《第九話 男同士、裸の付き合いも悪くない》
「…良いツッコミ…二人はお似合いの漫才コンビ…」
なんでやねん!?誰が漫才コンビだ!ツッコミ強すぎだろ!
「アハハ〜ナデちゃん、頭に『夫婦』が抜けてるよ〜」
「ちょ、ちょっとヒマワリ!誰がこいつと夫婦になるですって!?」
ドカッ!
涼風に茶化された日向はまたもや頬を紅く染める。そしてまた俺を殴る。
「…サクラコ…可愛い…」
「もう、やめてよ二人とも〜」
あいたたた…殴るのもやめてほしい…美人なのに暴力的なのが玉にキズだよな〜
「ねぇ、大丈夫?」
「あ、ああ」
日向は俺が痛がってるのを心配して顔を覗き込んできた。
お前に殴られたんだけどな、2度もね。
「ハンカチ、落としちゃったでしょ?こ、これ使って」
「え!?いいのか?」
日向は淡い桜色のハンカチを差し出した。本日二度目の女子からのハンカチだ。
「い、いいから!血で汚してしまうなんてことは気にしないでよね」
「あ、ああ。悪いな、お言葉に甘えて」
俺はもらったハンカチで鼻血を拭いた。
涼風にもらったハンカチは日向に殴られた衝撃で手から離れて地面に落ちていた。
涼風はそのハンカチをヒョイッと拾ってゴミ箱に捨ててしまった。
「バイバ〜イ」
「あ、そのハンカチ、新しいの買って弁償するよ」
「いいよ、いいよ〜あげたハンカチだし〜」
「でもな、それだとこっちの気が収まらないよ」
「う〜ん」と指を頬に当てながら悩む涼風。
「だったら〜今度ウチらにメシ奢ってよ〜それでチャラ〜」
俺は少し思案した。
三人分のメシかぁ、ペンブロークでごちそうでも良いか。
「わかった。任せてくれ」
「やり〜、やったね〜サクラコ〜」
パチっとウインクする涼風に日向は「べ、別に…」と髪をくりくりいじくりながら返事をした。
「…ウチもハンカチあげる…」
サッと白いハンカチを差し出す竜田姫。安心しろお前だけのけ者にして二人にメシは奢らないから。
スヤサキ…いやルーナがコンテストで着る水着の種類が1つ決まった。あと2着決めないといけない。今日は水着を決めるまで帰らせてくれないようだ。
「1つは、ビキニで決まりだな?」
「ええ、そうね。露出を気にしているみたいだから、バンドゥビキニはロングフレアするわ」
「まぁ、スヤ……ルーナならビキニもワンピースも似合うだろうな」
おっと危ない、ついスヤサキと言うところだった。
でもスヤサキなら本当にどちらも着こなすだろう
できれば露出度の多いビキニタイプがいいのだが、まぁ他の出場者もいるみたいだからそちらに期待しよう。
どうせなら、日向と涼風も出ればいいのに。
竜田姫は…まぁスクール水着が似合いそうだな。
「……………」
竜田姫がこちらをジーっと見ている。変なこと想像していたのがバレたか?
「なんだ?竜田姫?」
「…マカミン…ルーナの体に詳しい…」
「本当だね〜ルーナの裸見たことあるの〜?」
スヤサキの裸だと?いや、無い。一緒に裸を見せ合うような仲ではない。
今度、スーパー銭湯にでも誘ってみるか。男同士、裸の付き合いも悪くない。
「いや、まだ見たことないな。今度一緒にお風呂にでも入ろうかな」
パコンっ!と高く軽い音が響いた。
「あいた!」
「なに、馬鹿なこと言ってのよ!」
「おお!」パチパチと竜田姫が目を輝かせて両手を叩く。
「お前!?スリッパで叩くことないだろ〜?」
「アンタがルーナと一緒にお風呂に入るって言うからよ!この変態」
「それは…あ!…冗談だよ冗談。俺はただのマネージャー、ルーナと一緒にお風呂に入るなんて、そんな仲じゃないよ」
俺はようやく馬鹿なことを言っていることを自覚した。ルーナとお風呂に入ってはいけない。みんなのアイドルルーナとはね。俺が言っていたのは、同性のスヤサキのことだ。ルーナではない。でもルーナの正体はスヤサキなのでここがややこしい。だから俺は何も違和感を感じず、「一緒にお風呂に入る」なんて言ってしまったんだ。本当だ、信じてくれ。俺は変態ではない。でも男と女だったらどっちとお風呂にはいりたいか?と聞かれたら、もちろん女と入りたい。そこだけははっきりさせときたい。
「ええ〜そうなの〜?ウチはルーナと一緒に入りたいな〜」
なにぃ!!!?涼風はスヤサキと一緒に入りたいだと!?なんて羨ましいやつなんだスヤサキ!
「それじゃぁ、俺も一緒に入りたい!」
パコン!パコン!
「痛い!」
「何バカ言ってのよ!」
「な、殴ったね?2度も殴った!親父にも殴られたことないのに!!」
某機動戦士アニメの名セリフが口に出た。
しかし、これは嘘ではない。その代わり投げられることはいっぱいある。親父は柔道家なのだ。
「殴ってなぜ悪いの!?」
「スリッパで叩くなんて、痛いじゃないか!?」
「アンタがスケベなこと言うからよ!このドスケベ!」
「やだぁ〜ん、マカミンのエッチィ〜」
涼風は腕を組んで体をくねらせた。組んだ腕の上には涼風の超豊満な胸が乗っている。
「…マカミンはルーナとヒマちゃんと一緒にお風呂入りたいの?…」
うっ!?幼女の純粋なジト目に俺の邪悪さが照らされているような気がした。
まるで太陽の下に出された吸血鬼の気分だ。眩しすぎる。焼ける。穴があったら入りたい。




