《第六話 レモンケーキをロックオン!》
ただ一つ、立派な山二つだけは確かに日向にもあったな。そこは認めざるを得ない。だがそれ以外はまったく、ぜんぜん、1ミリも、被ってない!
「そんな事言われても、あの人はサクラコちゃんで間違いないと思うかな〜チュ〜、プハァ〜、美味しい〜」
ガムシロとミルクたっぷりのアイスコーヒーをストローを使って飲むスヤサキ。
「いいや!それは間違いだ!ありえん!あの美しくて綺麗なお姉さんが、あの日向なわけない!」
「ええ!?そんなことないよ〜大学のサクラコちゃんも綺麗なお姉さんじゃない?」
「はぁ?見た目がぜんぜん!違うじゃないか?肌の色なんて褐色だし、髪は金髪、爪なんて獣みたいな長いネイルだし」
「ああ!サクラコちゃん最近イメチェンしたんだよ」
「な、なん…だと…!?」
日向桜子がイメチェンしただと?
「うっ!確かに…その可能性もゼロではないな…だがしかし、あんな美人なわけがない…」
「またぁそんなこと言って〜女の子に失礼だよ。女の子はね、誰でも変身願望を持っているんだからイメージチェンジはするものだよ。それにサクラコちゃんは元々美人だし」
「そ、そんなはずは…あの美しさは…スヤサキの見間違いじゃないか?」
「見間違いなんかじゃないよ。声も見た目もサクラコちゃんだったよ。だから逃げてきたんじゃない?」
「本当に日向桜子なのか?お前が言ってるのは違うサクラコちゃんじゃないか?」
「サクラコちゃんって名前は兎映大学でサクラコちゃん一人だと思うよ。もちろん日向サクラコちゃんね。それに真神陽太ってサクラコちゃん言ってたよ。キミはサクラコちゃんと知り合いなの?」
うっ…俺もそこが気になっている。やっぱりそうなのか?俺はお姉さんに名前を教えていないはずなのに名前を呼ばれたのは確かにおかしい。俺のことを知っているということになる。
「まぁ、まだあのお姉さんが、スヤサキの言うサクラコちゃんだとは確定してないが、日向桜子のことは知っている」
「サクラコちゃんとは友達なの?」
「んなわけ、あるかい!どうして俺があんな怖いギャル軍団の長と仲良く友達なんだよ」
「そんなに怖くないでしょサクラコちゃんは?」
「サクラコちゃんは怖いです〜」
「ええ!?そうなの?てか、真神くんっていつからサクラコちゃんと友達なの?」
「友達じゃねぇって、日向とは高校が一緒っだっただけだ」
「一緒の高校だったんだ」
「そうだ。ただそれだけ」
「いい子なんだけどなぁ。気さくで、誰にでも優しくて、面倒見が良いくて、おまけに美人さんだし」
「お節介が過ぎるんだよ日向は…」
俺と日向は決して友達ではない。高校時代はそのお節介が本当に嫌だった。
俺は高校時代の頃を思い出し、窓の外を眺めた。
「…まぁともかくさ、サクラコちゃんにはバレなかったことだし、なにか食べよう?」
なにか食べようって、微妙な時間だな…
右手につけた腕時計を確認する。午後4時を回ったところだ。
「あ!ケーキが美味しそう!ボクこのマスカットのシフォンケーキしよう!真神くんはどれにする?」
メニューを見ると、スヤサキが選んだマスカットのシフォンケーキの他に
レモンチーズケーキもオススメケーキとして紹介されていた。
「なら…俺はレモンチーズケーキにしようかな」
「いいね!ボクも頼もうと思ってたんだ。一口もらうね」
「嫌だよ、自分のケーキがあるだろう?」
「そんなこと言わないでさ、ボクのケーキも一口あげるからシェアしようよ」
スヤサキはマスカットのシフォンケーキの写真を見せてきた。うーん、確かにこれも美味そう…ごくり。
「わかった。良いだろう。その話し乗った」
「やったぁ!じゃあさっそくオーダーしてくるね」
スヤサキはテクテクと注文カウンターに向かった。スヤサキは歩き方まで女性のようなだ。その徹底した女装ぶりに思わず見入ってしまう。女性的な魅力を醸し出してる。
特にお尻。パンツルックのお尻はその扇状的なラインを浮き彫りにして見る者を釘付けにする。
「おまたせ〜見て見て、かわいい〜」
ニッコニコの笑顔で、ケーキを乗せたトレーを持ってきたスヤサキ。
俺が頼んだレモンチーズケーキは三層に別れたレアチーズケーキだ。
下はスポンジ。中は白いレアチーズ。上は爽やかなレモン色をしたジュレが塗ってある。写真で見るより美味そうだ。
スヤサキの方はマスカットの…
「おいしいいいぃぃぃ〜」
もう半分ほど食べていた。
相変わらずの速さ、恐るべし。
「おい、スヤサキ。ちゃんと俺の分も残してくれよ。じゃないとレモンチーズケーキはやらないぞ」
「ふにゅ!?そうだったね。食べ合いっこするんだったよ。危なかったかな…このマスカットのシフォンケーキ美味しすぎるよ」
もう一口を食べようとしていたのを我慢して、スヤサキはフォークをテーブルに置いた。
俺もレモンケーキを一口食べてみる。
「うん、うまい!レアチーズの滑らかな舌ざわりが良い感じだ」
「良いな〜はやくボクにも食べさせてほしいかな」
キラキラとした瞳で俺とレモンケーキを見つめるスヤサキ。くねくねと体をくねらせ俺のレモンケーキを待ち切れない様子だ。
俺は試しにレモンケーキを一口、フォークですくい、上下に動かしたり、左右に動かしたり、丸を書いてみたりしてみた。
すると、スヤサキは猫じゃらしを追う猫のように顔だけを動かして、獲物から目を離さない。レモンケーキをロックオン!




