《第八話 やべぇ!頭取れた!!!!!?》
喫茶ペンブロークにはルールがある。というか葛城家のルール。
それは、ジェスを店内エリアの一階と地下のイベントスペースに入れてはならないというルールだ。
その約束を破ってしまったシノちゃんはマスターに怒られると思っているようで怯えている。
店内エリアに動物はまずいな、ルーナさんにも目撃されてるし、どうしたものか…
シノちゃんが可哀想なので、なんとかマスターには内緒で事を収めたいが…
目撃者がいるからどうにもならない。
しかもお客さんだ。俺は頭を抱える。
「ごめんなさいなのだ、お姉ちゃん。お姉ちゃんのお部屋にジェスが勝手に入り込んでしまったのだ」
怯えた顔で腰を抜かしているルーナさんに謝罪するシノちゃん。怒り出してしまうかと思ったが、ルーナさんは怯えながらも小さい子を怖がらせないように優しく答えてくれた。
「あの…ハムスターの事は大丈夫…かな…別にマスターさんには言わないから…安心してほしいかな」
「ほんと!?ありがとうなのだ〜」
パァっと顔が明るくなり、喜ぶシノちゃん。俺もホッと胸をなでおろす。良かった、とりあえずはマスターにはバレずにすみそうだ。
ごめんなさい、マスター。ありがとう、ルーナさん。なんて優しい人なんだ。
「コラ!ジェス!こっちに来るのだ」
ヘケッ?っと首を傾げるジェス。脱走したことが悪いこととは思っていないようだ。動物からしたら檻の中より外のほうが良いのかも知れない。
捕まえようと追いかけるシノちゃんに対して、追いかけっこが始まったかと思い、逃げるジェス。その間、身体が硬直して動けないルーナさん。
「うぐぅ!」とか「ヒャア!」と悲鳴が漏れていた。可愛い悲鳴だ。
「あの、ルーナさん。大丈夫ですか?」
「へぇ?あ、う、うん大丈夫かな、これくらい」
「全然そんな風には見えなかったんですが…」
あの乱れようは尋常じゃあなかった。まるでジェイ◯ンに見つかった若者みたいな顔をしてた。ジェイ◯ンっていうのはホラー映画の名作「◯◯日の金曜日」に出て来る殺人鬼キャラのことだ。
「そ、そうかな〜?変だな、ハハハ。そんな訳ないのに」
いやそんな訳しかない。ルーナさんの顔面は蒼白だった。
「今も腰を抜かして、尻もちを突いているように見えますが、本当にお怪我はありませんでしたか?」
「う、うん、ありがとう。ホントに大丈夫だから心配しないで」
震えながら立ち上がろうとするルーナさん。
立ち上がろうとした瞬間、バランスを崩したルーナさんが俺の方へと倒れ込んできた。
「あ!大丈夫ですか!?」
ルーナさんを支えようと俺は近づき、ルーナさんの身体を両手で抱きしめるように掴む。
その瞬間、前かがみになりかけたルーナさんの頭が床に落ちた。
ドキッと心臓が跳ね上がる。
やべぇ!頭取れた!!!!!???????
しかし、よく見ると落ちたのはカツラと目元を隠す仮面だけだった。
俺は見てはいけないものを見てしまったような気がして目を逸しつつも倒れそうになるのを放っておける訳もなく、ルーナさんの身体を支えた。
倒れなくて良かった。倒れて変なところを打ったりしたら大変だ。
ルーナさんはというと俺に支えられながら落ちたカツラと仮面を見たまま固まっていた。
「どうしました?どこか痛むんですか?」
「………………」
沈黙で答えるルーナさん。具合でも悪くなったのかと思い、顔を覗き込もうとしようとしたら
「み、見ないで!!」
自分の顔を両手で隠すルーナさん。でも一瞬だけど見えた。
仮面の下のその素顔は俺の知っている顔だった。
「え?………あ!?ええ!!?お、お前は!?え!??」
俺は人気Vチューバーアイドル「月見夜ルーナ」の素顔を見て驚愕してしまった。
そこには同じ大学に通う人気者、「スヤサキ君」こと「須夜崎夜空」がいた。