《第十三話 俺はスヤサキに会いに行くことにした》
「ああ!もう!さっきの水着を着たままなの!」
日向は罪を白状したかのように言った。
日向はさっき見せてくれた水着を脱がずにそのまま服を着ていた。
「ええ〜なになに〜さっきの水着をってサクラコ水着着たの?見せたの?」
涼風がニンマリと笑顔になって日向の顔を覗き込んだ。涼風の顔は笑顔だが悪い顔にも見えた。
「…サクラコは時々ズボラなところがある…」
呆れるように竜田姫は言った。
「悪かったわね、ズボラで、でもこれでノーパンじゃないってわかったでしょ、ヒマワリ?」
「ええ〜実際に見てみないとわかんな〜い」
「はぁ?なんでよ、履いてるってば」
「信じられな〜い」
「ああ、もう!わかったわよ!これならどう!?」
日向は着ていた白のカットソーを胸が見えるまでたくし上げた。日向は本当にさっきの水着を着たままだった。
「下は〜?下の水着は見せてくれないと〜ノーパン疑惑は晴れませ〜ん」
「ああ!もう!見せたら良いのね!見せたら!」
日向は履いていたジーンズのウエストに手をかけ、勢いよくおろした。
その時日向は、数々の致命的なミスを犯した。ジーンズと一緒に中に履いていた水着まで脱げてしまったこと。日向の後ろに俺がいたこと。そして俺にお尻を突き出した体勢になってしまったこと。
「どう?しっかり履いてるでしょ?」
日向は自慢げに腰に手をあて言った。
「あちゃ〜、サクラコ、それはサービスしすぎ〜」
「へ?何よサービスって?」
「後で倒れてるマカミンに〜」
日向は後ろを振り返り、俺が大量の鼻血を出してぶっ倒れてるのを見た後、妙に下がスースーするなと気が付き、目線を下げた。そして絶叫した。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっっっぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「…死んじゃった…」
竜田姫は鼻血で倒れた俺の頬をツンツンとボールペンでつついて言った。
そして、日向の腕をとり、こう言った。
「…ドスケベ現行犯逮捕…」
数日後、俺はスヤサキに会いに行くことにした。
日向たちにしっかりメモを渡したことを報告するために。メールで済ませれば良いことだが、そこで不思議なことがあったので俺は直接会って話をしたかった。
待ち合わせ場所は「喫茶ペンブローク」にした。
「いらっしゃい、真神君」
喫茶ペンブロークに入ると、コーヒーの良い香りとダンディなマスターの声が出迎えてくれた。
「こんにちは、マスター」
「この前来た、可愛いお連れさんが3番テーブルで君を待っているよ」
喫茶ペンブロークの3番テーブルは窓側のテーブルの内の一番奥のテーブルのことだ。
まだ開店して間もない喫茶ペンブロークには客が一人だけ、待ち合わせ人のスヤサキだけのようだ。
「お〜い」っと手を振り、俺を呼んだのはもちろんスヤサキだ。
「よう。またせたな」俺は席に着いた。
「この前はサクラコちゃんのところに行ってくれてありがとうね、真神くん。助かったよ」
「いやいや、これもマネージャーの仕事だ。それにしても今日も女装が決まっているな?」
「まぁね〜」
サラッと銀色の長い髪を手でなびかせるスヤサキ。そして着ている服は今回もゴシックロリータことゴスロリだ。
「スヤサキはゴスロリ好きなんだな。前にここで会ったときもゴスロリだったよな?」
「うん、大好き。レトロな喫茶店にも雰囲気が合っていて良いでしょ」
ニカッと屈託のない顔で笑うスヤサキ。
「ああ、よく似合ってる」
「エヘヘ、ありがとう。ところで直接会ってお話したいって何?」
「ああ、それなんだが実は…」
俺は日向たちにメモを渡した後、少し不思議なことが起こったことを話した。
◯
ツンツン。ツンツン。ツンツン。
俺は自分の頬に何か棒状のものを押し付けられる感覚で目が覚めた。
「…ツンツン…あ、起きた…」
「え?あ…俺…どうしたんだ?」
目が覚めるとボールペンを持った竜田姫が顔を覗き込んでいた。
周りを見回してたらそこはまだファッション科の倉庫兼フィッティングルームだった。俺は床に寝ていたようだ。
「痛っ!」
俺はズキッと痛みが走った頭を手で抑えた。
「…マカミン、また鼻血だして倒れたの…」
「え?そうなのか?」
俺は鼻血で倒れたことに驚いた。でもなんで倒れたのかはわからなかった。
そして先程までいた日向と涼風がいなくなっていることに気づいて竜田姫に聞いてみた。
「一体俺は…なんで鼻血を出して倒れたんだ?それに日向と涼風はどこに?」
「…覚えてないの?…」
「ああ、教えてくれないか?竜田姫」
「……」
しばし考え込んだ後、竜田姫は口を開いた。
「…教えない…」
「ええ!?なんでだよ?教えてくれよ竜田姫」
「…ダメ、教えない…サクラコのためにも…」
「日向のためにも?俺、なんか日向にひどいことをしたのか?」
「…してないよ…でも、教えられない…」
「そんなぁ…」
怖くなった俺は竜田姫に教えてくれるよう懇願したがダメだった。
竜田姫は口数の少ないやつだが、その瞳はこれと決めたことは断固として譲らない強さを宿した女性の瞳だと感じた。無理やり聞いてもダメなんだろうと俺は竜田姫から聞くのは諦めた。




