《第十四話 寝袋持ってるのか?竜田姫》
「それでナデシコちゃんからは鼻血で倒れた理由を聞けなかったんだね」
「ああ、そういうことだ」
「でもなんだろうね?サクラコちゃんのためって」スヤサキは顎に手を当て首を傾げて考える。
「ああ、それがわからない…どうして竜田姫は教えてくれなかったのか」
俺も腕を組んで考える。どうして教えてくれなかったのかを。
「サクラコちゃん本人やヒマワリちゃんにも聞いたの?」
「それがさぁ…」
◯
俺は竜田姫が教えてくれない以上、涼風に聞いてみることにした。
「なぁ、涼風は今どこにいるんだ?」
「…ヒマちゃんは家の用事で帰った…」
「あ、そうなんだ」
日向のためだというからには、日向自身に聞くのは無理だろう。竜田姫もダメなら涼風しか残っていないのだが、今はいない。家の用事なら仕方がない。俺は後日聞いてみることにした。
「ところで竜田姫はどうして残ってたんだ?」
「…ほっとけなかった、本当は医務室に運ぼうと思ったけどマカミン大きいから運べない…」
「それで起きるのを待っていたと?」
「…これでツンツンして目覚めさせようとした…」
竜田姫はボールペンを掲げた。
「誰かを呼んできても良かったんだぞ」
「は!?…その手があったか…」
俺が起きなかったらどうするつもりだったんだろう?
「まぁいいか。ところで俺はどれくらい寝てたんだ?」
「…30分くらい…起きなかったら、一緒に寝るところだった…」
「この床でか?」
「…ううん…ウチ寝袋持ってる…それで寝るつもりだった…」
竜田姫は両手を大きく広げて、寝袋の大きさを表現をした後、合わせた両手を片頬に当て目を瞑った。
「寝袋持ってるのか?竜田姫」
「うん…キャンプに行くときに使うの…」
「キャンプに行くのか?凄いな、竜田姫」
「うん…行く…ソロでも」
竜田姫はキャンプが趣味なようだ。しかもソロでも行くようだ。
ソロキャンってあれだろ。一人で山とかでキャンプするやつだろ。危なくないか?竜田姫みたいな幼女はすぐに食べられそうだ。
「一人で危なくないのか?熊とか出るだろ?」
「…意外と大丈夫…キャンプ場でキャンプするから…熊に出会う可能性は低い…」
「はぁ~そいつは良かった。安心したよ」
「…………」
竜田姫はジーッとこちらを見て黙った。
「どうしたんだ?竜田姫」
「…マカミン、優しくなったね…」
「え!?」
ギクッと心臓を鷲掴みにされたようだった。俺と日向たちは過去に喧嘩ばかりの毎日だった。あっちは4人でこっちは一人。しかも女性。拳を振るうこともできないから当然口喧嘩。そしてそれもいつの日か億劫になり距離をとっていた存在たち。
「…嬉しかった…」
「え!?嬉しい?」
「…うん、仲良くなれた…サクラコもずっと気にかけてた…マカミンはずっと一人だったから…」
幼い子供の見た目をした竜田姫だが、その瞳は母親のような優しさ眼差しだった。
「あ…その…俺も仲良くなれて嬉しかった」
「フフ…マカミン、素直……ちょっとしゃがんで…」
チョイチョイと手招きする竜田姫。俺は言われた通りにしゃがんだ。
「え?ああ…どうしたんだ?…」
はっ!?
「よしよし…ちゃんと言えたね…いい子いい子」
竜田姫はしゃがんで低くなった俺の頭をその小さい手で撫でてくれた。
「お、お前…見かけによらずお姉さんみたいなことをするなぁ」
「…弟と妹がいる…ウチは本当のお姉さん…」
「そういうことだったか。それは失礼した。ごめん」
驚いた。本当にお姉さんだったよ竜田姫は。
「…いい、ウチはお姉さんだから…許してあげる…」
と言って、優しく微笑む竜田姫はどこか嬉しそうな表情だった。
「…ねぇ、まだ真神…倒れてるの…?」
誰かが倉庫兼フィッティングルームに入って来た。
俺は声でその入ってきた人物が分かった。
「あ!ひ、日向か!?」
「ひぃ!!!」
俺に声をかけられた日向は悲鳴をあげた。俺は少しショックを受けた。いや、かなりショックを受けた。
「ナ、ナデシコ!アタシ用事を思い出したから先に帰るね。あとの戸締まりよろしく!」
そう言って、日向は脱兎のごとく帰っていった。
「あ…」俺は呆然と立ちすくむ。
竜田姫は俺の脇腹をちょんちょんと軽く小突いてこう言った。
「…ドンマイ…」
「はぁ~」俺はため息をついて肩を落とした。
その後、俺は竜田姫と一緒に倉庫兼フィッティングルームの鍵を返して、
その場で別れた。
◯
「…てな訳なんだがその日以来、日向に会ってもすぐに逃げられる…どうしたら良いんだ…」俺は頭を抱えて嘆いた。
「真神くん、キミはサクラコちゃんに何をしたんだい?」
「それがわからないんだよ…気づいたら鼻血を出してぶっ倒れていた。日向もヒマワリも起きたらいなくなっていたし、竜田姫は今話した通りおしえてはくれなかった。はぁ〜気になって夜しか眠れない」
「夜眠れば十分だよ」スヤサキはカフェオレを飲みながら言った。
「真神くんの鼻血だけど、サクラコちゃんに殴られたとかはないのかい?」
「確かにそれも考えたんだが、俺の鼻にはそんな傷はなかった。ただ鼻血を出して記憶がなくなっただけだ」
「う〜ん、わかんないなぁ〜」スヤサキは腕を組んでそう言った。
「ヒマワリちゃんには聞いてみたの?」
「それが…」




