《第四話 とにかくクイズがやりたいようだな》
太陽が西の空に沈み始めた。
大学内にあるバスケットコートには、スヤサキと西園寺、それぞれのとりまきガールズ、さらにはヒマを持て余した学生たちが、対決の噂を聞きつけてわらわらと集まってきた。
今からスヤサキと西園寺は、お菓子作り対決をするのだ。
ここ、バスケットコートでな。
「それではスヤサキさん。
ワタクシとクイズを解きながら1on1ですわ」
クイズを解きながら1on1?
「ちょっと西園寺さん。お菓子作り対決じゃなかったかな?」
「ええ、もちろんお菓子作り対決はしますわ。でもどんなお菓子を作るかをまだ決めていません。ですから今からクイズを解きながら1on1をして、その勝者がお菓子のテーマを決めることにしますわ。よろしくて?」
「わかったかな。でもどうしてクイズなのかな?1on1だけでも十分だとボクは思うかな」
「ただ1on1をやるだけでは面白くないですの。ですからお菓子クイズですの」
西園寺はとにかくクイズがやりたいようだな。
「キミは言い出したら聞かないから、それでも良いかな。それじゃあお菓子クイズをするとして、ルールを聞こうじゃないかな。もう決まってるの?」
「ルールは簡単ですわ。先ず初めにお菓子クイズの問題が出されます。クイズが解けた者からボールを手に取りシュートを決めます。シュートを決めたら回答権を得られます。そこで初めて答えを口にすることができますの」
なるほど、問題が解けたとしてもシュートを決めなくては答えられないって訳か。
「ボールを持ってる者を妨害するのはありだよね?」
「もちろんですわ。問題が出されて、どちらかがボールを持ったら1on1のスタートですわ。ただし、守っていただきたいのは、問題の途中で答えが解ってもボールに触れるのはNGですわ」
ふむふむ。早押しクイズはできないわけだな。
「問題は最後まで聞かないといけないわけだね。面白いじゃないか」
スヤサキは少しだけこの対決に興味を示したようだ。やれやれだぜって雰囲気出してたのに楽しんでやがる。やれやれだぜ。
「そういうことですわ」
「二人ともシュートが決まらない時はどうするかな?」
「制限時間は5分間。それを過ぎましたら1on1も問題もリセットですわ」
問題もリセットか。これで問題が解けなくても、5分間相手にシュートを決めさせなければ、次の問題で挽回できるということだな。
問題が解けた方は答えられなくて悔しがるぞ〜
「なるほど。頭も使って体も使う。急ごしらえで考えたわりにはとても良い感じかな。すごく楽しみになってきたかな」
「そうこなくてはですわ」
ガラガラガラ。
男が台車をひいてスヤサキと西園寺の前までやってきた。
その台車には白いシーツが被せてあって、台車の上には銀色の丸い蓋が乗せてある。
高級レストランなどで見る料理に被せるアレだ。
男は蓋のつまみをつかみ、蓋を開けた。
いったい中にはどんな美味しい料理が入ってるのだろうか……パカッ
ボールだ。バスケットボールだ。料理じゃなかった。そしてこの男は何者なのか?
「お嬢様。ボールをお持ちしました」
「ありがとうですわ。ウェンズデー」
この男がさっき西園寺が電話で話していたウェンズデーか。
白髪をオールバックにした老人だが、背筋がスッと通っていて背も高い。俺と同じくらいか。
「こんにちは。ウェンズデーさん」
「こんにちは、スヤサキ様。ご機嫌いかがでしょうか?」
「うん。絶好調だよ」
スヤサキと老執事は軽い挨拶を交わしている。
知り合いのようだ。西園寺とはいつから友達なんだろうか。
最近スヤサキと知り合った俺は、まだまだこいつの交友関係を知らない。
「ボールも届いたことですし、さっそく始め…始め、あれ?始めたい…と思いますわ」
西園寺はバスケットボールを持ち上げ、人差し指でボールを回そうとするのだが、うまくいかずボールを落としてしまった。
何度も挑戦するも結局失敗している。
「貸してみて」とスヤサキは西園寺からボールを奪いとり、人差し指に乗せてクルクルと器用に回し始めた。
「ぐぬぬ」と西園寺はハンカチを噛みながら悔しがる。
かなり悔しがってるな、西園寺のやつ。
「ぐぬぬ」って口に出して言ってるからな。
初めて聞いたぜ。人の口から「ぐぬぬ」なんてさ。
これを見る限りスヤサキの方がボールを扱うのが得意のようだな。
「そんなことができたとしてもクイズが解けなければ意味ありませんの!」
「そうだね。でもその後、ボールをゴールに決められなけば意味ないのも一緒だよね?」
「あらそれでしたらワタクシのほうがゴールに近いので有利ですわね」
西園寺は頭に手をあて自分の身長の高さをアピールしている。
「あなたの背丈でゴールに届くのかしら?」
「な、なにを!?ボールが入れば良いんだから身長が低くても平気かな!」
スヤサキの身長は確かに男性の中では小柄のほうだ。だけど、スヤサキは身長を気にするようなやつじゃないと思っていたがそうではないらしい。




