《第十八話 二人は仲の良い姉妹のように》
俺たち三人が向かったフロアは水着の生地を取り扱っている三階だ。
「水着の生地っていったいどんなものを使ってるんだ?」
俺は日向に素朴な疑問を聞いてみた
「水着は主にポリウレタンとポリエステルが組み合わせて使われているわ。その他にもナイロンとポリウレタンを組み合わせたものもあるわね」
「聞いたことあるような名前だな。水着に使われてるんだな?」
「水着だけじゃないわよ。衣類全般に使われているわ。スポーツウェアや夏に着るドライTシャツにも使われているのよ」
「ボクたちの生活に欠かせないね。サクラコちゃんの作る水着着るの楽しみだな〜いつか三人でプールで遊びたいね」
スヤサキは日向の作る水着を楽しみにしているようだ。でも着るのはスヤサキではなくてルーナなんだよな。スヤサキは自分が男だということを忘れているようだ。日に日にスヤサキの警戒心がゆるくなっているような気がする。
「それはどっちの水着で遊ぶつもりなんだ?」
「え?どういう意味?」
ダメだ。こいつは完全に女性用の水着を着るつもりだ。
「男の水着はきないのか?」
「ええ!?嫌だよ可愛くないも〜ん」
可愛くないも〜んっと男用の水着は嫌がるスヤサキ。布面積は少なくなるから可愛い成分が少なくなって嫌なのかもしれない。女心とはよくわからないものだ……って俺も何をいっているのだろうか?
「可愛いほうが良いわよね〜ヨゾラ」
「そうだよね〜サクラコちゃん」
二人は仲良く首をかしげる。仲の良い女の子のようだ。姉妹とも言っても良いかもしれない。そうなると日向がお姉ちゃんだな。スヤサキがお姉ちゃんは想像つかない。スヤサキが日向に甘えているのは想像できる。
日向のお姉さんかぁ、良いな。俺も甘えたい。
「どうしたの?真神くん。ボーっとしちゃって」
「早く生地を選びに行くわよ、真神」
「おお、わかった」
その後は日向とスヤサキの二人に生地選びを任せて、俺は二人の後をついて回り荷物持ちに徹した。女性の買い物に付き合って、男のする仕事は荷物持ちだよな。二人は水着の生地だけではなく、他の衣類の生地も買い物をした。
俺の両手はすでにパンパンだった。両肩にも紙袋がかけられている。
はぁ〜さすがに重いな…まだ買うつもりなんだろうか?
「よし!これでヨゾラの水着の生地はあらかたそろったし、ヨゾラに女装衣装の生地もそろえられたわ。ありがとう二人とも」
「うん、こちらこそありがとう。ボク、衣服の生地選びなんて初めてだったからすごく楽しかったよ」
「ほんと?それは良かった」
日向は優しく微笑んだ。
「それじゃ、お会計を済ませましょ」
俺たちはレジがある一階に降りて、買った物のお会計を済ませた。
俺は大きな荷物を抱えて車を停めてある駐車場まで行こうとした。
「二人はここで待っててくれ。俺はこのまま荷物を車に詰めて、ここまで車を回すから」
「わぁ真神くん男らしいね。一人で持つの大変じゃない?」
「そうよ。車まで一緒に持つわよ。ほら貸しなさい」
「大丈夫!これは俺の仕事だ。生地選びには何も出来なかったし、荷物持ちと運転は任せてくれ」
差し伸べられた日向の手を俺は断り、駐車場へと歩き出した。
今日はお日柄も良く、太陽がギラギラだ。頑張り過ぎだ、太陽殿。
大きな荷物を持っている俺をイジメないでくれ。
俺は車を停めてある有料パーキングに着いて買った物を車に載せた。パーキングを出る時に驚いたのは駐車料金の高さだった。
「なんでこんなに高いんだよ〜?」
俺はパーキングのゲート前の精算機に疑問を言い放った。当然、精算機は俺の疑問という名の愚痴には答えず、無言でゲートのバーをあげるだけだった。
二人が待つお店の前まで車を回した俺は、二人が街路樹の木陰で待っているのを見つけた。
二人は仲の良い姉妹のように寄り添うように体を密着して街路樹の木陰の中に収まっていた。
二人ははたから見れば仲の良い姉妹の微笑ましいワンシーンに見えるだろう。
でもスヤサキの正体を知っている俺は、日向とあんなに身体をくっつけているあの女装野郎にジェラシーの炎をメラメラと燃えさせるのであった。「よう!おまたせ」
俺は何食わぬ顔で車を二人の近くに着けた。
「ん?どうしたの真神くん。何かあった?」
「いや〜別に」
「そっか、車回してくれてありがとうね」
スヤサキはいつもの明るい笑顔を俺に向けた。一方、日向は無言だった。日向の顔を良く見ると頰を赤く染めていた。なぜ顔が赤い?何があったというのだ!?




