《第七話 覇王◯◯拳》
「それではスヤサキ様。2つ目のヒントでございます」
「うん」
「そのお菓子には中心の穴が空いています」
中心に穴が空いている?俺が今パッと思い浮かべたのはドーナツだ。
あれも中心に穴が空いているお菓子の代表格みたいなものだからな。
「う〜ん、なんとなくだけどあれじゃないかな…」
スヤサキは自信は無いけど、スヤサキの中で一つだけ候補が上がっているらしい。
スヤサキもドーナツだろうか?あいつドーナツ好きそうだしな。
「それではお嬢様のヘッドホンとアイマスクを外します」
先ほど西園寺にヘッドホンとアイマスクを装着した二人のメイドさんが現れて、西園寺の肩を軽く叩き、ヘッドホンとアイマスクを外した。
「ありがとう。二人とも下がっていいわ」
「「はい、お嬢様」」
「それでは、只今より5秒後からこのボールに再び触れることが可能になり、
1on1再開といたします」
「5…」
ウェンズデーさんが右手の指を全て開き「5」を表す。
「スヤサキさんはもう答えはお解りになられまして?」
「自信は無いけど、一つ思い当たるお菓子はあるかな」
「いいですわね。これで本格的にアナタと1on1の勝負ができましてよ」
「4…」
「ボクもそれは楽しみかな。でもあのボールさばきでどこまでボクについてこれるかな」
「3…」
「言いましたわね。必ずこの勝負勝ってみせますわ!」
「2…」
いよいよだ。ウェンズデーさんの指は残り二本。
「望むところだよ!」
「1…スタート!」
ウェンズデーさんの指が一本になり、手を開いて腕を振り下ろした。
二人は同時に駆け出した。初動はどちらも同じ速さ。
スヤサキの方が部があると思ったが短距離ならわからない。だが…。
「やった!ボールゲット!」
先にボールを掴んだのはスヤサキだった。
これは勝負が決まったか?
西園寺のボールさばきを見ている限り、スヤサキからボールを奪い取るような未来は見えてこない。残念だけど。
「くっ!出遅れてしまいましたわ」
「このままシュートを決めさせたもらうかな」
スヤサキは華麗なドリブルでゴールに向かった。ドリブル姿が様になっている。こういう時でもイケメンオーラが半端ないやつだ。
流れる汗がキラキラと煌めいている。
スヤサキのとりまきたちも「キャーキャー」と黄色い悲鳴を上げざるを得ない。男子たちは恨めしそうにそれを見ている。
その嫉妬のオーラから彼らはスヤサキに向かって、覇王◯◯拳を使わざるを得ないだろう。俺は使う、覇王ぉ◯◯拳!
「うへ…真神くん。キミは何をしてるなかな?」
俺の覇王◯◯拳の動きを見てスヤサキは動きを止めて、怪しい者を見るかのようにジトッとした目をこちらに向けた。
「隙あり!ですわ!」
動きを止めたスヤサキの隙を見逃さなかった西園寺は、スヤサキの手からボールをかすめとった。
「あ!真神くんを見ていたらボールを取られちゃったよ。
もう!真神くん、変な事しないで欲しいかな!」なぜかスヤサキに怒られた。
「なんでだよ!かっこいいだろう。覇王◯◯拳!これはだなスヤサキ。
覇王◯◯拳と言って、◯◯の拳という格ゲーの……」
「どうでもいいかな!」
俺に辛辣な言葉を吐き捨て、西園寺を追いに行くスヤサキ。
くっ!男の子のくせに覇王◯◯拳のカッコ良さをわからんのか。
「今度こそ!シュートを決めてみせますわ!」
「そんなこと言ったって、どうせまたボールがあらぬ方へと行ってしまうのが想像できるかな」
西園寺の背後から迫るスヤサキ。やっぱり足が速い。
まるでサバンナのチーター。
「それ!」
西園寺は背後に迫るスヤサキを予期してか、
その場でフリースローを繰り出した。
ボールは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い寄せられている。
上手い!球技が苦手と言われていたがこのシュートは入りそうだぞ。
「させないかな!」
西園寺の横を通り抜けたスヤサキは、空中に浮かぶボールをキャッチした。
そしてあろうことかそのままレイアップシュートをかましたのだ。
マジかよ。運動神経良すぎるだろ!?
「させないですわ!」
今度は西園寺「させない!」が出た。
ゴールポスト直前のボールをバレーボール選手のようなスパイクで、
はたき落とした。背の高い西園寺ならではの芸当だな。
「くっ!なかなかやるかな?球技が苦手なくせにバレーボールはできそうだね」
「ええ、バレーボールは得意ですのよ」
「でもボールを持って無いとゴールは決められないか…なっ!」
脱兎のごとく駆け出すスヤサキ。
「そう来ると思ってましたわ。話の途中で行くなんて卑怯ですわよ!」
しかしスヤサキの行動を予想していた西園寺は離されることなく同時に駆け出した。
立ち位置的にボールに近かった西園寺が、一歩早くボールを掴むことに成功した。だがしかし、すぐさま追いついたスヤサキにかすめ取られる。
「隙ありだね」
「ああん!またしてもボールを取られましたわ」
「へへ〜ん、いただき〜……ってあれ?ボールがない?」
このままスヤサキにシュートを決められてしまうのか?
そう思った矢先に西園寺はもう動いていた。
そして華麗にスヤサキからボールを奪い取っていた。




