《第三話 サクラコちゃん?》
スヤサキの後を追って、レディースコーナーのワンピースが並ぶゾーンに着いた。そこではすでにスヤサキが何着かのワンピースを手に取っては「うんうん」唸っている。
「この前のミトちゃんが着ていたような花柄のワンピースもいいけど、真っ白なワンピースも良いな〜真神くんはどういうのが良いと思う?」
「…………」
「ん?ねぇ真神くん聞いてる?」
「ダウンジャケット」
「も〜なにそれ〜?もうすぐ夏なんだから」
「じゃあ、海パン」
「むー!どうしたの?怒ってるの?」
「べっつに〜」
「ああ!わかった!さっきからかったこと根に持ってるんだ?」
「根に持っていません」
「ありゃ敬語になっちゃった。ごめんってば〜このあとご飯奢るからさぁ〜何が食べたい?」
「…ハンバーグ」
「フフ。わかった、ハンバーグだね」
「目玉焼き乗っけてくれなきゃ嫌だぞ」
「フフフ。わかった、わかった」
「絶対だぞ!目玉焼きは半熟だからな!」
「もう、わかったってば〜」
からかわれて根に持っていたら、スヤサキがご飯を奢ってくれるこのとになった。大好物のハンバーグに目玉焼きも乗ってくれるというので、からかわれたことは水に流してやろう。俺は寛大なのだ。
「ねぇ?それでさ、どのワンピースがボクに似合うかな?」
「ん〜スヤサキに似合うワンピースか…」
この店のワンピースコーナーには、数着のワンピースがハンガーにかけられて並べられている。古着屋なだけにどれも個性的だし、一点ものばかりだ。
女装が得意なスヤサキなら、どれも似合いそうではあるが…
正直、服のことはわからない。
「西園寺が着ていた花柄のワンピースはどうだ?おそろいでいいだろ?」
スヤサキと西園寺は最近の対決で友達になった関係だ。西園寺はスヤサキが女装してもまったく驚かず受け入れている。むしろ女装させようとする側だった。
「おそろいもいいけど、別のワンピースがいいなぁ〜花柄以外だったらどれが良い?」
「花柄以外か…あ!これとか良いんじゃないか?」
並べられてるワンピースの中から黒いワンピースを俺は選んだ。
スヤサキの好きな黒猫がモチーフになっているワンピースで、左胸には黒猫が三日月を咥えて、前足をピーンと伸ばして、楽しげに歩いてるバッチがついている。
「わぁ!良い!良いね、可愛いよ真神くん。なかなか良いチョイスだね」
「だ、だろう?」
黒猫のバッチが目に入ったのでこれにしてみた。
スヤサキのイメージはやっぱり黒猫だ。白黒のハチワレだとなおヨシ!
「真神くんって猫好きなのかな?」
「ん〜好きだけど、どっちかと言うと…犬派」
「へぇ~そうなんだ。じゃあ今度一緒に犬カフェに行こよ」
「お!行ってみたい、犬カフェ」
「いらっしゃいませ〜、あら?こんにちは〜」
ワンピースの色に悩んでいると新しいお客さんがお店に入ってきたようだ。
「あ!こんにちは椿さん。今日は桜子ちゃんいますか?」
「ええ、いるわよ。裏で在庫整理をやってもらってるわ」
新しいお客さんはここの常連さんのようだ。
「サクラコちゃん?」
ワンピースを選ぶ手が止まるスヤサキ。
「ん?どうしたスヤサキ?」
「あ!?いや、聞き覚えのある名前が聞こえたから…まさか、そんなわけないよね…でもでも…」
どこか気まずそうな顔をするスヤサキはブツブツとつぶやいた。
「店長、この段ボールの中身捨てちゃっても良いですか?」
すると店の奥から一人の女性が出てきた。その女性の声を聞いて、
スヤサキはビクゥッ!っと驚いてみせる。大きい音を聞いた猫のようなリアクションだ。
「こ、この声は…真神くん、隠れて」小声で俺の服の袖を引っ張り試着室に隠れた。
「おい、なんで隠れるんだよ」
「シっ!声出しちゃだめ!気づかれちゃうよ」
「はぁ?誰にだよ」
「いいから、隠れてて」
俺を試着室に押し込んで、スヤサキ自身も同じ試着室に入ったもんだから、狭い!狭いぞスヤサキ!
スヤサキは自分だけ顔を出して外の様子を伺う。
「あ!佐久間さんこんにちは。今日も新しい服見に来たの?」
「違うんだよ、桜子ちゃん。今日は報告に来たんだ」
「報告?」
「すみれちゃんとまたデートの約束をしたんだ。すみれちゃんが言うんだ。おしゃれになったね、柚真君って」
「ほ、ほんとに…」
「うん、本当だよ。これも桜子ちゃんが服をコーデしてくれたおかげだよ」
「…サクラコちゃんの常連さんみたいだね。あの男の人…」
「そうみたいだな…」
しかし、サクラコちゃんって誰だ?
俺もスヤサキの頭の上に顔を出して、外を覗いてみた。ちょうど常連さんの体でサクラコちゃんの顔を見ることができない。




