《第十二話 三人の審査員》
「お二人とも装備は万全でございますね?」
「ガオガオ」言い合う二人にウェンズデーさんは、良き頃合いを見て言った。
「ええ。もちろんですわ」
「ボクも大丈夫だよ」
「それでは、改めてこの料理対決のルールをご説明します。お二方にはお題のクッキーを使ったお菓子で対決してもらいます。食材はこちらで用意した物を使ってもらいます」
「わかりましたわ」
「わかったかな」
「今回の審査員は三人になります」
三人?俺の他にもあと二人の審査員がいるのか?
「ご紹介しましょう。一人目は我が西園寺家が手掛ける洋菓子店のパティシエ、セバスチャン・マルシャル」
ウェンズデーさんは一人の男性に皆を注目させた。
「ハァ〜ハッハッハッ。皆さん。ヨロシク」大柄な白人男性が挨拶した。とても日本語が上手いおじさんだ。
「二人目は西園寺うさぎ様です」
次に紹介された人物に俺は驚いた。俺の通っている大学の理事長が二人目の審査員として出てきたのだ。すごい人が出てきたな。
「皆さん。ごきげんよう。そして久しぶりね、ミト。元気にしてた?」
会場にいる皆に軽く会釈した理事長は、西園寺に話しかけた。
「お祖母様。ごきげんようですわ。もちろん元気ですわ。アメリカのお祖父様は元気でしたか?」
「ええ、お花を添えてきたわ」
「良いですわね。私も夏にお祖父様に会いに行きますわ」
西園寺は家族の会話を楽しんでいる。
理事長もいつも見る厳格そうな顔ではなく、孫を見るような優しい目をしている。
「そして最後は、お嬢様のご学友の真神様でございます」
凄い二人をさきに紹介されて、なんだか気まずい気持ちだな。
最後に紹介するのが、俺みたいなただの大学生ってのは順番が違う気がする。
「あ、どうもよろしくお願いします」
「真神様には、一般の方の代表ということで参加してもらいます」
あ、そういうことね。そういう説明があれば少しは気が楽になる。
「この対決の司会は私、ウェンズデーが務めさせていただきます。それでは審査員のお三方。こちらのテーブルの席へ」
一人に一つのテーブルと椅子が用意されていた。
中央の席に理事長が座り、左の席に大柄の白人パティシエ、セバスチャン。
そして残った右の席に俺が座った。俺が席に座ると、理事長が話しかけてきた。
「ごきげんよう。真神君と言ったかしら?うちのミトと仲良くしてくれてありがとうね」
「ああ!はい!こちらこそ。仲良くさせてもらってます」
俺は、自分の通う大学の理事長に話しかけられて緊張した。
「審査員が席につきましたので、料理対決を開始したいと思います。よろしいですな?」
「ええ、もちろんですわ」
「うん、ボクもいいかな」
「それでは始め!」
ぼ〜〜〜ん!とドラを叩くウェンズデーさん。
「わぁ!。びっくりした!凄い音〜」
スヤサキはドラの音にびっくりしている。
対する西園寺は驚きもせず、すでに調理を始めていた。スヤサキも遅れて調理を始める。
西園寺は、冷蔵庫の中からクッキーの生地を取り出した。今から生地を作るのかと思いきや、朝のうちに生地を練って、冷蔵庫で冷やしていたんだという。
クッキー生地を寝かせるのに長時間必要らしいので、この方法を取ったらしい。クッキー生地は、既に平らに伸ばされた状態だ。
西園寺は平らに伸ばしたクッキー生地に、丸型の型抜きを押し込んでいく。
型抜きが終わると冷蔵庫で冷やして、西園寺は別の作業に取りかかった。
対するスヤサキは鍋に牛乳、水、塩、バターを入れて火にかけた。
バターが完全に溶けたところで鍋を火から外して、薄力粉を投入し、ゴムベラで混ぜ始めた。
俺にはまだ何ができるのかさっぱりだが、手際が良くて魅入ってしまう。
「スヤサキさんは、どうやらシュー生地を作るみたいね」と隣に座る理事長が話しかけてきた。
「そ、そうなんですか?僕にはまったくわからなくて」俺はスヤサキが何を作っているのか想像できてない。
「ええ、真神さんはお菓子作りは?」
「まったくやりません」と即答。
自炊も筋肉のための筋肉飯ばかりだ。鶏むね肉、ささみ、サバ缶がメイン。もちろん野菜もちゃんと食べている。ブロッコリー、キャベツ、オクラ、人参。
そして「喫茶ペンブローク」のまかない。
「そう、残念ね。面白いわよ」そう言うと理事長はまた二人が対戦するキッチンに視線を戻した。
き、緊張したぁ〜いきなり話しかけてくるんだもんなぁ。
「それではここで、両選手が何を作っているのか聞いてみましょう。まずはお嬢様から、現場のリンドウさん?」司会のウェンズデーさんが料理番組でありそうなことをやり始めた。
「はい、リンドウです。私はミトお嬢様のキッチンに来ています」と双子メイドの妹、リンドウがマイクを持って応えた。
審査員の席には、それぞれにモニターが2つ置いてある。
スヤサキと西園寺のキッチンを撮影している。
俺は西園寺が映るモニターに注目した。




