《第十話 可愛い双子》
可愛い双子だ。
「ありがとうね。ところで二人の名前は?」
俺は気になったので双子の名前を聞いてみた。
「はい、申し遅れました。私が姉の姫神ランです」
と右側のメイドさんが言い、
「私が妹の姫神リンドウです」
と左側のメイドさんが言った。
二人の顔は双子なだけあって瓜二つ。声まで似ているような気もする。
髪型は、二人ともミディアムショート。
違うのは前髪が左右で違うところだ。
前髪の右側だけ長いのが姉のラン。
前髪の左側だけ長いのが妹のリンドウ。
「可愛いね。二人ともお花の名前なんだね」
スヤサキが二人の名前を褒めると
「「恐縮です」」と同時に答えた。
「お嬢様がお待ちです。会場に向かいましょう」
ランさんが扉を開けた。
「うん。わかったかな。行こう、真神くん?」
「ああ、そうしよう」
姉のランさんが先導して前を歩き、俺達はそれに続いた。妹のリンドウさんは俺達のあとに続いた。
「とっても可愛らしいですわ!お嬢様」
「素敵ですわ!ミトお嬢様」
会場に着いた俺達は、西園寺がメイドたちに褒められているところに出くわした。
西園寺はメイド衣装を着ている。
俺はそのスラリと長くて、綺麗な美脚に生唾をごくりと飲み込んだ。
「ム!どこを見て生唾を飲み込んでいるのかな?」
西園寺のもっこり美脚ちゃんに見惚れていたらスヤサキに睨まれた。
「あ、いや〜。メイド服かわいいなぁって」
「ふーん。ボクには西園寺さんの生足をジロジロ見ているスケベに見えたけどね。スケベェに」
「スケベェ言うな!しかも二回も!」
「スヤサキさん、やっと戻ってきましたわね」
スヤサキを見つけた西園寺が近くに来た。
「おまたせしたかな。西園寺さん。
なんだか可愛い衣装だね。とても似合ってるかな」
「あら、ありがとうですわ」
ひらりとスカートを揺らす西園寺。
おお!太ももが…ごくり
「また見てる。スケベ」とボソッと俺にだけ聞こえる声でスヤサキがつぶやいた。
見るだろう。あんな健康的な太ももなんだから!俺は心の中で開き直った。
「さぁスヤサキさんも対決衣装に着替えましょう。こちらへ」
「え?え?ちょっと、ちょっと待って」
西園寺はスヤサキの腕を引き、簡易的に設置されていた試着室に半ば強引に押し込められた。
「良いですか、スヤサキさん。その中に用意されている衣装来てくださいね……ふふふ」
「わ、わかったよ」
スヤサキはしぶしぶといった感じで試着室から返事した。
ガサガサと試着室の中から音がする。スヤサキが服を脱いでいるのだろう。
「ふぇ!?こ、これは!?」
ん?なにかあったのか?突然驚いたような声がする。
「あの…西園寺さん、本当にこれを着ないとダメかな?」
カーテンを少し開けて、顔だけ出して言うスヤサキ。
「ええ。もちろんですわ。それにスヤサキさんの服はもうこちらで回収いたしましたのでそれを切るしかありませんの」
「え?あ!本当だボクが脱いだ服がないよ」
スヤサキが、こちらに顔を出している間に服を取られてしまったようだ。
「まぁ。良いじゃないかスヤサキ。着る服はあるんだから」
「ボクの気も知らないで」スヤサキはジロッと睨んで、シャッとカーテンを閉めた。
機嫌が悪くなったスヤサキだが、しぶしぶと用意された衣装を着るみたいだ。
「さぁスヤサキさん。準備はよろしくて?」
カーテン越しに声をかける西園寺。
「うん、いいよ」
試着室のカーテンが開いて、中からメイドさんが出てきた。
西園寺が着ているメイド服とは違って、本格的なロングスカートのメイド服だ。
「え?スヤサキはどこに?」
試着室に入ったはずのスヤサキが消えた。
キョロキョロ。どこにもいない。
代わりに西園寺の家でメイドをしているような女性が現れたのだ。
「なにを言っているのかな?真神くん。ボクだよ」
「え?スヤサキ?」
「そうだよ。まったく」
スヤサキはどうしてわからないの?と言うような顔をする。
「やっぱり!とってもお似合いですわスヤサキさん。是非、今度私の屋敷でメイドをしてみてはいかかですか?」と西園寺が顔を明るくして言った。
「い、嫌だよそんなの。女装じゃないか!?恥ずかしいよ」恥じらいながら言うスヤサキ。
だが、お前の趣味は女装じゃなかったか?と思ったけど、これはスヤサキとの秘密なので黙っておくことにした。よく見ると顔がちょっと嬉しそうだなこいつ。
「そんなこと気にしなくて良いですわ。屋敷の中だけですから、誰にも見られることはありませんの。そうですわ。ワタクシが勝ったら一度、ワタクシのお屋敷でメイドをしてもらいますわ」
「なっ!勝手に決めないでよ」
「良いじゃありませんの。ワタクシに勝てたら無しなんですから。スヤサキさんも万が一、ワタクシに勝てたら何でも一つ言う事聞きますわよ?」
「な、何でも?」
何でも一つ言う事聞いてくれるというワードに食いついたスヤサキ。
「ええ、なんでも」
「…わ、わかった。それで良いかな」
「お決まりですわ〜」
「おほん!お二人とも準備はよろしいですかな?」
スヤサキと西園寺の会話にウェンズデーさんが、
割って入ってきた。
いよいよ、お菓子作り対決が始まるみたいだ。




