《第五話 木のケーキ》
「西園寺さんこそ、ボールが手になじまないようだけど、あんな運動音痴でボクに勝てるのかな?」
人差し指の上でボールをクルクル回すスヤサキ。煽りよるわ。俺もあれはできない。ちょっと羨ましい。
「ぐっ!あんなですって!?ワタクシは、幼少期よりバレエを嗜んでいますのよ。
そんなワタクシが、運動音痴だなんて失礼ですわ!
この対決で。ワタクシが運動音痴ではないことを証明してみせますわ!」
お!どちらもやる気だな。
流されるままに二人の対決の審査員を受けることにしたが、なんだか面白くなりそうだ。
「スヤサキさん。まずはこのラインに立ってもらいますわ。ここが定位置となりますわ」
「うん、わかったかな」
二人はバスケットコートの中心にあるラインに並んだ。
「あそこに見えますディスプレイに、問題文が表示されます。読み上げはウェンズデーですわ」
「お願いします」と執事のウェンズデーさんが会釈した。
「問題が解った者から、ディスプレイの前に置いてある机の上のボールを取りますわ」
「問題文は最後まで聞くのがルールだったよね?」
「その通りですわ。後は先ほど説明しました1on1を行いますわ。スヤサキさん準備はOKですか?」
「うん、望むとこかな」
西園寺は、その瞳からバチバチと火花を散らすかのようにスヤサキを見据えている。
対するスヤサキもその瞳の中に静かに燃える炎が見えるかのようだ。
二人ともやる気満々っといったところか。
「お二人共よろしいですかな?」
ウエンズデーさんが言った。
「ええ、いいですわ」
「うん、いいよ」
「それでは第一問でございます」デデン!
「日本語に訳すと「木のケーキ」という意味になるお菓子とは何?」
ウェンズデーさんの読み上げとともにディスプレイに問題が表示された。
木のケーキ?何だろう?
見た目が木の丸太のようなケーキなら見たことがある。ペンブロークでもクリスマスが近くなると出てくるのだ。ペンブロークでは「マルタケーキ」と読んでいる。
「わかりましたわ!」
西園寺はボールを掴んだ。問題を先に解いたのは西園寺。
この問題は西園寺が持っていくか?
「ほ〜ほっほっほっほ。この問題はワタクシがいただきましたわ〜!」
意気揚々とボールを掴み、ドリブルを始める西園寺。スヤサキは、まだ答えが解っていないのか「う〜ん」と考え込んでる。
ディフェンスに行かないのか?
ルールでは、シュートを妨害するのはOKだったはず、このままでは、本当にこの問題を西園寺に持っていかれるぞ。大丈夫か?スヤサキ。
しかし、そんな心配は杞憂だった。西園寺は、バスケットボールのドリブルをやり始めて直ぐにボールを見失っている。
「あら?あらら、ボールはどこへ?……あっ!あんなところに!? んっ!もう!どうしてあらぬ方へと行ってしまうの〜」
西園寺はあらぬ方へと行ってしまったボールを追いかける。
意外だ。西園寺は運動が苦手なのかな?
いやでも小さい頃からバレエを嗜んでいると言っていたのでそんなことはないと思うのだけれど、まるでボールの扱いに慣れてないように見える。
「ふふっ、西園寺さん。そんなドリブルもできないようじゃボクに勝ってこないかな」
「くっ!バカにして!そういうあなたは問題が解けていないではないですか!?」
「心配しなくてもそのうち解けるかな。それよりもボクはディフェンスに入ろうかと思ったけど、
西園寺さんを見る限り何もしないで立ってるだけでも安心かな。プププ。答えが解ったらボールを”拾って”シュートを入れるだけ、簡単、簡単」
スヤサキの言う通り、西園寺のボールさばきはかなり壊滅的だ。
ボールを!ゴールに!シュート!!!させるのなんてかなり困難だろう。
西園寺の手にボールが、1秒以上留まることはあるのだろうか。
「く〜!悔しいですわ。こうなったらダンクシュートは諦めてフリースローで決めてやりますわ」
作戦を変えてフリースローをやり出す西園寺だが、恐ろしいほど下手だ。
ことごとく西園寺のシュートが入らない。
なんか見ていられないので、スヤサキの方を見てみるか。
「う〜ん全くわからないかな〜。難しいかな〜」
スヤサキは腕組みしてウンウン唸っている。
「ウェンズデーさん、なにかヒントをくれないかな?」
「承知しました。それではヒント1でございます」
老執事は指を一本立てた。
「答えのお菓子の語源はドイツ語でございます」
ドイツ語?う〜ん、わからないな。もう一つヒントが欲しいところだな。
「ドイツ語の知識なんてあまりないかな。子供の頃に家族と旅行に行ったことはあるけど…う〜ん…もう一つヒントを教えてくれないかな?」
「二つめのヒントを聞くには、ミトお嬢様からボールを奪取していただきます」
「えっ!すぐには教えてくれないのかな?」
「当然でございます」
ウェンズデーさんは、次のヒントは簡単には教えてくれないみたいだな。




