《第十三話 ガレット・ブルトンヌですわ》
「ミトお嬢様。今回はどんなお菓子をお作りになるのですか?」
「ええ、今回はフランスの伝統菓子。ガレット・ブルトンヌを作りますわ」
「ガレット・ブルトンヌ!私も大好きです」
「そうだったわね、リンドウ。あなたにも食べさせてあげますわ」
西園寺は、ガレット・ブルトンヌというお菓子を作るようだ。
当然ながら初めて聞く名前のお菓子だ。
そんなことを思っていると審査員の一人のセバスチャンさんが喋り始めた。
「ガレット・ブルトンヌ。フランスのブルターニュ地方で作られているお菓子デスネ。
今では、ここニッポーンでもポピュラーなお菓子デスネ。ワタシの子どもの頃は、よくママンにおねだりして作ってもらいマァシタ〜」
セバスチャンさんはん〜っと故郷のことを思い出して懐かしんでいる。
「スヤサキ様にも聞いていきましょう。現場のランさん?」ウェンズデーさんが司会を進めた。
「はい、こちらはランです。スヤサキ様のキッチンに来ています。スヤサキ様は何を作られるのでしょうか。聞いてみましょう」テンションの低いランは淡々とレポートをしている。
俺はスヤサキが映るモニターを見た。
「スヤサキ様は何をお作りになられるのですか?」とランが訪ねた。
「ん?それはだね。これだよ」とスヤサキはボウルに入った生地をランに見せた。
「これはシュー生地ですか?」ランのジト目が大きくなった。
「うん、そのとおりだよ。これはシュークリームのシュー生地。ボクはクッキーシュークリームを作るんだ」
「なるほど。それは美味しそうですね」
クッキーシュークリームか。確かに美味そう。
シュークリームにクッキー生地を合わせて、
サクサクとした食感が楽しめるシュークリームだな。さすがに俺も知っている。
「出来上がったら、ランちゃんにも食べさせてあげるね」
「ありがとうございます」
淡々と受け答えをしているラン。
冷徹なイメージのランだが、その顔は少し緩んだ表情になった。お菓子が好きなんだろうな。
スヤサキは続けて別のボウルに全卵を用意した。
「次はこのシュー生地に全卵を加えながら、かき混ぜていくよ」
スヤサキは、少しずつシュー生地の入ったボウルに全卵を流し込んでいった。
半分入ったところで、ゴムベラでシュー生地と全卵を混ぜる。
「両者の作るお菓子がわかりましたね。お嬢様はフランスの伝統菓子、ガレット・ブルトンヌ。
対するスヤサキ様は、柔らかい皮をサクサクのクッキーに変えたクッキーシュークリームです。
どちらも完成が楽しみですね。おや?お嬢様に動きがあったようです。
リポーターのリンドウさん?」
「はい、こちらはリンドウです。ミトお嬢様に新たな動きがありました。御覧ください。あれは…苺です。ミトお嬢様は苺を薄く切っております」
瑞々しくて、少し大ぶりな苺をカットナイフで切っていく西園寺。
「苺だけではありませんわよ、リンドウ?」
西園寺は含み笑いを浮かべて、リンドウを見つめた。
「これもありますわ」と白くて丸い桃を細かく乱切りにし始めた。
西園寺の手にすっぽり入るサイズの桃は、白くてきめ細かな肌をした綺麗なお尻に見えた。
「そしてこれがとっておきですわ」と西園寺は自慢気に言って出してきたものは?
「これはびわですね、ミトお嬢様?」
「ええ、その通りですわ。お祖母様の大好物ですの」
手のひらに収まるくらいのびわを用意した西園寺。
どうやら理事長の大好物のようだ。
「あらぁ。覚えていてくれたのね、ミトちゃん。嬉しいわ」
ニコニコと朗らかに笑う顔は孫を見るお祖母さんだ。
西園寺はびわにカットナイフを入れた。
中には大きな種が入っていた。
種を取り除き、桃と同様に細かく乱切りにしていった。
「フルーツを使ったクッキーかぁ。楽しみだな」
「あらぁ。真神さんはフルーツお好きなの?」
「ええ、特に桃は好きですね。滅多に食べれませんし」
「そう。桃が好きなの。甘くて瑞々しくて美味しいものね。
私も好きよ」
「そうなんですね。理事長も好きなんですか?嬉しいなぁ」
「ワタシもペッシュ、好きデス。」とセバスチャンさんも会話に混ざってきた。
ぺっしゅ?なんだ?ペッシュってなんのことだろう?俺がなんのことだかわからない顔をしていると理事長が「ふふ、桃のことね。ペッシュはフランス語で桃のことよ」
「ああ!そうなんですね」
勉強になるなぁ。ついでにお尻ってフランス語でなんて言うんだろう?フランス人の女性と知り合いになったら「君のお尻は桃尻だね。とても可愛いよ」って口説きたい。グフフ。
カカッ!と俺のテーブルにナイフとフォークが突き刺さった。




