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スヤサキ君って実は…  作者: みえないちから
《第一章 陽太、昔馴染みと再会する》
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《第一話 カメリア》

俺の名前は、真神陽太まかみ ようた

自分の映画を作りたくて、映画作りが学べる大学「兎映大学」の脚本家コースに在籍している男子大学生だ。

2年生になった今年から自由にチームを作り、

自主制作の映画を作り始めるのが2年生の課題だ。三年の卒業までに完成を目標とする。


俺と同じ脚本家コースに通う宇賀野傑うかの すぐるとは、すでに一緒のチームだ。そしてラッキーなことにこの大学で女子人気の高い男子生徒、須夜崎夜空スヤサキ ヨゾラも同じチームになった。女子にモテモテなのは男して気に触るが映画作りとしては人気のある人物を獲得できたのは嬉しい。

スヤサキは、俳優・女優コースに通う役者志望の男子生徒だ。

そう!俳優さんを志望している男子生徒だ。


「ねぇ、真神くん?次はどのお店に行く?」

「ん〜そうだな……」

スマホをいじりながら、声をかけてきたのはそのスヤサキだ。

「あ!あそこのお店、良さそう」

スヤサキは俺の答えを聞かず、自分で見つけた店にさっさと行ってしまった。

まったく、マイペースなやつだ。


ジメジメとした梅雨が続いていた日々もやっと終わりを告げた真夏の日。そんな開放感に満たされた晴天の空の下、俺はスヤサキの買い物に付き合わされて、連れ回されている。


「いらっしゃいませ〜」

スヤサキが入ったお店は古着屋だ。店名は「Camellia(カメリア)

「わぁ、やっぱり古着屋は雰囲気があっていいね、真神くん?」

スヤサキはお店に入って早々に、ハンガーにかかっているTシャツの生地を触っている。

「雰囲気あるよな。スヤサキはよく行くのか?古着屋?」

「うん、服好きだしね。それでもたまにだよ。真神くんは、古着屋とか行ってる?」

スヤサキはTシャツの生地の感触を念入りに確認しながら聞いてきた。


「いや、全然」

「じゃあ、普段はどこで服を買うの?」

「そんなもんは、オニクロだよ」

「ああ、良いねオニクロ。ボクもよく行くよ」

オニクロはリーズナブルな値段で服が買える店だ。服にあまり興味がない俺としては、そういう店の方が使いやすいわけで。


「お目当ての物はありそうなのか?」

「う〜ん…どうだろうね…」

今日、俺はスヤサキの「服が買いたいから付いてきて」という連絡を受け、吉祥寺に来ている。

「Tシャツが欲しいのか?」

「うん、でも実はワンピースも欲しいんだよね」

ワンピースって…女の子が着る服だろ?

スヤサキの趣味が女装であることは知っているが、普段大学で会う姿を思えば

変なことなのだ。


「ミトちゃんが着ていた真っ白ワンピースも良いけど、ピンクの花柄も欲しいな。あ!そうなるとワンピースに合うブーツも欲しいな。ねぇ真神くん?ボクに似合いそうなワンピース見つけてくれない?」


「あのさぁスヤサキ?」

「ん?なに?」

「俺と会う時はなんでいつも女装してるんだ?」

服を選んで高揚しているスヤサキに言った。

「え?変かな?」

「変だろ」

「まぁまぁ。キミはボクのヒメゴトを知っちゃったんだからキミに会うのにボクが無理してメンズファッションしなくてもいいじゃない?あ!この生地好きかも」

スヤサキは「そんなことはどうでもいい」というよう服の生地の感触を確かめている。


「その商品試着してみますか?」

服の生地を触るのに夢中なスヤサキに、一人の女性の店員さんが声をかけてきた。


「いいんですか?」

「ええ、もちろんです。試着室にご案内します」

クルッと店員さんが後ろを向いたら

「わぁ赤ちゃん!かわいい〜」

女性店員さんの背中には赤ん坊が指をくわえて、こちらを不思議そうに見ていた。


「可愛いですねぇ〜男の子ですか?」

「ええ、そうなんですよ。産まれたばかりで〜」

「可愛い〜真神くんも見てよ赤ちゃんだよ」

スヤサキは赤ん坊の柔らかそうなほっぺをツンツンしている。

「ほら見てよ、こんなに可愛いよ〜」

いつの間にか、赤ん坊を抱かせてもらっているスヤサキ。


赤ん坊は俺の顔をマジマジと見ている。クリックリの大きな両目が俺の顔をマジマジと見ている。

うっ!ヤバい!俺の顔が怖いことは自他ともに認める事実だ。もしかしたら泣かれるかもしれん。号泣のあまり俺は店から追い出されるかもしれない。

「あうぅああう」

赤ん坊が俺の顔を見て、何か言葉を漏らした。残念ながら言葉になっておらず聞き取れない。


「ああ!?真神くんにも抱っこしてもらいたいんだね〜」

「お、おい何を言い出すんだスヤサキ!?お店の方に失礼だろ。それに赤ん坊が怖がってる…泣くかもしれない」

「全然大丈夫ですよ〜」

「ええ!?」

母親である女性店員さんは、全然気にした様子もなく、怖い顔の俺に赤ん坊を差し出す。

ううぅ〜泣かないでくれよ〜

俺は恐る恐る赤ん坊を抱き上げた。


「そういえば、この子の名前はなんて言うんですか?」

咲太郎さくたろうです」

「咲太郎くん、かっこいい名前だね」

咲太郎君は、俺の顔をペチペチと触っている。

俺の顔が気に入ったようだ。そして全く怖がっていない。


「咲太郎くん、真神くんの顔気に入ったみたいだね」

咲太郎君はさらにバシバシと勢いが強くなり、もはや顔面を叩かれている。

「い、痛い、痛いよ。咲太郎君」

「キャーキャキャキャキャ!」

「アハハハ。真神くんタジタジだね〜」

「ほら、咲太郎。こっちに…ごめんなさいね、ヤンチャな子なの」

女性店員さんに咲太郎君を返した。俺は顔面叩きから解放された。

「真神くんの顔怖いのに凄い懐いてくれたね。良かったね、真神くん」

「まぁ…まぁな」俺の左頬は少し赤くなっていた。いっぱい叩かれたな、親父にもあんなに叩かれたことない。


「赤ちゃんをあやしながらお仕事、凄いですね?大変じゃないですか?」

「あら、ありがとう。でも意外とできるものよ…って言いたいけど大変〜」

やっぱりそうか。旦那さんはいないのだろうか?

「夫が今、出張でアメリカに行ってる間は踏ん張らないとね」

「旦那さんいないと寂しくないですか?」

「平気よ、夫は古着をおろしにしょっちゅうアメリカに行くから慣れたもんよ。あ!ここが試着室。遠慮なく使ってください」

「ありがとうございます」とスヤサキは気に入ったシャツを数着持ち込み試着室の中に入ってしまった。

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