《第二話 DEATHわ》
「何?あの男。ミトお姉様の何DEATHの?」
「怖い顔DEATHわ〜」
「殺し屋のような鋭い目つきDEATHわぁ、怖いわDEATHわ〜」
あれは邪魔者に見せる眼差し。
「DEATHわ、DEATHわ」って聞こえるもん。
グスン、涙が出てきた。みんなより顔が少し怖いだけなのに、グスン。
でも、負けないもん!だって陽太、男の子だもん!
西園寺は「あらあら」と俺にハンカチを渡してきた。
涙を拭けということだろう。
俺は「ありがとう」と言ってハンカチを受け取り涙を拭った。
洗って返そう。
西園寺はとりまきたちの元へ戻ってなにか話し、またこちらに戻ってきた。
「皆さんに真神さんも混ぜてご一緒にお茶会しませんか?って聞いたら、それは駄目ですと強く言われましたわ〜」
だろうな。そんな雰囲気がヒシヒシと伝わって来たよ。ここから見てもね。
「西園寺、誘ってくれてありがとな。あとジロジロ見ていてすまなかった」
「そんなことないですわ。真神さんとお話できて良かったですわ。またお話しましょう」
「おう、そうだな」
とりまきたちの元へ帰っていった西園寺は、こちらを振り返り手を振った。
俺も手を振り返した。
西園寺は、この俺の顔を見ても怖がらないやつらの内の一人だ。
みんな何かしら俺の顔や雰囲気を見て怖がる。まあ、そう思われても仕方がない風貌をしている自覚はある。
だけど西園寺は初めて会ったときから、今と変わらない態度で俺に接してくれる。
すごく良いやつだ。
傑も初めて会ったときも怖がらなかったし、
スヤサキもそうだった。
小さい頃はそれなりに傷ついたけど、俺の顔を見て怖がらない人がいると知ったら、そんなに気にすることじゃなくなった。
休憩もこれくらいで良いだろう。
俺はベンチから立ち上がり中庭を離れることにした。
西園寺たちもお茶会を終えたようで、中庭をあとにしようとしていた。
するとそこに二、三人の女子をつれて歩いてくる男がやってきた。
誰かと思えばスヤサキだ。
相変わらずのモテ男ぶり。なんかそこだけ光って見えるね。
オーラかな?輝いてるねスヤサキ君。けっ!
「あらぁ、これはスヤサキさん。ごきげんよう」
「こんにちは、西園寺さん」
「相変わらず可愛らしいですわね。
小柄で、女の子みたいですわ」
なにか含みのある言い方で、スヤサキを見すえる西園寺。
「ありがとう、西園寺さん。でもお世辞は結構だよ」
対するスヤサキは笑顔で返した。
「まぁ!そんな!?お世辞だなんて本当に女の子のようだから言って差し上げたのですよ、スヤサキさん?」
さらに煽る西園寺。仲悪いのか?
「ボクからしたらそれが嫌かな、西園寺さん。前にも言ったかな?ボクは男で女の子のようだと言われるのは気持ち良くないと。意地悪を言うのはやめてほしいかな」
スヤサキは笑顔のままだ。でも声色は怒っている?
お前は隠れて全力で女装を楽しんでるではないか?何を言っているんだ?
「あら、本当に似合いそうですもの。いえ、絶対に似合いますわ。
私のワンピースを一着、差し上げてもよろしくてよ」
西園寺は体をひねり、自分の着ている白いワンピースをひらひらと見せつけた。それを見た西園寺のとりまきたちは「わぁぁ」と揃って感嘆の声をあげるのだった。
「ボボボッ、ボクがワンピースなんて…き、着るわけ無いだろ!」
どことなくワンピースを着たがってるように見えるなぁスヤサキ君。なんでだろうなぁ?
俺は知っている。須夜崎夜空という男は、
女装が趣味だということをな。
でもその趣味はみんなには隠している。
だから西園寺に勧められたワンピースも本当は着てみたいけど、
女装趣味がバレたくないから嘘をついて、拒否しているのだろう。
自分の女装趣味がバレないように徹底的に男を演じているようだ。
「ならこうしましょう!ワタクシが貴方に勝負を挑みますわ!
負けた者は勝った者の言うことをなんでも一つ聞くんですわ!」
「い、いいよ。その勝負、受けて立つよ。
あとで吠え面かいても知らないかな!」
挑まれたスヤサキはそれを承諾し、勝負を受けるつもりだ。
熱い展開じゃねえかよ。
俺は今、漫画でしか見たことない展開にテンションが上げ上げだ。
「いい度胸ですわ!吠え面をかくのはあなたの方ですわ!スヤサキさん!」
バチバチと火花を散らす二人。とりまきたちもお互いにバチバチだ。
「ところで今回はどんな対決にするんだい?」
「そうですわね〜」
二人は手帳を取り出し何かをチェックしている。
「先月は確かオリジナル紙芝居対決ですわ」
何だそれ?お前たちそんなことしてたの?
「そうだったね。大学近くの公園で遊んでいる子どもたちに、
ゲリラ的にやったあの勝負。まぁボクの圧勝だったけどね」
「くっ!今思い出しても悔しいですわ!
ですが、今回の勝負は負けませんわよ!今回はお料理対決ですわぁ!」




