柊 真白は隠してる
休日は、俺にとっては待ちに待った日である。友達が居らず、クラスに居場所の無い俺にとっては至福の2日間だ。
そんな俺は、休日初日の土曜日を札幌市の隣の市で過ごすことに決めた。そう、今日は待望の新刊ラノベの発売日なのだ。そして、それがなぜ隣の市で過ごすこととイコールになるのかと言えば、答えは簡単だ。クラスメイトにライトノベルを買っているところを見られたくない、ただそれだけである。
実際、仮に見られたとしても俺を認識しているクラスメイトが居るかどうかも怪しいため、何かが起こることはないだろうが、ラノベコーナーには危険が多いので用心するに越したことはないのだ。ラノベコーナーには多種多様なラノベが揃っているが多種多様が故に結構際どい表紙や挿絵の作品も中々に多い。ぶっちゃけラノベに触れた事のない人ならば、R18と勘違いしてしまうくらいのものある。それを手に取ってる瞬間を見られるのはさすがに俺が死んでしまうので、こうやってわざわざ隣の市までやって来たのだ。中々に完璧な計画である。
「…本屋はネオンの2Fか。」
俺はエレベーター近くの地図を見て、本屋までの道のりを確認する。これにより、来た事のない本屋にもスマートに辿り着けるのだ。我ながら完璧だ。これで友達の1人でも居れば、『本屋ってどこだっけ?』、『こっちじゃない?』など本屋を探しつつ会話も成り立つという最高のイベントが成立するのだが、ぼっちの俺には縁遠い話である。
「さて、ラブコメラブコメと…」
本屋に入店した俺は、さっそくラブコメのあるラノベコーナーに向かった。そして、お目当てのラブコメ作品を見つける。
「お、あったあった…!?」
手に取ろうとした瞬間、隣のお客さんと手が触れ合ってしまい、少し驚いてしまう。
「す、すみません!」
「ごめんなさい!」
同時に謝罪の声が漏れた。
手が触れ合ってしまった相手は女性であり、深く帽子をかぶっていた。そして、謝った際に顔を見た瞬間、俺は気づいてしまう。深く帽子を被って顔を隠している様ではあったが、帽子から漏れた茶色く染まった髪と白い肌、そしてその声色、見間違えるはずもない。相手の正体は、柊 真白であった。
どうやら柊の方も俺を見て気づいている様子だった。
「ひ、柊 真白!?な、なんでここに?」
「小鳥遊くんこそ!せ、せっかく隣の市まで来たのに…」
驚く俺に対し、柊は頬を赤らめ、恥ずかしそうにそう言った。
「隣の市までって…まさかお前もその新刊ラノベを買いにここまで!?」
「そ、そんなわけないじゃない!!」
柊はラノベを手に持ち、その場を立ち去ろうとした。そんな柊に対し、俺は冷静に、そして自然に声をかけた。
「おい柊、それ万引きだぞ」
「…!?うっさいわね!!遠回りしてレジに行こうと思ったのよ!!」
柊はそう俺に怒ると、レジでラノベを購入し、逃げる様に店を去っていった。
最初こそ驚いたが、柊 真白がまさかの同志だったとは。動揺していたところを見ると、周囲には隠してオタクをしているのだろう。
ただここで一つ、俺は自らの過ちと勘違いに気づく。柊 真白がラノベを好きであったこと、俺のラノベの挿絵を見た後に何か言いたげな表情をしていたこと、なんだかんだ俺の名前を覚えていたこと、これらを総合するとある答えに辿り着く。
「もしや、柊 真白はオタクに優しいギャルなのか…?」
本屋から帰る途中で、俺は一人そう呟いた。
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