《第一話 兎姫のお茶会》
やっと終わったな。関教授の長話」
俺は開口一番に傑にそう言った。
「ス◯◯バーグの話になると授業をそっちのけで語りだす、ス◯◯バーグ大好き人間だからな」傑はうんざりといった感じで俺の前を歩く。
「ス◯◯バーグ大好き人間って言っても限度があるだろう?」
俺も傑と一緒にうんざりしている。
こんな時はこのうんざりした気持ちをスッキリさせる物を食べたい。
早くス◯◯バーグのことを忘れたい。
ス◯◯バーグ、ス◯◯バーグ、ス◯◯バーグ…なんだかハンバーグが食べたくなった。
ハンバーグはどっちかと言うとスッキリというかガッツリしているが、まぁどっちでも良いだろう。
「まっ!昼飯食べて気分を変えようぜ」
と傑が爽やかに言った。
傑も俺と同じ気持ちだった。
何か食べてこのうんざりした気持ちをスッキリさせたいと思っているんだな。
我が友よ。ハンバーグが良いぞ、ハンバーグが。
傑との昼食を終えた後、傑は午後から家の用事があると言い、大学をあとにした。
俺は午後からの授業を一つ受けた後、
休憩をとりに大学構内にある中庭に行った。
きょうは天気も良いので散歩をすることにした。
この大学の中庭は結構広い作りになっていて、噴水なんかもあったりする。
他にもレトロな街灯が並ぶ道や小さな池があり、
その池には石橋もかかっている。
これらはすべて映画の撮影で使われている街の景観をしている。
映画撮影のセットとして、この中庭で映画の撮影ができるというわけだ。
さすが、映画作りを学ぶ大学だ。
俺は空いているベンチを見つけたので、座って休憩することにした。
このあとどうするかとスマホを見ながらダラダラとしていたら、
目の前の芝生スペースに数人の女子が集まり、かたまりになって談笑し始めた。
談笑しているかたまりの輪の中心には、
一人の人物がいる。
その人物は容姿端麗で背が高く、
髪型はショートボブで可愛らしくまとまっている。
どこか上品で落ち着きがある女性だ。
「ミトお姉様。今日も麗しいですわ〜」
「本当に素敵なお召し物ですわ〜」
そう言われる”ミトお姉様”は真っ白なワンピースを着ている。
とてもエレガントで、まさにお嬢様だ。
「ワタクシ、クッキーを焼いてまいりましたの。
良かったら皆さんで食べませんこと?」
ミトお姉様は膝の上に置いたバスケットを開けて、
自分で焼いたクッキーを自慢した。喋り方も間違いなくお嬢様だ。
「わ〜、美味しそう」
「ミトお姉様の手作りクッキーが食べれるなんて幸せです」
とりまきの女子たちは瞳を輝かせ、ミトお姉様を見つめている。
「でも本当にいいんですか?」
「ええ、もちろんですわ。さぁみなさん、遠慮なさらず召し上がって」
とりまきの女子たちは、ミトお姉様からのGOが出たので、次々とバスケットに手を伸ばす。
「美味しいです」
「さすが!ミトお姉様!」
「私、こんな美味しいクッキー食べたことありません」
あどけない笑顔を浮かべながら、自作のクッキーを振る舞うミトお姉様。
そのミトお姉様自作のクッキーを食べて、舌鼓を打つとりまきの女子たち。
俺はそのいかにも、漫画の世界のお嬢様学校で、行われているような午後のお茶会の光景が、物珍しくてマジマジと観察していた。
なるほど、ああやってとりまきの女子たちはお嬢様のご機嫌を取るのか。
俺は脚本の役に立つと思い、お嬢様たちの会話をノートにメモをしていた。
何事も勉強、他人は皆教師である。メモメモ。
メモに集中していた俺は、誰かがそばに近づいているのに気が付かなかった。
「ごきげんよう、真神さん。いいお天気ですね?」
「お!あっ、ああ。こんにちは西園寺。いい天気だな」
話しかけてきたのは、とりまきの女子たちから「ミトお姉様」と呼ばれていた人物。
名前を「西園寺魅兎」という。
通称「ミトお姉様」だ。
俺とは同学年だ。
「真神さんもお一ついかがかしら?」
「おう、サンキュー。いただくよ」
サクサク。噛んでみるといい音がした。
「うん、美味い」
「紅茶もいかがかしら?」
「紅茶も良いのか?」
「ええ、もちろんですわ」
いつの間にか俺の隣に座っている西園寺は、
ティーカップセットを用意して、本格的に紅茶を淹れてくれた。
どこに隠し持っていたんだ、そのティーカップセット。
「はい、真神さんどうぞ」
「サンキュー、ふぅ〜」
もらった紅茶を一口すすり、一息つく。
うん、紅茶も絶品だ。
「ところで西園寺?」
「なにかしら?」
「なんで俺にクッキーと紅茶をくれるんだ?」
俺は突然出されたクッキーと紅茶を食べてしまったが…おかしい。
俺は西園寺にクッキーと紅茶をもらえるようなことはしていない。
「真神さんがこちらをジッ…と見ていらしたから〜ワタクシの焼いたクッキーを召し上がりたいのかと?」西園寺はニコッと笑って言った。
「あ、ごめん。ああいう場面を見るのが珍しくてさ」
「ああいう場面?」
「お嬢様のお茶会というか、ティーパーティー的な?」
「フフ、あらそうですの。よろしかったら真神さんもご一緒しません?」
「それは嬉しいんだが、あちらのお嬢さんたちはこちらを睨んでるけど?」
少し遠くでとりまきたちは、殺人鬼の覇気を俺に向けていた。




