《第九話 大変大きなお屋敷》
とある休日の正午。俺は大変大きな門の前に立っていた。
その門は10メートルはありそうな高さだ。
門の外から中を覗いてみると、奥の方に大きなお屋敷が見える。
大変大きなお屋敷だ。古い洋館のような見た目をしている。
大きなお屋敷の前には、緑の芝生が広がっている。
綺麗に狩られた芝生の間には、人が歩くために舗装された道が大きなお屋敷に続いている。
この庭だけでも俺の住んでいるアパートがすっぽり入っても余ってしまう広さなんじゃないのか?
敷地の中を覗き込んでいると、ガラガラと音を立て何かが近づいてくる。
「真神様、お待たせしました」
声をかけてきたのは西園寺家のバトラー、ウェンズデーさんだ。
「こんにちは、ウェンズデーさん。かっこいい乗り物ですね」
「ええ、自慢の愛車です」
ウェンズデーさんが乗ってきた乗り物は一頭の馬が引く馬車だった。
馬を間近で見るのは初めてだ。なんていうか、大変大きい体をしている。
興味本位で馬の股間を覗いてみた。大変大きかった。雄のようだ。
「真神様、お嬢様がお待ちです。さあ、馬車の中へ」
「はい」俺は馬車の中に入った。そんなに大きくはない馬車だ。
2人用のようだ。
「我が西園寺家の庭をご案内したいところですが、あまり時間がありません。申し訳ございませんが、この道をまっすぐ進んで、まずは本館に向かいます」
「わかりました」
ガラガラと音を立て馬車は本館に向かった。
敷地内は門の外から見ていたよりも、ずっと広かった。
右側に見えたのは透明なガラス張りの建物。植物などを育てる温室だ。
ガラガラ。ガラガラ。
温室の中に人影が見えた。
遠くでよく見えないけど、服装からして女性に見える。
誰だろう?西園寺ではなさそうだ。
ガラガラ。ガラガラ。
温室を通り過ぎると、本館の玄関が見えてきた。
本館は白を基調とした美しい建物だ。
屋根は紺色の屋根瓦が敷き詰められている。
馬車が本館の手前で止まるとウェンズデーさんに降りるように言われた。
馬車から降りると、本館の白い玄関扉が開き、数人のメイドとバトラーがぞろぞろと出てきた。
メイドとバトラーは玄関扉の道を空けるように列をなして並んだ。
玄関扉の両サイドには、双子のメイドが立っていた。
するとその双子のメイドは、玄関扉を息ピッタリの動きで開けた。
「ようこそ真神さん!お待ちしておりましたわ〜」
本館の中からこのお屋敷に住んでいるお嬢様の西園寺が出てきた。
花柄のワンピースで登場だ。
西園寺はメイドとバトラーが作った列の間を優雅に歩いて俺の近くまで来た。
「よく来てくれましたわ真神さん。嬉しいですわ」
「お、おお。お招きいただきありがとうございます」
正直俺は、西園寺の登場に恐れおののいていた。
金持ちってすげぇや…
「さぁ中へお入りください。真神さんには、こちらで用意した衣装に着替えていただきますわ」
「え?俺に衣装が用意されてるのか?」
どんな衣装を着ることになるのだろう?
着替えを終えた俺は、西園寺家の応接室の二人掛けのソファに座っていた。
大変広い部屋だ、一人でいるのは寂しくなるくらいに。
「あ!真神くん!見つけた」
そう言って応接室に入って来たのは西園寺の対戦相手のスヤサキだ。
「凄いね、本物のお嬢様のお家だね」とスヤサキは部屋を見回しながら言った。
「凄いよな。俺なんて門のところで立っていたら馬車が迎えに来たよ」
「ああ、それボクも乗ったよ。可愛いお馬さんだったね」
「やっぱりスヤサキもあの馬車に乗ってきたのか」
「うん。ところで真神くん。今日は凄く決まってるね?」
そりゃあ気になるよね。俺だって落ち着かないよ。
「このお屋敷に着くや否や、この服に着替えてくれと西園寺に言われたんだ」
俺に用意された服装はモーニングコート。
昼間のパーティー会場などで男性が着るスーツのことだ。
よく聞くタキシードは夜に着るスーツらしい。
「そうだ。スヤサキは知っているか?タキシードとモーニングの違いを?」
「うん。知ってるよ。ざっくり言うと昼間に着るのがモーニング、夜に着るのがタキシードだね。だから今、真神くんが着ているにはモーニングだね」
くっ!さっきウェンズデーさんから聞いて知った知識をあっさり言われてしまった。俺なんて全てタキシードだと思っていたのに……
そうか!こいつ隠れて女装するのが趣味だから、服に関しては知識が豊富なのか?
俺とスヤサキは西園寺が呼びに来るまで少し談笑した。
「テーマはクッキーに決まったけど、スヤサキはどんなクッキーを作るつもりなんだ?」
「ん〜それは内緒なんだ。ごめんね」
と両手を合わせてウィンクした。
「いいじゃねぇか。教えてくれよ」
「ダメだよ。西園寺さんには対決の時まで誰にも言ってはいけないって言われたんだから。それに真神くんは対決の審査員なんだから、何が作られるかわからない方がワクワクするでしょ?」
「それもそうだな。仕方ねぇ、楽しみはとっておくとする」
「うん、それがいいよ。すっごく美味しいお菓子を食べさせてあげるから楽しみにしててね」
コンコンと扉をノックすると扉が開いた。
「「失礼します。準備が整いました。
スヤサキ様、真神様。会場にご案内します」」
と声を揃えて双子のメイドが入ってきた。




