《第十話 ここってもしかして女性更衣室?》
竜田姫はジーッとこちらを見つめながらこう言った。
「…ウチはヒマちゃんといっぱいお風呂に入ったことある…」
グッと右手でサムズアップする竜田姫。クソッ!羨ましいやつがここにも。幼女は得だな。
「…サクラコともいっぱいお風呂入ったことある…」
グッと今度は両手でサムズアップする竜田姫。
くぅ~!羨ましい!!!!幼女め!
「ハイハイ!1つは決まったんだから、あと2つを決めましょう!」
日向はパンパンと手をたたき、話を水着選びの話に戻した。あと2つ、水着を決めないと今日は帰れない。
「あと2つといってもなぁ。俺は水着に詳しくないし」
「それだったらさ、提案なんだけど、そちらの要求を踏まえた水着は1つ用意したから、あとの2つはこちらが提案する水着も着てほしいのよね。それを見て、アンタにジャッジしてもらうわ。それで良い?」
それくらいの要求ならスヤサキも首を縦に振るだろう。
「オッケー」
「そ、それじゃあ、真神はアタシと一緒に…一緒に…」
「一緒に…?何をするんだ?」俺の心臓がキュッとなった。
「み、水着を選んでもらうわ。ヒマワリ、ナデシコ、ロングフレアのバンドゥの生地選びに入ってくれる?」
「アイアイサ〜」
「…任せて…二人の邪魔はしない…」
涼風は敬礼ポーズ、竜田姫はサムズアップした。
「さ、さあ、真神?水着を見に行くわよ」
「え?どこに行くんだ?」
「ここは作業部屋なの。別の部屋に水着を保管してる場所があるわ。そこに行くのよ」
「わかった。そういうことなら付き合おう」
俺と日向は作業部屋を出て、一階に降りた。
保護してる場所というので、倉庫みたいな場所を想像していたが、普通の洋服のお店のように衣類が並べてある棚があり、その向いの壁側全部に更衣室がある部屋だった。
「へぇ~、ファッション科には、こんな部屋もあるんだな」
「そうよ、モデルさんとかの衣装合わせに使うドレッシングルームね。本当は今日、ヨゾラに衣装合わせを頼みたかったけどね」
日向は持っていた手さげの紙袋を洋服店とかでよく見る丸い椅子に置きながら残念そうに言った。
「う〜ん、やっぱり水着は本人に着てもらわないといけないよなぁ〜」
「え?なに?ヨゾラ召喚してくれるの?」
「あ!いや、今日は無理だと思うぞ」
「な〜んだ、残念」
「今日、水着が決まったらさ。この後、ここに来れないか聞いてみるよ」
「本当?それはありがたいわ」
ニカッと笑う日向に思わず「可愛い」と口から漏れ出そうだった。
こいつって本当にあの日向なのか?
「あまり期待するなよ。聞いてみるだけだからな。来るかどうかは本人次第だ」
「わかってるわよ。アタシはただ可愛い水着を着たヨゾラを見たいだけ、それもアタシが作った水着をね」
「気合が入っているんだな」
「もちろん!久しぶりの大学内でのファッションショー。良い結果を出してパリに行くんだから」
「わかった。スヤサキにはメールを送っておくよ」
「うん、お願いね」
俺はスヤサキにメールを送った後、ぐるりと部屋の中を見回した。
棚に並んであるものだけで結構な数がある。それによく見ると全部女性用の水着だ。
ここは女性更衣室なんじゃないのか?俺が入ってはまずくない?
「な、なぁ?ここってもしかして女性更衣室?」
「ええ、そうね。それがどうしたの?」
「大丈夫かよ?俺が中にいて」
「ああ〜いいのいいの。ちゃんと貸し切り使用許可取ってあるから、今はアタシらし使ってないから安心して、それに男子禁制とかじゃないから」
使用許可取ってたのか。それは安心した、準備が良いな。
仕事のできる女、日向桜子。
「じゃ、じゃあ、早速着替えるからちょっと待っててよね」
俺は自分の耳を疑った。
「え?なに!?なに!?今なんて言ったの?」
日向はそっぽを向いて恥ずかしそうにこう言った。
「うん…だから今からアタシが着替えるから…水着に…」
「え?本当?嬉しい」思わず本音が出た。
「う、嬉しい!?か、勘違いしないでよね!アタシがヨゾラの代わりに実際に着てみるから!感想を言ってほしいだけなんだから」
突然のツンデレをかましてきた日向に俺はドキドキしてしまった。
日向の水着が見れるってコト!?
「す、スマホでとっても良いのか?」
「それはダメ」
日向の水着姿を保存したくて一応聞いてみたが、あっさり断られた。
「変なこと考えてないで、そこに座って待ってなさい」
俺は言われた通りにこの部屋にあった丸い椅子に座った。
日向はここにある水着から選ぶのかと思いきや、すでに持っていた紙袋を持って、更衣室に入っていった。
「あ!絶対に覗かないでよね」
更衣室のカーテンを一度閉めてから、思い出したかのように顔だけ出して言った。
「覗かないよ」
男として覗きのような卑劣な真似しない。男だったら土下座して頼み込む。
「パンツ見せてください」ってな。
カーテンの中からシュルシュルと衣類が落ちる音を聞こえてきた。
日向が着替え始めた。今…日向は裸になろうとしているんだよな?一枚一枚服を脱いで裸になっていっているんだよな?……変態すぎるからこの辺で妄想はやめよう。
俺はスマホの画面を眺めつつ、しばらく着替えが終わるのを待った。




