《第四話 犬の銅像》
このまま、迷子センターに連れて行くか?
それが一番手っ取り早いとは思うが本人を見ている限り、
迷子になって怖がったり、不安がったりしている様子はない。
本当にこの子は、お姉ちゃんの方が迷子だと思っているのかも知れない。そんなことを考えていたら、オカッパ少女がこちらをモジモジしながら見ているのに気がついた。
「ん?なんだい?」
「こわいかおのおにいちゃんのおなまえ、おしえてほしいでしゅ。
つむぎは、"あまのむらつむぎ"っていいましゅ」
怖い顔って…
子供の言うことに目くじらを立てても仕方ない。
俺は平然と応える。
「ああ!ごめんね。そうだよね、自己紹介してなかったね。
俺はまかみ ようた、よろしくねつむぎちゃん」
「ようたおにいちゃんよろしくでしゅ」
ペコリとお行儀よく頭を下げるつむぎちゃん。
「プププ。怖い顔だって真神くん」
スヤサキは口を手で覆い笑いを堪えてた。
聞こえているぞ、スヤサキ。
「上手に自己紹介できたね。つむぎちゃん」
「はいでしゅ」
可愛いな。スヤサキとはもう自己紹介が済んでいるみたいだ。
「それじゃつむぎちゃん。おねえちゃんとはどこまで一緒に居たか、覚えてるかな?」
スヤサキはしゃがんでつむぎちゃんと目線を合わせて質問する。
「ワンちゃんがいるところ」
ワンちゃんがいるところ…?
スヤサキと顔を見合わせ首を傾げる。
ワンちゃんって犬だよな?
「ワンちゃんがいるところってペットショップのことかな?」
「ううん、ちがうでしゅ」
「ワンちゃんって誰かのペットなのかな?」
「ちがうでしゅだれのものでもないでしゅ」
「野良犬かな?」
首を横に振るつむぎちゃん。
「ワンちゃんはずっとおなじところにいるでしゅ。あめのひも、かぜのひも」
雨の日も風の日も同じ所にずっといる?動けないように縄で繋げられているのか?
どこかに繋がれて、放置されてる犬を想像した。
つむぎちゃんがたまたま見たときに繋げられているところを目撃したってことか?
いやそれだと雨の日も風の日もなんて言うかな?
「つむぎちゃん、もしかしてそれって忠犬ハチ公の銅像のことかな?」
スヤサキはスマホいじり、画面をつむぎちゃんに見せてあげた。
「ほら、このワンちゃんの銅像のことだよ」
「ああ!このワンちゃんでしゅ!」
ガシッと両手でスヤサキのスマホを握り目を見開いて言うつむぎちゃん。
「なるほど。雨の日も風の日も、ずっと同じところに居るワンちゃんって、忠犬ハチ公の銅像のことだったのか…」
銅像って言ってくれても良かったんだよ、つむぎちゃん。
「つむぎとおねえちゃんはこのワンちゃんのところにいっしょにいたでしゅ」
「そうなんだね。わかった、とりあえずそこに行ってみようか。それでいいよね、真神くん?」
「ああ、それでいいぞ。もしかしたらつむぎちゃんのお姉さんが近くにいるかも知れないしな」
ここからハチ公の銅像があるハチ公前広場はそんなに遠くはない。渋谷駅に戻るだけだ。
つむぎちゃんから目を離さないようにスヤサキはつむぎちゃんと手を繋いで歩き出す。
案外こいつは子供好きなところがあるみたいだ。なにやら軽やかに歌を歌いながら歩いている。
「「まいごのまいごのこねこちゃん♪あなたのおうちはどこですか?〜」」
歌ってる歌は童謡の「犬のおまわりさん」だ。
幼稚園児らしい選曲だがその歌って確か、迷子の子猫ちゃんは結局迷子のままで終わるんじゃなかったか?まったく困ったおまわりさんだ。
犬なのに鼻が効かないのか?
犬のおまわりさんのようにはならないよう、必ずつむぎちゃんのお姉さんは探し出すと心に決めた。
自力で無理だと判断したら、本物のおまわりさんに頼ることになるかもしれないが…
ハチ公前広場に到着した。相変わらず人の多さは変わらない。
この中からつむぎちゃんのお姉さんを探すのは、骨が折れそうだな。
「どう?つむぎちゃん。おねえちゃん近くに居るかな?」
「…いないでしゅ」
周りをキョロキョロしながらつむぎちゃんは言った。
少しだけ元気が無くなったように見える。
無理もない。こんな小さい子が都会で家族とはぐれてしまっては不安になるだろう。
「ねぇつむぎちゃん、お姉さんと他にはどこか行かなかったかな?」
「いったでしゅ」
それから俺たちは、つむぎちゃんの記憶を頼りに色々な場所につむぎちゃんのお姉さんを探しに行った。
まずは、ゲームセンターからだ。
一階はクレーンゲームが充実したエリアになっている。某モンスターゲームのぬいぐるみ、アニメのフィギュア、お菓子落としと様々。
そして本当に当たるのかどうか怪しい、景品がゲーム機のクレーンゲームもある。
二階は、音楽ゲームやコインゲームのエリアのようだ。
三階まであるみたいだけど、三階は格闘ゲームがメインのエリアになっていて、女性が幼稚園児を連れて遊びに行くとは考えられないからパス。
つむぎちゃんはゲームセンターに入るなり、一直線にクレーンゲームコーナーに向かっていった。




