《第十一話 カチューシャだけではございません》
「それではお嬢様は西の虎のステージへ、スヤサキ様は東の龍のステージにお立ちください」
スヤサキと西園寺は、言われた通りそれぞれキッチンスペースに向かった。
「お二人ともつきましたね?まずは、目の前にある紙袋の中身を出してください」
それぞれのキッチンの上に紙袋が、用意されていた。スヤサキは中身を見て動きが止まった。
「こ、これは…まさか!?」
手をぷるぷる震わせながら、頭になにかつけたスヤサキ。
あれは、カチューシャという女の子が使う髪飾りだよな?
「ドラ夫くんのツノカチューシャだ!」
目をキラキラさせて、スヤサキは言った。
ドラ夫くんってなんだ?そんの表情を浮かべていたら
「ドラ夫くんはね。テーマパーク『トラドラランド』のマスコットキャラクターだよ。
ドラゴンの男の子なんだよ。真神くん」
嬉しそうにスヤサキは、ドラ夫くんについて教えてくれた。
「あ、そういう遊園地みたいなのがあるのね」
「ええ、知らないの!?真神くん信じられない!!」
「そんなこと言われてもなぁ」
「で、でもどうして『トラドラランド』でしか手に入らないグッズが、こんなところに?」
スヤサキは唇に指を当てて西園寺に言った。
「ふふ。それは『トラドラランド』がワタクシのお父様が、経営している会社の一つだからですわ」
「ええ!『トラドラランド』って西園寺さんのお父さんの会社だったの!?」
驚きの声を上げるスヤサキ。
「なぁ?その『トラドラランド』ってこっちでは聞いたことないんだけど。本当にあるのか?」
「あるよ。大阪に」
「大阪にあるのか。知らなかった」
「真神くんってテーマパークとか興味ないのかな?」
「こっちにあるネズミの国なら妹に連れ回されたことあるけど、『トラドラランド』は初めて聞くなぁ」
「『トラドラランド』は大阪にしかございませんの。なぜならワタクシのお父様が大阪出身のコテコテの大阪人だからですわ」
お嬢様の口から「コテコテの大阪人」なんて言葉は新鮮だな。
「凄いよ、西園寺さん」
「ふふーん。凄いのはそれだけじゃありませんはわ」
「え!他にまだ何かあるのかな?」
スヤサキはワクワクが止まらない少年の顔になっている。
目なんかギラギラさせてやがる。
「これですわ!」西園寺が取り出したのは、これまたカチューシャ。
スヤサキのカチューシャと違うのは、黄色と黒の縞模様の虎柄だということ。
「わあ!トラ美ちゃんだ!」
西園寺のカチューシャには、可愛い丸っこい虎の耳がついている。
モチーフは虎のようだ。
「カチューシャだけではございませんわ!」
クルッとお尻を突き出して見せた。
西園寺のお尻には虎の尻尾が生えていた。
「わあ!トラ美ちゃんの尻尾だ!クルって丸まってて可愛い」
「そうでしょ、そうでしょ」
フリフリとお尻を振っている。センシティブだ。
お尻が凄いセンシティブだ。
「真神さんも私の尻尾可愛いでしょ?」
うん。もっこり〜、可愛いぃぃ〜お尻ちゃん可愛い〜
「ちょっと真神くん、またスケベェが出てるよ」
これは何も言い返せない。
「ごめんなさい」俺は素直に謝った。
「よろしい」スヤサキは許してくれた。
「さらにはこれ!」
両手を大きく万歳した西園寺の手には、肉球があった。
「わぁ!トラ美ちゃんのにっくっ!きゅぅぅぅうぅぅ!触らせてぇぇぇぇ」
スヤサキは発狂したように喜んだ。
「これはただの肉球ではなく、ミトンとしても使えるのですわ」
「凄いよ。西園寺さん」
「肉球好きなんだな。スヤサキ」
「うん。大好き」
西園寺の肉球をニギニギして、ご満悦なようすでスヤサキは言った。
「ふふふ。スヤサキさんにもドラ夫くんの尻尾とミトンを用意しありますわ」
「これがドラ夫くんの尻尾とミトンでございます」
ウェンズデーさんが、両手に尻尾とミトンを抱えていた。
「わぁ!凄い凄い!」と喜ぶスヤサキ。
「ドラゴンの尻尾はなんとなくそれっぽいけど、ミトンにはなぜ肉球がついてるんだ?」
ドラ夫くんはドラゴンだ。肉球は無いだろう。
「ドラ夫くんは妖精さんにこの姿に変えられたんだ。元は人間だよ」
「へぇ〜元人間なんだ、ドラ夫くん。でもなんで肉球あるの?」俺はもう一度同じ質問をしてみた。
「さぁ。可愛いからじゃないの?そんなこと考えたこともなかったかな」
可愛いは正義!そういうことらしい。
「スヤサキさんも早く、ドラ夫くんの尻尾とミトンをつけてみてくださいな」
「うん。わかったかな」
スヤサキは、尻尾とミトンをつけて両手を上げて「ガオー!」と唸った。
威嚇しているが可愛いだけで、全然強くなさそう。逆に弱そうだ。
西園寺もスヤサキに合わせて「ガオー!」をしている。
二人はしばらく「ガオー!」の言い合いを続けた。
何の時間なんだ?これは?




