《第十七話 あの味を思い出して…母の日》
「お、お母様!いつから!?いえ、最初からずっとお祖母様に変装していたのですか?」
「ええ、そうよ。あなた全然気づかないんですもの」
「ハッ!?もしかしてウェンズデー、あなたは知っていましたの?」
「申し訳ありません、お嬢様。奥様のご命令でありましたので」深々と頭を下げるウェンズデーさん。
それについで他のメイドさんや執事も頭を下げた。
これは西園寺以外のお屋敷関係者は全員、理事長の中身が西園寺のお母様だってことを知っていたようだ。
「「え!?奥様!?」」
ランさんとリンドウさんは同時に驚いてる。
この二人も知らなかったのか。
「うわ!凄いね。理事長からあんな若くて、綺麗な人が出てきたよ。しかもミトちゃんのお母さんだって」
スヤサキは、俺の体の後ろに隠れて顔だけだし、覗くようににして西園寺のお母様を見ていた。
「なんで隠れるんだよ」と聞くと、
「ごめん、急に顔の皮膚を剥いだからびっくりしちゃって」と相変わらずビビリなやつだ。
「うううぅ!!!不覚ですわ。お母様の変装に気づかないなんて」
西園寺は、勝負に負けた時よりも悔しい顔をしている。
「さ、西園寺。そちらの方は?」
もう答えは知っているが、一応西園寺に誰なのかを聞いてみた。お母さんなんでしょ?
「え、ええ。申し訳ありません。ご紹介が遅れましたわ。こちらはワタクシの母、西園寺寅子ですわ」
「は、初めまして西園寺さんと同じ大学に通う真神陽太です」
「初めまして同じく須夜崎夜空です」
俺の挨拶に続いてスヤサキも挨拶をした。
「ええ、初めまして。ミトの母、西園寺寅子です。以後お見知りおきを」
西園寺のお母さんは、初めは眼光鋭い顔つきだったが、ニコッと笑顔で会釈を返してくれた。
とても美人だ。そのニコッと笑う顔は西園寺に似ていて可愛いらしさもある。
「ミト、先ほども言いましたけど、あなたは来週から辰郎さんのいる大阪に戻らねばなりません」
「そうですわ。お父様と大事な打ち合わせがありましたの。ヨゾラさん、ごめんなさい。次の対決は当分できませんの」
「うん、わかったよ。ミトちゃん」スヤサキは少し残念そうに言った。
「真神さん、今日は来てくれてありがとうございました。ワタクシに投票してくれなかったのは残念でしたけど、真神さんの好みが知れて良かったですわ」
「あ、いやぁ。西園寺のも美味しかったよ。特に桃のガレットが」
「うふ、真神さん、桃、お好きなんですね?」
クルッと後ろを向きお尻についた尻尾をゆらす西園寺。
ハッ!まさか!?俺がお尻好きなのを知っててやっているのか?
「女の子は男の子の視線に気づいてるんだよ…」
背後から低い声で脅しにかかるスヤサキの声がした。
ひぃ!やめろ、怖いよ、スヤサキくん。
ドスっ!ドスドスっ!
痛い、やめろ!脇腹を手刀の先で突くな!
かくして、初めて見るスヤサキと西園寺の対決は、スヤサキの勝利で終わった。
次の対決はいったいいつになるのか!乞うご期待!
「真神くん。夕日に向かって変なこと言ってないで帰ろうよ」
「あ、うん。そうだな…帰ろう」
かくして、俺は頭の中で言っているつもりだったが、声に出ていた!恥ずかしくなんかないもん!泣かないもん!男の子だもん!
「かくして、また声に出ている真神くんだったのだ!ニシシシシ」
いたずら小僧のように笑うスヤサキは、
メイド服のままだ。
「スヤサキ、そのままの姿で帰っていいのか?」
「うん、このメイド服ね。ミトちゃんがプレゼントしてくれたんだよ。似合ってるからって」
「そいつは良かったな」
スヤサキは女装のままでも気にしないようだ。
ちゃっかりあのドラゴンの角カチューシャと肉球ミトンも貰っている。
西園寺家の門を出るとスヤサキには迎えの車が来ていた。スヤサキのお兄さんだ。
俺も途中まで乗っていかないかと誘われたが、このあと寄りたいところがあるから断った。
「またね~真神君」
「またな〜スヤサキ」
俺はスヤサキと別れてから、
しばらく歩いて駅に行き電車に乗った。
電車に揺られること約15分。
俺が向かった先は…ガラガラ。
「ただいま〜」
「おかえりなさい、陽太。お風呂湧いてるわよ」
俺は実家に戻ってきた。
出迎えてくれたのは、俺の母親だ。
「ありがとう、母さん」
「今日はどうしたの?急に帰るだなんて、何かあったの?」
「母さんの手料理が食べたくなって」
「あら、そう」
ニコッと笑う母さんは嬉しそうだ。
「じゃあ陽太の好きなハンバーグ作りましょうね」
「あと、デザートにシュークリームも食べたいな」
「ええ!?シュークリーム食べたいの?珍しいわね、甘いの好きだったかしら」
「え?ああ、まぁ…その、久しぶりに食べたくなってさ、いいだろ?作ってよ」
「そうね。陽太、チョコのシュークリーム好きだったもんね。わかったわ、作ってあげる」
「やったぁ!」
「でも時間がかかるから、明日のおやつね〜」
「そんなぁ」
俺は楽しみにしていたからがっかりして見せる。
「そんなにがっかりしないで、美味しいハンバーグ食べさせてあげるから」
「わかったよ、母さん。明日の楽しみに取っておくよ。あ、そうだシュークリームの生地はクッキーでお願い」
「はいはい、クッキーシュークリームね。それも好きだったわね〜陽太。どうしてまたそんな懐かしいもの食べたくなったの?」
「まぁふと思い出してさ。母さんの手料理が食べたくなったんだ。それとこれも」
俺は自分の体で見えないように後ろ手に隠してあったカーネーションの花束を母さんに見せた。
「まぁ!?何?どうしたの、急にこんな花だなんて。綺麗ね〜」
母さんは驚いた後、嬉しそうに喜んで花束を受け取った。
俺は母さんに一言伝えた。
「母さん。いつもありがとう」




