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【アニセカ小説大賞特別賞】ダンジョンすみっこぐらし~実力無自覚系配信者を世間は必死で探し出す。早くダンジョンから出てきて!?~  作者: 夏目ナナセ
地上お散歩編

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11/32

10

日間ローファン3位!?奇跡!ありがとうございます!

ブクマや評価や感想ありがとうございます!






「ぜんっぜん来ない!!」


宝箱配信からもう一ヶ月は経過した。

あれから少しはワクワクした気持ちで過ごしたのだが、もうそんな気持ちはすっかり消え去っている。

あの配信は誰も見ていなかったのだ。



(これはワンチャンしばらく留守にしても、誰も来ないのでは?)


白丸はボス部屋内に人を感知したら暴れ出す。

逆に言うと、誰も入ってこなければ大人しく中央広場に鎮座していてくれるのだ。

24時間経過リポップ後に留守にしていて、他の探索者が入って街が壊れることを懸念していたのだが、

念の為ボス部屋の扉に貼り紙でもしておけば大丈夫だろう。


今まで24時間以内に戻ってくることを大前提に行動していたので、上は150層、下は450層ぐらいが移動限度だったのだ。


他の階層でも人と会わなかったため、本格的に過疎ダンジョンの可能性がある。

新宿の魅力を発信すべく、俺は旅支度を始めた。









【街を作っているので通られる際は、ボスをできるだけ中央から動かさず速やかに倒して下さい。街は好きに探索してね】


「これで良し」


高畑は張り切ってPOPを貼り付ける。


これを事前に読んでいれば、通る人も気を使って早めに固定して戦ってくれるはずだと高畑は信じている。

実際にはそんな芸当なかなか出来る人はいないのだが、世間の常識とかなり乖離している高畑には分からなかった。



高畑は再び白丸のボス部屋に戻ると、白丸を倒した際に毎回出てくる、帰還ワープへ飛び乗った。


「え~ふわふわする~」



高畑、初めての帰還。




ガヤガヤガヤガヤ


「おー!お疲れぃ~」

「え~何それ!ボス倒したん?」

「じゃあ俺らの初攻略行くぞー!」

「今から一杯どうよ?」



久しぶり――というには軽すぎる、六年ぶりに聞く人々の喧騒。

ダンジョン入口前はまぁまぁ賑わっていた。

本物の太陽が高畑を照らす。


(あっこれ、無理だ)


高畑はフードを深く被った。

ダンジョン生活をしていた高畑にとって太陽はあまりにも眩しい。

そして何より、人と会うのが六年ぶりで、高畑はすっかりコミュ障となってしまった。

人と目を合わせるのが怖くて、顔を伏せる。


(光の特大宝珠を加工したなんちゃって太陽と全然違う……しかも今夏なのかよ)


もう戻りたい気分だったが、街の観光客アップの為に簡単に帰る訳にはいかない。

それにせっかく来たので調味料でも買って帰りたい。

頬がとろけるほど美味しかった白丸の肉だが、素焼きばかりは流石にもう飽きた。


とりあえず人々の流れに沿って出口へ向かう。


(もしかして全然過疎ダンジョンじゃない……?)


ある程度人はいるのに、なぜ今まで人が来なかったのだろうか。

途中で探索を辞めてしまう何かがあるのだろうか。


新宿ダンジョンの問題点を見つけて解決しなくてはならない、と高畑は見当違いな決心をした。




「おっと君、探索証は?」


「え!?た、探索証?」


出口で受付の人に呼び止められる。

そんなのあったな、と高畑はアイテムボックスを漁り出す。

入場時にゲートにかざしたはずだから確実にダンジョンに持ち込んでいるはずだ。


「す、すみません……無くしたようでして」


どうなってしまうのかと、恐る恐る申告したが、ちょっと名簿に記入するだけで案外あっさり通してくれた。

次入る時は探索証が無いと入れないので協会で再発行する必要があるらしい。

探索していたら何があるか分からないので無くすのも日常茶飯事のようだ。



新宿ダンジョンを出て、本物の街並みを眺める。


(やっぱりビルばかりだな)


ビルや大型ビジョンのCMや広告。

横断歩道に信号、電信柱。


自分の街になにか取り入れられるものは無いかと観察するが、高畑が作る西洋風の街並みに合わない近代的なものばかりでいまいち参考にならない。


『昨年、新宿御苑に出来たダンジョンはかなりの賑わいを見せてます!やはり注目はコチラの景色でしょうか!』


そんな声が聞こえて、高畑はビルの側面に映るニュースを見上げる。


(人気なダンジョン……)


「ちょっと行ってみるか」






「お~圧巻の景色。緑豊かで癒される~」


新宿御苑ダンジョンを前にして思わず独り言を漏らす。

独り言に慣れすぎている為、人前でも普通の声量で話してしまう高畑。

人々は一瞬目にとめただけで直ぐに視線を戻した。


高畑の知名度は、スミさんとしての狐面ならそこそこだが、顔面の知名度は案外そうでも無い。

ファンであれば一目見てわかるであろうが、探索者の中でしっかり記憶しようとして高畑の貼り紙を見る人はあまりいない。

皆自分には関係ないだろうのスタンスだ。

それもそうだろう。

300層付近のことは大抵の人には関係ないのだから。


切り抜きまでわざわざ見た、流行に敏感な人は顔も分かるだろうが、顔面を知っていてもそうでなくても、共通認識なのは、スミさんはダンジョンに住んでいるという事。

地上で探そうとは全く思ってないのである。


出回ってる顔が寝っ転がった顔であることと、現在フードを被って俯き気味であることが幸いして、高畑は普通に歩けていた。




なるほど、これは確かに行ってみたくなるダンジョンだと、高畑は納得する。

新宿御苑ダンジョンは、新宿中央ダンジョンのような無骨なダンジョンではなく、入口もツタのような植物で装飾してあり、華やかだ。

人々の会話から得た情報によると、植物系の魔物が多いダンジョンのようで、中も植物や花で溢れているらしい。


「よぉ、兄ちゃん!」


炎属性の職業の人が相性のいいダンジョンのようだ。

ダンジョン前では、炎の石が沢山売られていた。


「おい、兄ちゃんってば!」


「……あ、えと、俺ですか……?」


話しかけてきたのは、40代のおじさん。

知り合いでは無い為、怪訝な顔を浮かべた高畑は六年ぶりの会話に緊張しながらも答えた。


「そうそう、フードの兄ちゃんだよ。見たところ初心者だろ?ここ初めて?」


「あ……はい。ここ“は”初めてですね……」


「じゃあちょっと組まねぇか?」


突然話しかけてきたおじさん――中村は、高畑が武器も何も持っておらず、服装も簡素な、いかにも初心者装備だったため気さくに声をかけた。




中村は、脱サラして今年探索者デビューしたばかりの初心者だ。

職業は剣士で、戦闘職の為探索者向きではあったが、家庭もあり危険な職に就く訳にはいかなかったのである。

今では子育ても終わり、妻と2人暮らし。

何とか家族を説得し、夢だった探索者生活をスタートさせたのだ。


「へぇ~中村さんはEランク探索者なんですね~」

探索者にランクがあったのかと、初めて知った事実だが素知らぬ顔で相槌を打つ。


「まぁな!職業がいいのかトントン拍子にうまいこといってねぇ」

中村は嬉しそうに鼻を擦りながら上擦った声で話を続ける。


「もうDランクも目前だよ。兄ちゃんは?」


「多分俺は1番下だと思います」


そもそも探索者ランクなど初めて知ったので、どこで確認するのかも不明だが、特に何もしていないので恐らく1番下だろう。

1番下が一体なんのアルファベットなのかも分からないため曖昧に返す。


「まぁ初心者ならそんなもんさ!」


そう言って中村は高畑の肩を抱く。


「は、はぁ……?」


中村の強引な距離感の詰め方に困惑気味の高畑だが、中村が教えてくれる話はどれも初耳のためになる話だったため、引き込まれる。

高畑も気楽に話せるようになってきた。


「スライムには核があってな、闇雲に切りつけても意味が無いんだぜ。魔力の渦を感じるところを狙って刺すんだ」


「へぇ〜なるほど勉強になります」


高畑は知らない事ばかりを教えてくれる中村を本気で上位探索者として尊敬していた。

中村が教えることは探索者なら知っていて当然のことなのだが、戦う時にいちいちそんなことを考えていない高畑は知らなかった。



「じゃ、そろそろ行こうぜ。俺は剣士だから前衛な!兄ちゃん職業は?」


「あ、俺はま……」


その時強い風が吹いて聞き取りにくかったが、中村は魔法士だろうと当たりをつけて返答する。


「おっ魔術師となんか違うんか?それは」


「まぁ魔術が結構使える感じですね。なんかあんまり印象良くないですよね……?」


「そんな事ないぜ!人気職じゃないか!まぁ剣士には劣るがな!」


ワッハッハと大声で笑って高畑の背を叩く。


「じゃあ兄ちゃんは後衛な!バランスいいじゃねぇーか」


「あの、一緒に潜るのは大丈夫なんですけど、俺探索証無くしちゃって……再申請しないと入れないんです」


「なんだそうなのかよ」


じゃあまた今度一緒に行こう、という事になり中村は連絡先を尋ねる。


「今、スマホ充電切れてて……」


「俺雷の石持ってるよ」


「あ、そもそも忘れてきちゃったスマホ……」


中村が怪訝な表情になるのを見て慌てて弁解する。

連絡先を交換したくないかのような振る舞いになってしまった。

なぜアイテムボックスに入れずに棚に入れてしまったのか。

棚を作ってなんとなく何かしまいたくなった過去の自分の行動を悔やむ。


「あ!いや、その!本当に忘れてて!

俺から連絡しますので是非教えてください師匠!」


「師匠?」


「はい!魔物の知識とか凄い勉強になったので」


純粋な目で二カッと笑う高畑に中村も満更でもない気持ちになる。

何も知らない初心者の面倒を見てやらないとという責任感も生まれていた。


「たっく、調子いいこと言いやがって。弟子にしてやろう!」


中村はまた肩を寄せてバンバンと叩く。

紙に電話番号を書くと高畑へ手渡した。


「電話番号でLINE追加してな!」


「ありがとうございます!雷の石なら多分あるので帰ったら充電します!」


高畑が持っているのは雷の石ではなく雷の宝珠なのだが違いにいまいち高畑は気づいていない。

ドローンの充電も宝珠を惜しみなく使ってやっていた。


「連絡するの結構間あくかもしれません。またこっちに遊びに来たら絶対連絡します!」


充電したところで回線契約が切れているので、多分連絡は出来ないことに思い当たり、間が空くことを伝えておく。

WiFiがあるところに行けば連絡できるだろうが、自宅からは無理そうだ。


「なんだ兄ちゃん遠くから来てたんか?」


「来るのは時間かかんないんですけど帰るのはちょっと遠いんですよね〜」


「そうか。まぁ気軽に連絡してくれ!」


中村は高畑の肩をポンと叩き立ち上がる。


「弟子よ!またなー!」

「ありがとうございました〜!」


ダンジョンの入口へ向かっていく中村を見送って高畑は踵を返す。

人とまともに会話をしたのは六年ぶりだ。

強引なおじさんでなければ仲良く話すことなど出来なかっただろう。

中村のおかげで多少コミュニケーションの勘を取り戻した。


人気ダンジョンの偵察も済んだことだし、そろそろ自宅へ帰りたい。

緑溢れる景色が楽しい新宿御苑ダンジョンを見て、新宿中央ダンジョンの問題点が掴めた気がした。


高畑はごった返す人混みの中、懸命に人の波に逆らって足を進めた。







ダンジョンへ入場した中村は、先程の青年を思い出す。


(妙にオドオドしてたのはお上りさんだからか〜)


キョロキョロオドオドしていて見ていられず声をかけたのだ。

新宿御苑はE級ダンジョンとはいえ、あの様子では、あのまま一人でダンジョンに入られては直ぐに命を散らしそうだった。

スライムの倒し方も、炎の石の効率的な使い方も、マッピングのやり方も、何もかも知らないのだから。


オマケに素手で挑むつもりだったのか、武器は何も持っていない。

魔法士だと、無くても何とかなるんだろうが、杖の一つや二つ持っていて欲しいものだ。



「それにしても家に帰るなら普通に電気充電したらいいのに……」


まさか家がダンジョンで、電気が通ってないとは露も知らず、雷の石が勿体無いなぁ〜と呑気に考えていた。



後に高畑を知って、勿体ないを連呼することとなる。








勘違い加速させます笑


高畑の職業皆様気になると思いますが濁しました笑

勘がいい方はわかるかも?



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― 新着の感想 ―
そっか、魔王かぁ 潜り始めた時からある程度強くて、その後も討伐は作業化する戦力差を維持してたのかな? 450階層を知ってて300階層に街を作る決心をした経緯はどんな感じなんだろうか 時間制限のある散…
ま? マギ…
めっちゃ軽く出てくるやんw
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