《第六話 ヒントタイムでございます》
「次のヒントを聞くには条件があります。すでにボールを獲得しているミトお嬢様からボールを奪取していただきます」
「ふむふむ」
「ボールを奪取できましたら、ボールは一旦机に戻していただきます。
すでに答えが解っているミトお嬢様も、スヤサキ様とご一緒にヒントを最後まで聞いていただきます。両者共にボールに触れられるのは、ヒントを言い終わってから5秒後になります」
「もし全てのヒントを聞いてもボクが答えにたどり着けなかった場合や、西園寺さんがシュートを決められない場合はそのまま1on1を続けるのかな?」
「ちょっと!ワタクシがシュートを決められないなんてありませんわ!」
ボールを取りに行って戻って来た西園寺がツッコミを入れた。
まだシュート決まってなかったのかよ。本当にシュート決められないんじゃないか?
「もちろん。ミトお嬢様がシュートを決められないことは充分にありえます!」
「ちょっと!ウェンズデーまで何を言ってますの!?あっ!またボールがあらぬ方へ…」
ボールがまたあらぬ方へと行ったので西園寺はまた離れていった。
「ミトお嬢様は球技が大変苦手でございます。シュートが決まるほうが稀でございますので、スヤサキ様のご心配になられていることは充分にありえます。ですのでその場合も制限時間の5分を過ぎますとその問題は終了とさせていただきます」
西園寺はシュートを入れられず、スヤサキは問題が解けないで終わるということか。
「ちなみにボールを奪取して、ヒントを聞いたらヒントが言い終わるまでプレイ時間は一時停止となります」
スヤサキは西園寺のプレイを見て高をくくってるようだが、制限時間までに答えがわからないままだとスヤサキの勝ちは無い。
どうする?スヤサキ。
「うわ!そうだ。制限時間があるんだった。悠長に考えてる時間はなかったかな。とりあえず西園寺さんからボールを奪えばいいだね」
とすぐさま西園寺のところへ走り出した。
「き、来ましたねスヤサキさん」
「そのボールはいただくかな、西園寺さん」
「そう簡単にはいきませんわよ!」
スヤサキから逃れるため、西園寺は勢いよくボールを地面に叩きつけた。しかしやっぱりボールはまたあらぬ方へと弾んで行くのであった。
「あ〜んもう!ボールが全然言うこと聞きませんわ!」
「キミはボールに嫌われているんじゃないかな?プププ」
「うるさいですわね!」
うまくボールを扱えない西園寺を煽っていくスヤサキ。
なんだか少し楽しそうだな。
二人はあらぬ方へと弾んで行ったボールを追いかける。
スヤサキはかなり身軽なようで、ボールを先に追いかけていた西園寺にもう追いついている。
「足はボクのほうが速いみたいだね、西園寺さん」
スヤサキはペースを落として西園寺の隣に並んで言った。
「アナタが足が速くても、ワタクシは負けませんの」
スヤサキを見向きもせず、ただボールを見て走り続ける西園寺。
俺は西園寺の前向きなプレイに思わず魅入ってしまった。
スヤサキ、お前完全に悪役だぞ。
だが現実は西園寺に厳しかった。
西園寺よりも足の速いスヤサキがボールを掴んだ。
「やったぁ!ボールゲット〜!これでヒントを聞けるかな」
「ヒントタイムでございます!」
ウェンズデーさんは手を上げて注目を集めた。
スヤサキは先ほどボールが置いてあった机の前に立って、ウェンズデーさんと向かい合った。
西園寺は息を切らしながら少し遅れてスヤサキの隣に立った。
「揃いましたね。それではスヤサキ様がお嬢様からボールを奪取できましたので、スヤサキ様にヒント2をお伝えしたいと思います…と、その前にお嬢様にはこれをつけてもらいます」
ウェンズデーさんが持ち出したのは、音楽を聴くためのゴツいヘッドホンと
寝るときにつけるアイマスクだ。
「ん?どうしてヘッドホンとアイマスクが出てくるのかな?」
「このヒントタイムはボールを奪い取った者が聞くことができます。
ですからお嬢様には、ヘッドホンとアイマスクを装着してもらい、
スヤサキ様がヒントを聞いている間は目と耳を塞いでいただきます」
「ボクは別に一緒に聞いていても良いかな」
「お嬢様は今、ヒントなしの問題を聞いただけで答えが解っている状態です。正解はまだわかりませんが、これからスヤサキ様に出すヒントでお嬢様の答えが確信に変わるかもしれません。それはいささかお嬢様が有利というものでフェア…いや面白いゲームではなくなります」
「西園寺さんはそれで良いのかな?」
「ええ、構いませんわよ」
当然でございますというような顔で答える西園寺。
西園寺は二人のメイドさんにゴツいヘッドホンとアイマスクを装着させられている。
「お嬢様。こちらの声は聞こえていますか?」
「……………」
西園寺は何も答えない。本当に何も聞こえていないようだ。




