表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スヤサキ君って実は…  作者: みえないちから
《第四章 陽太、兎姫(うさぎひめ)からお菓子をもらう》
52/113

《第八話 答えはドーナツですか?》

「西園寺さん…本当に球技が苦手なのかな?」

いつの間にかボールを奪われていたスヤサキは、疑いの目を西園寺に向ける。

「ふっふっふ。今までのプレイはおふざけですわ。ここから見せてあげますわ。私の華麗なプレイを!」ツルッ!

ボールは西園寺の手から、うなぎのようにつるりとすり抜けて逃げていった。

まるで生きているかのようなボールだ、西園寺が持っている間だけな。


「お嬢様は5秒以上ボールを持つことができないのです」

ウェンズデーさんがそう言った。突然…何を言っているんだこの人は?


「なんですかその5秒以上ボールが持てないというのは?」

「お嬢様は西園寺家にふさわしい人間になるべく、幼少の頃より様々な習い事を習ってきました。茶道に生け花。社交ダンス。そしてスポーツもありとあらゆるものを習ってきました。やはり人間は体が資本ですからね。西園寺家は文武両道なのです。お嬢様は色んな習い事をマスターしていったのですが、壁にぶち当たってしまいました……それがボールを扱うスポーツ。球技だったのです」

「な、なんだって!?そんなことがあり得るんですか?」俺は驚いた。

だけど驚いてみたものの、球技が苦手な人間なんて普通にいるだろう。

何を隠そう俺もそうだ。


「でもバレーボールは得意だと西園寺自身が言ってましたよね?」

「ええ、その通りでございます。球技の壁にぶち当たってしまったお嬢様ですが、諦めることなく球技に挑んで参りました。そしてお嬢様は見つけたのです。5秒以上ボールを持たずともできる球技を!」


「それがバレーボールだったのですね」

「ええ、そうです。バレーボールはボールを持つというより弾くことがメインになりますので、お嬢様にも習得できる球技だったのです。ポジションは点を決めるスパイカーがピッタリでした」

「なるほど。バレーボールなら持つというより体に当てて、繋いでいくというイメージだ。5秒以上”ボールを持つ”というわけじゃないですね」

「ええ、そして真神様。御覧ください。お嬢様が動きます」


そう言われて俺は再び二人に目をやった。

すでに展開が大きく進んでいて、スヤサキがフリースローをする直前だった。

スヤサキがまたボールを手に入れたようだ。

西園寺は?西園寺は何をしている?


後ろだ。まだスヤサキの少し後ろにいる。

そんなところじゃスヤサキのシュートを止められないぞ。

スヤサキの手からボールが放たれた。ボールは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い寄せられていく。

今度こそ決まったか?…いや少し、ほんの少し距離が足りない。

背後から迫る西園寺にスヤサキも焦って、距離感を間違えたか?

西園寺は猛ダッシュで、スヤサキの横を通り抜けボールを追う。

ボールはわずかに距離が足りず、リングに当たって弾かれた。


「うわぁっ!嘘!?外しちゃった!」


距離感を間違えたスヤサキは自分の失敗に驚いてる。

再び宙に浮かんだボールは無防備だ。

そこにはすでにジャンプして、ボールとの距離を埋めた西園寺が、

左手でボールに照準を合わせていた。

右手は頭の後ろに構えている。

バレーボール選手がスパイクを打つ時の姿勢だ。

凄いジャンプ力だ。背の高い西園寺ならその手を伸ばせば、ゆうに3メートルは超える。

バシンッ!

弾かれて返ってきたボールに西園寺のスパイクが炸裂した。


ボールは一度、バックボードに当たりリングに入った。


「おおぉ!!!」


1on1を観戦していたギャラリーたちから歓声が湧き上がった。

西園寺の動きは凄まじかった。

まるで始めからこの展開を予想していたかのような動きだった。


「そこまで!お嬢様がシュートを決められましたので、勝者は西園寺魅兎!」

拍手喝采!スヤサキたちの勝負を観に来ていたギャラリーたちから大きな歓声が上がる。


「ありがとう!ありがとう!皆さんありがとうございますわ!」

両手を上げて歓声に応える西園寺の額からは、汗が流れて輝いてる。

嬉しそうな笑顔だ。

西園寺はいつも笑顔だけど、それはお嬢様みたいな上品な笑顔でなく、

今の笑顔はくしゃっと顔を崩した笑顔だ。

西園寺の印象が少し変わった。あどけない笑顔が可愛い。


「お嬢様、お手を」

メイドさんが西園寺に近づき、西園寺の手を氷で冷やしている。

西園寺のやつ手が少し赤くなってる。バレーボールではなく、バスケットボールをスパイクしたんだ。むちゃしやがる。

「ありがとうですわ。リンドウ」

リンドウと呼ばれたメイドさんは「はい」と返事をした。

心配そうに西園寺の手を冷やしている。

「お嬢様、それでは答えを?」

ウェンズデーさんが西園寺に聞いた。


「ええ、わかりましたわ。答えは」

答えは?ドーナツか?


「バームクーヘンですの」

「お見事。正解です、お嬢様」


なんだバームクーヘンなのか。俺の予想は外れた。

ドーナツではなかった。


「はぁ〜悔しい…でもこれは完敗かな。凄いよ西園寺さん。この勝負は、はボクの負けかな」

少し残念そうなスヤサキ。でも西園寺のプレイは凄かった。

それをスヤサキも認めている。

「何を言っていますのスヤサキさん。この勝負はお題を決めるためのただの前哨戦ぜんしょうせん。本番の勝負は次からですわ」

「うん。そうだったね。次は負けないよ。西園寺さん」


二人は夕日を背にがっしりと握手を交わす。なんて絵になる光景なんだ。

というわけで、日も傾いてきて夜が来る。

「それでは勝利いたしましたお嬢様?料理対決のテーマを決めてください」

「ええ、わかりましたわ。今回の対決のテーマは…」

じっくりとためてから西園寺は言った。


「クッキーですわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ