜ」
「うぉ!?マジやん!!歯がある!!」
粕谷の喧嘩しすぎて抜けていた歯も元通り生えていた。
心なしか肌ツヤもよくなって、全身が輝いているかのように感じる。
「お前……マジで何を飲んだんだ?」
三人は床に転がっていたポーションの瓶を無言で見つめた。
あの人何者なんだ展開が好きなんです笑
まだまだ地上で騒ぎを起こし続けます!
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